98 / 142
第98話「家族の話し」
8月14日、土曜日。
芽依の家に鷹夜が来ていた。
「と言うことで、せっかくなのでおしゃんなお土産を教えて下さい!!」
「ん〜〜〜、任せろッ!!」
今田の話しを思い出した彼は買い忘れていた久々に帰省する実家へのお土産を芽依に選んでもらう事にしたのだ。
どうせなら芸能人の食べているものを食べてみたいと言う興味もある。
芽依は特に自分の実家には帰らないらしい。
1ヶ月に一度は祖父母と電話したりしている等家族仲は良く、東京の田舎出身という事で車でなら都内から1時間半程で帰れるそうだ。
だから年末年始以外は気を遣う事がないのだと言う。
「鷹夜くんてご家族何人いんの?」
「んー、両親と妹、弟、ばあちゃんだから5人で、妹の旦那もいるから6人かな」
エレベーターを降りて地下駐車場に入ると2人は芽依の車に乗り込んだ。
車内は相変わらず良い匂いがする。
鷹夜がカチッとシートベルトをとめたところで、車はゆっくりと走り出した。
「あ、妹さん結婚してんの!?」
「29だよ。結婚しとるだろ」
「お、弟さんは、、」
「弟はまだだよ。26歳で芽依くんより年上」
「おお」
何が「おお」なのかはよく分からなかった。
実家に芸能人でもある芽依を連れて行くのは緊張するが、それよりも鷹夜は自分を好きだと言って来ている男を連れて行くのだと考えた方が緊張した。
日和は何度か実家に連れて行った事があった。無論、プロポーズを断られた事は家族全員が知っている。
妹の旦那にまで筒抜けだ。
隠しておきたいとも思ってはいないので構わないが、流石に彼女がいなくなって急に友人の男を連れて行くのは怪しまれるだろうかと言う不安も浮かんできている。
ゲイになったのか?と思われたりするだろうか。
(まあ別になあ。俺が今更ゲイになったところで、とやはり思ってしまう)
鷹夜は先程近くのコンビニで買っておいたお茶を開けてひと口飲んだ。
「とりあえず銀座でも行く?んーと、最中、おはぎ、プリン、あとは、焼き芋とか。あ、フルーツゼリーおいしいとこもあるよ」
「流石にすごい知ってんな」
「差し入れとか買ってくからね〜。でも大体は泰清か中谷に教えてもらったとこだけど」
芽依は会ってからずっとニコニコしている。
鷹夜はそんな彼を見ては口元を緩めていた。
明らかに、彼は鷹夜と一緒に出かけられる事、鷹夜の実家に泊まりに行ける事が嬉しいのだ。
気に入っていると言っていたTシャツを着ているし、買ったばかりのサンダルを履いている。
人の実家に行くのは流石にやめておく、と言われるかなと少し警戒もしつつ誘った鷹夜だったが、結果的に芽依が楽しそうで何よりだった。
「酔ったりしたら言ってね。休みながら行くから」
「あいよ。ありがとう」
鷹夜の実家は静岡だ。
お土産を買った後は、2時間半の車の旅になる。
新幹線で行けば良いだろうとも言いたかったが帰省ラッシュの中に「竹内メイ」が現れてしまっては大騒ぎになる事間違いなしだ。
2人で相談した結果、やはり芽依が車を出すと言ってくれたのだ。
渋滞にはまる事には間違いがないが、それでも快適に過ごせるうえ、何より人の目を気にしなくて良い。
鷹夜的にも芽依的にもこれが1番楽だった。
「ま、ま、ま、、えー、真っ昼間」
「またマ!?、、豆」
「めー、、めだか」
高速に乗ると2人はいきなりしりとりを始めた。
芽依の車は背が高く、タクシー等とはやはり視線が変わる。
近いのはバスだろうか。
実家へのおみやげは、鷹夜が最中と、芽依がおはぎを買ってくれて和菓子満載となった。
鷹夜の両親と妹が和菓子好きなのだ。
運転は鷹夜が酔わないようにと穏やかで、追い越し車線にもあまり出ず割とゆっくりと静岡に向かって行った。
「東京の田舎って流石に無人駅はない?」
「え、あるよ」
「あんの!?ホントに田舎じゃん!」
しりとりに飽きると地元や家族の話しが始まった。
芽依はずっと前を向いている。
10時に東京を出た2人は昼頃に静岡に着く予定で、いつもは仕事やその日にあった事で終わってしまう会話を今日はお互いを知る良い機会だとばかりに深い話しに変えて時間を潰していた。
「田んぼあるし、山に囲まれてる。サルとかも見に行けるし、たまにイノシシ出るし、滝とかあるし、夏は道にヘビが出る」
「ぇええ、やば!東京にそんなとこあるんだ!!」
「あ!実家の庭ね、ヘビとガマガエルが住んでんの!」
「怖くね!?」
「怖くないよ。守り神って思ってるし、その2匹いると何かお金入って来そうな気がしない?大事にしてる」
「へえ〜すげえなあ。うちは野良猫の集会所にされてるくらいだなあ」
「猫!いいじゃん!!飼ってはないの?」
「弟がアレルギーだから飼えないんだよなあ。あいつ猫好きなんだけどね」
鷹夜も芽依もゆっくり2人きりで話せるのが楽しかった。
もちろん周りの人間を気にせずに話せると言う事はどちらかの部屋にいても当たり前なのだが、いつもと違って長距離を流す車の中と言うのが新鮮でワクワクしている。
「弟さんと妹さん、名前は?」
「妹が柚月(ゆずき)、弟が碧星(あおせ)。皆んな夜関係の字使ってんだよ。柚月は植物の柚に月って書いてゆずきだし、碧星は、みどりって読んだりする方の碧に星って書いてあおせ」
「へぇ〜、何かいいなあ兄妹で揃えててオシャレで」
「そーかあ?ちょっと厨二っぽくない?」
「感じなかった。綺麗だなあって思った」
運転している芽依をチラリと横目で見ると、やはり楽しそうだった。
鷹夜はペットボトルのお茶を飲み、キャップを戻してから口を開く。
芽依の携帯電話を車と繋いでいて車内にはゆったりとした音楽が流れていた。
「ありがと。芽依くんの兄妹は?」
「うちは姉と妹」
鷹夜も芽依も、お互いの兄妹の話しをきちんとするのはやはり初めてだった。
興味がなかったわけでもないが、触れて良いのかが分からずにお互い聞いたりしなかったからだ。
「姉ちゃんは晃(あきら)ちゃん。妹は涼(りょう)ちゃん」
「ん?名前カッコ良くね?」
「めっちゃややこしいんだけどさあ、姉ちゃんが生まれる前に、ほら、エコー写真?お腹の中の赤ちゃん見るの」
「あ、うん。あれな」
「それで見たときにちんこあったんだって。そんでアキラって名前付けたの。で、生まれてみたらちんこついてなかったんだって」
「あ〜、なるほど!男の子だと思ってたらってやつな!たまにあるよなそう言うの」
ぽん、と鷹夜が左手の手のひらに右手で作った拳を落として納得した。
「そう。でね、俺がお腹にいたときは、ちんこなかったんだって」
「いやいや、まさか」
「産んでみたらちんこついてたの」
「フハッ!!やば!!2連続!?」
鷹夜が顔をクシャッとしながら笑う。
「いや、2度ある事は3度ある」
「え、まさか、」
「そうです。涼ちゃんのときもちんこあったのに産んだらなかったの」
「ええッ!?やばくね!?え!?全員性転換!?」
「ホントそれ!!マジで!!だから全員名前が反対っぽくなっちゃったの」
「あはははっ!すげぇじゃん!!おもしろ!」
段々と車が増えて来て、車間が狭まって来ている。
どうやら少し先が渋滞になっているようだ。
ともだちにシェアしよう!