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第92話「ちゅーはまだ」

「そんなこと言われると調子乗るんだけど、、」 「たまに今更なこと言うよな」 「チューしていいってことですか!?」 「そうとは言ってない!!」 「ウッ!!」 ドスッとまた綺麗に腹への蹴りが決まった。 「分かった、ちゅーはだめね、分かった。まとめさせて、この状況をっ」 芽依は鷹夜の上から退くと、腹を押さえながら彼の隣に寝転んだ。 ドタ、と脱力した振動が微妙に鷹夜の背中に伝わってくる。 蹴りの入った鳩尾がジーンと痛み、芽依は一度低く唸ってから、隣にいる鷹夜と一緒に天井を見上げた。 「俺のこと、好きになれるとは思うってこと?」 しばらく沈黙した後、ポツリとそれだけ芽依の口から溢れ、鷹夜は口を結んだまま目を閉じた。 「、、、、、、、、、多分」 「希望うっす!!」 あはは、と声を上げて芽依が笑うと、申し訳なさそうな表情を浮かべていた鷹夜はまたため息をつく。 芽依は気楽でいるようだが、これはある意味どちらにとっても大きな壁になるし、進む方向を間違えれば大スキャンダルだ。 「鷹夜くん」 「なに」 頭を傾けて芽依の方を向くと、あちらもこちらを見つめていた。 竹内メイの顔と、小野田芽依の澄んだ瞳はやはりどこまでも美しく整っている。 「好きだよ」 「っ、」 本当に分かっているのだろうか、この男。 その言葉を聞いて一瞬驚き、そしてときめいてしまったものの、鷹夜はすぐにぶすくれた顔をして彼を睨んだ。 「もし付き合えても、絶対バレないようにしないといけないの分かってんのか?」 「んはは、それな。まあ確かに前回は最悪な形で世間に知れ渡って散々叩かれたけど、、あれは相手が相手だったし」 「今度の相手は男だぞ。一瞬干されるだけじゃ済まないんじゃないんですかねー」 「うーん」 芽依は考え込むような声は出しているものの、表情には曇りがない。 天井を見上げて何度か瞬きをすると、長いまつ毛がフワフワと揺れた。 「そうかもね。でも、もうそこはさ、色々考えてもいるし。それにバレる気もないし」 「ふーん」 根拠のない芽依の自信に、鷹夜は不安げな相槌をうつしかなかった。 「、、そばにはいていい?」 「ん。別に嫌いじゃないし」 「キスはダメ?」 「、、できなくもないけど、気持ち悪いとしか思えないかもしれない」 「そうだよね」 「何でそんなにしたいの」 見上げた天井は白い。 今度は窓の外から救急車のサイレンの音が聞こえてきた。 28℃に設定した室温は少し涼しいくらいで、体調の悪かった鷹夜にとっては丁度いい。 水分の多いお粥を完食し、芽依が買っておいてくれたスポーツドリンクも全部飲んだからか、彼の身体からは完全に怠さは消えていた。 「好きだから、はもちろんあるんだけど、この間無理矢理したのが、、何か。申し訳なかったのと、鷹夜くんとの初めてのキスだから、もっとこう、ロマンチックな感じでしたかった」 「何言ってんのホント」 はあー、と長いため息。 その後に、クックックッと鷹夜が笑い出した。 「え」 「ふはっ、ふふっ、はっはっはっはっ!」 「なに」 「ロマンチックって!いやでも、ほら、俺だったから冷めただけで、ドラマだったらあのシーンすごい視聴率取ると思うよ?」 そう言った瞬間、鷹夜の顔面にバシン!と芽依の大きな手が降ってきた。 「いってえ!!」 鼻を強打され、思わず大声を上げる。 「なに!!」 眉間に皺を寄せ、不愉快そうな顔で芽依の方を見たが、向こうは向こうで随分と不機嫌な表情をしていた。 「視聴率はいらねーよ。鷹夜くんが俺のキスにうっとりしてるのが見たかったんだよ」 「カッ!!」 「か?」 「竹内メイ怖ッ!!何言ってんの俺相手に!!」 「ねえもう少し雰囲気大事にして来んない!?」 まったく色気のない鷹夜の反応に今度は芽依がため息をついた。 「もういいやあ、はあ。とりあえず、寝る?」 「俺もそれ言おうとしてた」 1時半近くになっていた。 眠気がぶり返してきた鷹夜と仕事の疲れで睡魔に負けそうになっている芽依はお互いに顔を見合わせて笑う。 ふあ、と先に大きな欠伸をしたのは鷹夜の方で、歯磨きが終わると夕飯の片付けは明日に回し、風呂に入るのも体調を考えて一応明日にしようと言う事になった。

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