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第114話「2人きりの車内にて」

「ちょっと時間かかってんな」 「ごめん、割と遅くなった」 「いーよいーよ、悪くないから謝んないで」 結局、夕飯を食べてから鷹夜の家を出た。 芽依がまだいたいと駄々をこね、柚月と碧星にも引き止められ、鷹夜がそれを許してしまったのが原因だ。 高速道路に乗って1時間半。 たびたび渋滞に捕まり、進み具合はあまり良くはない。 帰省ラッシュからの帰宅ラッシュが起きている。 「ちょっと疲れた。尻痛いや。サービスエリア寄っていい?」 「ん、いいよ。ごめんな、運転変われなくて。人の車運転すんの怖くて」 「だーいじょーぶ。鷹夜謝りすぎだよ」 夜は芽依が運転する事になるからと日中はずっと鷹夜が運転していたのだ。 ちゃんと気遣ってくれているのは分かっている。 しばらく無言が続く。 車内にはゆったりした音楽が流れていて、鷹夜も芽依もそれを聞いていた。 「ん、あった」 サービスエリアが見つかると車線を変更してするんとスピードのある流れから逸れて行く。 中々に混んでいるが、駐車場はそれでも空いていて割とすぐに車を停められた。 「芽依、売店とか俺が行く」 「ん、あ、ごめん」 鷹夜の言葉に周りを見ると、確かに人が多かった。 建物の中はごった返しているかもしれない。 芽依が「竹内メイ」だとバレる可能性が高いと思ったのだろう鷹夜に悪いな、とも思いつつ、ここは彼に任せる事にした。 「トイレ行く」 「ん」 「出たらあの辺歩いてる」 「分かった」 ぱっぱっと合流する場所まで決めるとロックを外して外へ出た。 2人でトイレに行き、用を足し終わると鷹夜は売店へ、芽依はトイレの横にある木の生えた散歩道のような所へ入った。 (ケツ痛ぇ〜) ゴスッゴスッと自分の尻を強めに叩いた。 木の間に張り巡らされている固められた道を歩き回って、ふと空を見上げる。 (あーあ、、鷹夜との旅行、終わっちゃうなあ) 日常から少しだけ離れた彼との時間が遠くなるのを、芽依はやはり寂しく感じていた。 「芽依」 「ん、、あ。ありがと〜」 少しずつ離れて立っている街灯のそばで立ち尽くしていると、飲み物の入ったビニール袋と食べ物を手に持った鷹夜が戻って来てくれた。 「ポテトとフランクフルト買った」 「え、フランクフルトめっちゃ好き」 「あとチョコとか。お茶でいいよね?コーヒーダメだろ?」 「うん、お茶がいい」 車に戻りながら、芽依は何となく1人じゃなくて良かった、とホッとしてしまった。 泰清や荘次郎と旅行をしても逆に目立ったし、ジェンとしたときもファンに追っかけ回された記憶がある。 1人でフラッとドライブしてもそうだった。 けれど今は鷹夜がいて、彼なりの感覚や常識で動いてくれる。 (1回くらい気付かれると思ったのに、1回も何もなかったもんなあ) 少し出掛けても、ヒソヒソ声で「あれ竹内メイじゃね?」などと言われる事には慣れていたのに、今回の旅行は全くそれがなかった。 いい意味で、鷹夜と言う人間の普通さに芽依が巻き込まれているのだろう。 芸能人オーラを消してくれると言うべきか。 車に戻ると、ドンッドンッとドアを閉めた。 「はあ〜、腹減ってたあ、いただきまーす」 「夕飯あんま食べてなかったもんね。腹痛かったの?」 「ううん、何か寂しくて胸いっぱいで食べれなかった」 「何言ってんのホント」 鷹夜から渡されたポテトとフランクフルトを食べる。 どちらも脂の染みた味だがそれが美味い。 「、、鷹夜」 「んー?」 サービスエリアの売店やトイレが繋がってできた建物から少し離れた駐車場の隅で、2人は車の中で買ってきたものを食べながら建物の明かりを見つめている。 人は中々多くいて、親子連れが手を繋いでトイレに入って行ったり、夫婦かカップルが2人でキッチンカーの前のベンチで何か食べている。 (普通だなあ、、) 芽依はそんな人達を見つめながら、何だか少し前までの自分が他人に当たり散らしていた時期を思い出していた。 (落ち着いたなあ、俺) 食べ終わったポテトの入っていた紙コップにフランクフルトの串を挿してクシャッと潰し、飲み物が入っていたビニール袋をゴミ袋にしてそこに入れた。 「鷹夜」 「んー」 「昼間のさあ、芸能人だからもっと汚い手で来てほしかったって何だったの?」 「、、、」 悪い意味だったのだろうか。 昼間に言われた不思議なひと言を思い出して問うと、鷹夜は黙って前を向いたままグシャッと同じように串を入れた紙コップを潰した。 「ん、、何か、何だろ」 ビニール袋に紙コップを入れて、袋の口を縛って足元に置いた。 車を停めてから20分程経っている。 夜は深くなるばかりだ。 「、、芽依のことだから、絶対もっと、セフレとか浮気とか、友達の女取ったとか、何股してるとか、そう言うのに溢れた世界で恋愛してたんだろうなー、と思ってね」 「うーーーんまああの、そう、、ですなあ」 芽依は答えにくそうに苦笑いしてみせた。 「だからもっとさ、汚く攻めてくるかなと思ってたんだよね。こう、うーんと。芽依ってよく笑うけどもっと、悪どく?みたいな」 「ん、、?」 「真っ直ぐ真っ正面から好きです!じゃなくて、裏から手を回し手を回し人を罠にはめる、みたいな落とし方をしてくると思ってたんだよ」 鷹夜は照れた様に笑って芽依を方を向いた。 「汚く攻めてくれたら、もっと思いっきりちゃんと断れたのにな」 「え!?俺、フラれんの!?」 「だあかあらあ、汚く来てたらな?」 お互いに何か緊張した車内の雰囲気に押され、ゴク、とお茶を飲んだ。 鷹夜も芽依も同じ日本茶だった。 「断れる訳ないでしょうが」 鷹夜は窓の外を見ながらため息混じりにそう呟き、芽依はその言葉に目を見開いて彼を見つめた。 「え」 縋る様な情けない声だった。

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