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第91話「アリ寄りのナシ」

「は!!な!!れ!!ろ!!」 中々に手を掴まれた状態で足を上げるのは体勢的に辛い。 普段あまり使わない腹筋を使うせいだ。 「好きです!!」 「だからあッ!!」 ここぞとばかりに推しの強さを見せつける芽依に、鷹夜はワーワー言いながら抵抗している。 話を聞いていない訳ではなく手を離して欲しいだけなのだが、芽依は必死になり過ぎていて力が抜けないのだ。 「好きで好きでもう抑えられない!!キス思い出すと勃つし!!」 「え!?」 一瞬、思わず彼の股間を見てしまった。 「彼女とはちゃんと別れたんだって!!付き合ったの自体が2週間ないくらいだったけど、キス1回だけでその後はえっちもしなかった!!」 「ええ!?」 あの天下の竹内メイが、、? と鷹夜は口を大きく開ける。 「分からなくてもいい、俺は鷹夜くんが好きなんだ!!」 「お前は竹内メイだぞ!?ただの恋愛だって熱愛報道とかになって大騒ぎされるのに男の俺と付き合ってどうすんの!?」 「付き合ってくれんの!?」 「ちーーげーーーぇええええ!!!」 ドスッドスッといい加減離してもらえずその場に寝転がりながら芽依を蹴り続ける鷹夜。 深夜1時の騒動に、幸いにも近隣からの苦情や壁バン等の抗議活動は起きていない。 「だから言っただろ!!それは俺の責任で俺がどうにかするもんなの!!鷹夜くんは心配しなくていい!!俺の気持ち聞いてどう思ってんのかだけ教えて!!」 「断る!!」 「ああああああ!!竹内メイをフりやがったこの男!!」 寝転がっている鷹夜の上に、泣きそうな顔をした芽依が覆い被さってくる。 「重い!!」 「断られるのも想定内だったけど、やっぱしんどい」 「うっせえな諦めろ!!」 「りなって子と付き合ってんの!?だから!?もう好きなったの!?だから!?」 「あ、、ッ」 「え?」 その質問を叫んだ瞬間、鷹夜の蹴りがピタッと止まった。 キョトンとした顔の芽依は鷹夜の顔の横に挟むように両手を置いて体を起こし、彼を見下ろした。 「、、付き合ったの?」 「いや、ちが、、そうじゃない」 「?」 騒いだせいだろうか。 鷹夜の顔はまだ赤く、ぎこちなく視線が逸らされてテレビの方を向いてしまった。 「まさか、結婚、、?」 「ちげーわ」 「じゃあなに、どしたの、りなさんは?」 もぞ、と口篭った後に、はあ、とため息が聞こえた。 諦めたような視線が芽依を見上げ、彼の美しい目を見つめる。 「付き合ってないし、もう連絡取ってない」 「え、」 「アプリ、やめた」 「っ、、、じゃ、じゃあ今は、フリーってことだよね?」 「まあ、そうだね」 嫌そうな声だ。 「もし、」 「ん」 「もし、時間かけたら、、俺と付き合ってくれる可能性は、ありますか」 「、、、」 「駄目なら、、ちゃんと距離を考えた友達になるから。もう下手なことしないから」 必死な芽依は慎重に言葉を選んで鷹夜に問いかけた。 鷹夜の顔の横についた手が微かに震えている。 それは先程テレビの方を向いたとき、鷹夜の目にも入っていた。 いつも通り急で勢い任せはところはあるものの、彼が全部ちゃんと考えて行動してからここに来たのだと言う事は何となく理解できる。 「、、、」 誠意は伝わってくる。分かっている。 けれどやはり、相手はどう見ても男で、鷹夜からすると言ってしまえば今田や湯島のような存在なのだ。 歳下で元気な友達、後輩、弟。 今はまだ、その域から出ることはない。 「鷹夜くん」 「っ、、」 でも、見上げた先の真剣な目を素直に見返せないのは何故だろう。 割り切って「無理」と突き放す事は簡単なのに。 (アプリやめたのは、、何となく以外の何でもないんだけど、) けれど少なからず、彼の存在に左右されたからやめたのだ。 「、、今は、無理」 「うん」 「でも、」 ああ、本当に俺が好きなんだ。 芽依の目を見ていれば分かる。 今までの行動や、久々に会った今日の芽依の変わりようを知っている分、納得できる。 こんな目をする人間が自分を騙す筈はない。 人生で何度か見たことがある、恋をしている人の目だから。 「好きになれる、、気は、する」 嘘偽りのない、精一杯の言葉だった。

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