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第113話「昨日のえっちなこと」

「ねー」 「、、、」 「ねーえー」 「、、、、」 「ねえねえねえねえねえー!!鷹夜あ〜!!」 「うるさいッ」 久しぶりに実家の車を運転していて、鷹夜は集中したくて助手席の芽依にそう怒鳴った。 よく晴れた昼前の静岡は海がキラキラと眩しく、清々しい風が熱く差し込む陽射しの中を縫う様に吹き抜けている。 「ねえー!海鮮丼まだ〜?」 「ま!だ!!」 芽依はずっとニヤニヤしながら、運転している鷹夜の横顔を見つめている。 午前10時過ぎに起きた2人は、朝食は抜いて出かけ、昼飯を豪華に海鮮丼にしようと言う話しになった。 もちろん、鷹夜が目覚めて1番最初に目に飛び込んで来たのはベッドに胸から上を乗せ、また自分の手を握ったまま眠っている竹内メイの整い過ぎた寝顔だ。 朝から心臓に悪いな、と思いつつ起き上がると、頭の中にはやはり昨日の夜の事が思い出されて胸が苦しくなった。 (あ〜〜〜、眠かったからとはいえ昨日の俺はなんてことされて、なんて声出してたんだ!!) (あ〜〜〜、昨日の鷹夜、本当に可愛かったなあ!本当大好き!あ。違う違う、早く付き合ってもらわないと) 各々昨日の夜の一件を思い出して別々の意味で悶えつつ、目的地であるマグロが大盛りの海鮮丼が売りの店までの道を行く。 明日はお互いに仕事がある為、今日の16時頃には鷹夜の実家を出て帰る予定だ。 「何で朝から俺の顔あんま見ないの?」 ニヤついたまま芽依が聞く。 「別に」 「思い出す?昨日のえっちなこと」 「っ、、運転できなくなるからその話題やめろ」 キュ、と唇を結んだ鷹夜の表情を見て、芽依はフ、と笑った。 朝、先に起きた鷹夜がベッドから降りる振動で目が覚めてから、芽依が「おはよ」「ねえ」「鷹夜〜?」と予定を決める以外で話しかけても、返事はくれるもののあまり目が合わなかった。 別段芽依はそんな事では傷付かず、逆に完全に照れ隠しをしている鷹夜に対して「むふ」と笑みが浮かぶだけで、今の今までわざと「昨日のこと気にしてる?」と聞かずにいたのだ。 「俺はずーっと思い出してるんですけどね」 「う、」 「可愛かったなあ」 「あーーー!!うるっせえな!汚いおっさんの喘ぎ声聞かせて悪かったよ!!」 「だから何でそうネガティブなの。可愛かったって言ってるじゃん。最高だったよ?また見たい」 「そう言うの言わなくていいって!」 「言わないと伝わらないでしょ、鷹夜には」 「ん"ー、、」 鷹夜はバツが悪そうな顔をしている。 「最高だったよ」 するん、とハンドルを握る左手の甲の突き出た骨を、芽依は愛しげになぞった。 鷹夜の左手の小指がピクンと動く。 「もういいって、、」 不機嫌そうな声に、手の甲から視線を上げて運転している彼の顔を見ると、真っ赤に染まっていた。 「、、、」 好きだなあ。 芽依はその顔を見てぼんやりしてしまった。 彼自身が凄く久々なのだ。 こうしてゆっくり誰かの隣にいる事も、誰かと旅をする事も。 何より何も考えず、ただ好きだ好きだと思いながら誰かを愛していく事も。 「好きだ」 ポツ、と口から溢れた言葉に何故だか芽依の方が泣きそうになった。 もう人を愛する事なんてないだろうとまで思い詰めていた自分が、まさかこんなに好きになる相手ができるとは思っていなかったからだ。 鷹夜を好きでいるこの時間があまりにも愛しくて、楽しくて、幸せで堪らない。 「、、何か、」 「ん?」 鷹夜は赤信号で車を停めた。 冷房をつけた車内は涼しいが、窓から入ってくる日差しは熱い。 そう言えば、ドラマの撮影の途中なのだから芽依は日焼けを気にしなくていいのだろうか?と鷹夜は一瞬考えた。 「芸能人なんだから、もっと汚い手で来て欲しかった」 ボソ、と独り言の様に呟く。 「えっ、何それ!どゆこと!?」 「別にーー」 「ねえってば!」 うるせーな!と鷹夜が笑った。 海鮮丼を食べ終えた。 鷹夜はマグロの赤身と中トロがたっぷり乗った中心にいくらとウニが置かれたものを。 芽依はマグロ、エビ、イカ、鯛、煮穴子などがどっさり乗ったものをそれぞれ食べた。 無論、SNSには載せないが、芽依は旅の記念に、とテーブルに乗った2つの丼とその向こうにいる鷹夜の写真をこっそりと撮っておいた。 しばらくドライブして景色を楽しみ、満足いったところで鷹夜の実家に戻る。 あっという間に14時半を過ぎていた。 「もう帰んのかーーー、嫌だ」 「ふはっ!やなのかよ」 「鷹夜といたい」 「帰っても遊べるじゃん」 「ちっげ〜〜!分かってないねえ鷹夜くん。出掛けてぇ、遊んでぇ、同じ家に帰る。これが良かったの〜」 身振り手振りを付けて多少大袈裟に表現し、芽依はいかに鷹夜と離れたくないかを示す。 けれど鷹夜は全部笑って返し、上機嫌にベッドに倒れ込んだ。 「はあ、、確かに早いなあ。もう帰んのか」 「俺と離れたくないっしょ?」 「ちげーわ。実家にいたいんだわ」 「え、やめて。鷹夜が実家にいたら誰が俺と遊んでくれんの」 「友達少ないね」 「毎日会いたいって思える人が1人しかいないだけ」 鷹夜が窓際に寄っているのをいいことに、芽依もベッドの空いているスペースに倒れ込んで、無理矢理身体を入れ込んでくる。 「あの手この手で口説いてくるなあ、竹内メイ。てか、せまっ!」 「必死なんです竹内メイも。鷹夜もうちょっとそっち行って、落ちそう」 「落ちろよ」 鷹夜がそう言った瞬間2人の視線がバチッと絡み、瞬時に鷹夜は芽依をベッドの下に落とそうと手を振り上げて彼の身体を脚で押し、芽依は芽依で「やめろ!!」と言いながら鷹夜をグイグイと窓の近くへ押し込んでいく。 ベッドはギッシギッシとうるさく揺れた。 「ふはっ!おいやめろ痛い!」 「待って待って待って!マジで落ちる!あ、ヤバい、足やめて!」 「引っ張んな嫌だ嫌だ嫌だ!」 「一緒に落ちて〜〜」 「あ、マジで、あっ、、ああーー!!」 「いたッ!!」 ゴンッと見事に芽依の頭が床に当たって良い音を出した。 芽依にTシャツと腕を引っ張られ、鷹夜も続いてベッドの下へ落ち、仰向けになっている芽依の上に乗っかった。 「頭うった〜〜!芽依は重傷を負った」 「んははっ!何言ってんの軽傷でもないくらいだろ」 「チューして治して。無理。立てない」 「ふざけんな起きろ」 芽依が目を閉じて死んだフリをすると、鷹夜は上から芽依を見下ろし、軽くパシパシと頬を叩く。 一向に起きない様子を見てため息をつくと、仕方ないな、と思い切り唇を掴み、鼻をつまんで芽依の呼吸を止めた。 「、、、」 「、、、」 「、、、」 「、、っ、」 「、、、」 「、、ッ!、!!」 やがて息が苦しくなった芽依が暴れ出し、結局笑い出してしまった鷹夜が彼の上から退きつつ手を離すと、やたらと大きく息を吸って芽依も起き上がった。 「っはあーーー、ふぅーーー、はあーー、死ぬかと思った」 「馬鹿め」 「冷たっ」 そう言うとまた見つめ合って笑った。

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