90 / 142
第90話「聞いてください」
「ごちそうさま!」
「全部コンビニだったけど、、でも良かった。顔色良くなったね、鷹夜くん」
ニヒ、と笑った芽依に返すように微笑んで鷹夜も頷いた。
「色々ありがと。ごめんな」
「ごめんは言わなくていいからさ」
「ん。で、話しって、どうすんの?」
芽依の胸がギク、と鳴った。
このまま眠るわけにもいかなかったが、時間の遅さも考えたりしていてタイミング良く切り出せずにいたのだ。
今なら、と先に話題を振ってくれた鷹夜の方を振り返り、器や容器をキッチンに置いた芽依はグッと唾を飲み込んで、緊張した足取りで鷹夜のそばまで近づいて座った。
「何から話せばいいんだろ、、えーと、」
視線がザワザワと泳ぐ。
鷹夜はキョトンとしながら芽依の瞳を見つめ、その定まらない視線の先を追っている。
「あのー、えーと」
「うん」
「ごめん、本当にごめん、待ってね、頭パンパンになってきた」
「大丈夫、待つよ」
変な空気だ。
「んーと、、俺ね、」
「うん」
「ジェンのこととか、色々ある。色々あるんだけど、もうそれは関係なく考えてる」
「うん」
伝えたい事がはっきりとあるけれど、どう伝えたら誤解なく彼に届くだろうかと芽依は頭の中で試行錯誤していた。
ドラマで用意されたような完璧な台詞は思い付かない。
鷹夜の心を自分のものにする甘い言葉も呟きも浮かんでは来ない。
正座をして、膝の上で拳を握り締めるとカタカタと震えた。
「ジェンのことは関係ない。それから、彼女とは別れました」
「えっ、何で」
「ちゃんと謝罪した。もちろん、全然許してくれてないし許されるとか言うあれでもなくて、俺がとにかく悪いだけなんだけど、とりあえず置いといて聞いて」
「あ、うん、、」
ゴク、と唾を飲む音が芽依の喉から響く。
窓の外から、目の前の通りを車が走る音がした。
2人だけの部屋の中はシン、としていて、鷹夜はこれから芽依が口にする言葉など想像ができていないのだろう。あぐらをかいてカーペットに座りつつ、芽依が力のこもった瞳で見つめてくるそれに首を傾げている。
「もう、友達じゃなくていい」
「え」
芽依の言葉は重たくて、鷹夜は一瞬ショックを受けて彼を見た。
けれど、その真っ直ぐで曇りのない視線は重々しさなんてひとつもなく、ただただ綺麗な色をしていた。
「友達としては、見て欲しくない」
「、、ん?ん?どゆこと?」
そして次に聞こえた芽依の言葉に、まさかな、と思いながら一瞬白目を剥いた。
「恋愛対象として見て下さいッ!!」
「、、はあ!?いや、え、お〜〜〜〜い??」
まさか、が大当たりしてしまった。
冗談にも思えなかったが、半笑いになりながら鷹夜は芽依の顔の前で手を振る。
「おーーーい??大丈夫?大丈夫だよね?」
「頭大丈夫ッ!!心配してくれてありがとうッ!!」
「ぐあッ!!」
ブンブンと振っていた右手の手首をガシッと掴まれ、突然過ぎる行動に声を上げた。
芽依は顔が真っ赤で、鷹夜はよく分からない状況に開いた口が塞がらない。
「俺、もう鷹夜くんに頼る気はない。1人の人間として、社会人として自分の脚で立つ。ぐだぐだ甘えるのはもうやめる!!だから、」
「手を離せッ、手を!!」
「だから!!」
腕を握ったまま、芽依はズイ、と鷹夜に身体を近づけた。
膝立ちをしながら両手で彼の手を包み込み、「好きです」と言う気持ちを込めて彼を見下ろす。
「これからは、下心を持って鷹夜くんに優しくする!!誰よりも優しく、大切にして絶対傷付けない。だから、こいつは下心があるんだって思いながら、俺に優しくされて欲しい!!」
「な、何言ってんの真面目に。男同士だよ!?」
「でも好きなんだよ!!誰よりも!!俺は!!鷹夜くんが!!」
「彼女いたくせに!!」
「別れたんだってば!!」
「そうだけども!!」
ガッシリと握り込まれた手を離させようと鷹夜は芽依の手に手をかけ、思い切り引き剥がしにかかる。
だが思ったよりも握力が強い。
そして何より自分を見下ろしてくるこの目。この顔。
(竹内メイ怖すぎるッ)
堪らなく美形だ。
正直、クラッとする。
一部の男性ファンから顔射したい・されたいと言われているのも頷ける。
「存在に顔射(感謝)する」と言う訳の分からない言葉が生み出された面構えはどこから見てもどんな表情でも美しさは失われない。
「貴方と向き合いたい」
「っ、」
ボン!!と音が出そうな勢いで鷹夜の顔が真っ赤に染まった。
「貴方と一緒にいたい。貴方だけに優しくしたい」
「っ、」
「俺に絆されて!!絶対落とすから!!」
「訳わかんねえなマジで!!」
ドスッ
「うっ、!!」
とうとう座ったままの鷹夜が足を上げ、芽依の腹を蹴りながら体を離そうとする。
だが、それでもびくともしなかった。
ともだちにシェアしよう!