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第117話「才能がない部分もある」
「ん、、芽依、?」
自分のベッドだ、と気が付いたのは先週の夜中に洗いに行った布団の香りのせいだろうか。
目を覚ました鷹夜の視界にはいつも通りの白い天井があって、何の気なしに呟いた名前の相手はすぐに彼に覆い被さった。
「おはよ」
「ん、、、ん、ふっ」
寝起き1発目のキスは唐突で、ベッドに手をついた芽依の顔がまだよく見えないと言うのにサラッと唇を落とされてしまっている。
ちゅ、ちゅ、と角度を変えてキスされたあと、やはりねっとりした舌がすぐに口内に入ってきた。
(あったか、、)
鷹夜はまだ眠たい頭でぼんやりとそう考え、されるがままに芽依に舌を吸われる。
ビクビクッと小さく震えた肩は大きな手にゆっくりと撫でられた。
「鷹夜くん」
「ん、ぷは、、ごめん、すごい寝た」
「大丈夫。鷹夜くん家、勝手に入った」
「いいよそんなの」
唇を離した後に鷹夜が謝ると、芽依は嬉しそうに微笑みながら、すり、と鼻先を擦る。
鷹夜が寝ていたこともあり部屋の中の電気はついておらず、テレビの明かりだけで照らされていた。
「運んでくれた?」
起き上がって部屋を見回し、テレビ台の上の時計に目を凝らすと、0時半を過ぎたところだった。
「うん。疲れてたよね〜、呼んでも起きなかっよ」
「ごめん、重かったよな」
「いや軽いって。いつも言ってんじゃん、ちゃんと食べてよって」
少し眠そうな芽依は床に膝立ちをしてベッドの上に頬杖をつく。
それを見つめて困ったように笑いながら、鷹夜は芽依のサラサラな髪に手を伸ばしてポンポン、と頭を撫でてやった。
彼はこうして鷹夜に触れられることが好きなようで、すぐにうっとりしたような顔になる。
「ありがと」
「ちんこしゃぶっていい?」
「何でそうなる」
コツン、と第二関節を曲げた指の突き出た骨で額を小突かれた。
「帰らなくていいの?」
「帰んないとだねー。でも、まだ一緒にいたい」
甘えるように、芽依は鷹夜の腰に腕を絡めて脇腹の辺りに頭を押し付けた。
明日は2人とも仕事だ。
芽依は自分の家に帰らないといけない。
けれど、ここ2日間をずっと一緒に過ごした日常感を終わらせたくなくて、名残惜しくて、離れられない。
「終わっちゃうの嫌だ」
ポツ、とそんな事を言った。
「終わる?」
「楽しかったのに、お盆休み。鷹夜くんの実家行く前に戻んないかな」
「戻ったらまた告白やり直しだぞ」
「でも最後は付き合えるっしょ?」
「さあね。次は分かんない」
「えーー、、」
からかうような鷹夜の言葉に彼を見上げると、ふっふっ、と楽しそうに笑っている。
あまりにも何もかもが幸せで、芽依は「今」が過ぎ去っていくのがとても悲しく、切なく思えた。
永遠にここにいたい。
こんな幸せの中にいたい。
時間が止まればいいのに、なんて馬鹿みたいなことを考えて泣きそうになった。
「何回でも鷹夜くんに好きだって伝える」
「ん?」
「何回でも本気だって言うよ」
「、、、」
ギシ、とベッドが鳴いて、芽依が鷹夜の隣に腰掛ける。
また見つめ合うと、どちらともなく顔を寄せてゆっくりキスをした。
「好きだよ、鷹夜くん」
「ぁ、ん、、んっ」
れろ、れろ、と舌が絡む。
たまにヂュウッと舌先を吸い上げられ、鷹夜は「んっ」と驚いて声を漏らした。
真夏の夜のそんなキスに、彼は少しだけ汗をかいている。
「め、芽依、熱い。クーラーつけて」
「ついてる」
「んむっ、、ん、、温度、下げ、て」
「ダメ。鷹夜くんすぐ体調悪くなるから」
「ならな、ンッ」
言い返そうとした口を塞がれ、鷹夜の身体はゆっくりとベッドに押し倒されていく。
(あ、ダメだ、風呂入ってないから、)
これから何をされるのか。
そんな事は、芽依のキスの仕方や押し倒し方ですぐに察しがついてしまう。
鷹夜は今日はまだシャワーを浴びていない事を思い出して焦り、芽依の身体を力の入る限り強く押し返した。
「ダメッ、芽依、後で」
「どうして」
「シャワー浴びてない!汚いから!」
「そのままでいいよ。鷹夜くんの汗の匂い好きだもん」
「そういうことじゃなくて!身体に悪いし、汚いし、病気とかになったら嫌だから」
「、、気になるなら一緒に風呂入る。でも、我慢するんだからその分はご褒美ちょうだい」
「えっ」
「しない」という選択肢はないらしい、
風呂に入らず罪悪感いっぱいで行為をするか、風呂には入れるがその分の時間我慢してくれる芽依にご褒美を与えるか。
そんな2択を迫られていた。
(ど、どっちも嫌だ、、ご褒美ってろくなことじゃないだろ)
鷹夜は下唇をぐっと突き上げ、しばらく考えた。
芽依が見ていた映画がまだテレビ画面に映っていて、字幕で見ていた為に部屋の中には英語が響いている。
「僕ときて欲しい」
「貴方とは行けないわ。行ってはダメなの」
字幕を見ないでも聞き取れたのはそんな台詞だった。
「、、やっぱ風呂は入りたい」
「じゃあご褒美ね」
「ご褒美って、なに」
鷹夜の上から退き、ベッドから降りた芽依は彼に手を伸ばして起き上がらせる。
冷房をつけている部屋は乾燥していて、手を重ねるだけでシュルシュルと乾いた皮膚の擦れる音が小さく聞こえた。
「今日もお尻の穴舐めさせて」
「エッ!?」
そのひと言に、鷹夜はバッと顔を上げて彼を見上げ、心臓がバクバク言うのを聞きながら固まってしまった。
(し、尻の穴!?昨日のあれまたやんの!?)
確かに気持ちが良い行為ではある。
触られたことない部分を芽依に見られるのも羞恥心が掻き立てられるが逆に快感でもあり、加えて出す事しか知らなかったできたら誰にもそんな事をされたくなかった部分を舌で解されていくのも堪らなく気持ちいい。
だが、やはり鷹夜の中では「汚い」「病気になりそう」と言う考えが消えないでいる。
芽依と比べて鷹夜は心配性であり、ドが付く真面目なのだ。
「あれは、その、危なくない?」
「え?」
「大腸菌とかさ、、その、本来は出す為の穴で舐める用じゃないし」
「舐める用じゃない、、」
「それに俺、あれされると、変な声出るから」
「変な声が出る、、」
「うん」
「、、え、最高じゃん」
「何が??」
芽依に続いてベッドから降りた鷹夜をギュッと抱きしめ、芽依は上機嫌に首筋にチュッと口付ける。
「んっ」
「舐める用じゃない穴舐められるのなんて彼氏の特権でしょ。変な声聞けるのも彼氏の特権」
「違う違う違う、そういうことが言いたいんじゃなくて」
「じゃあこのままする?洗わない方が確かに菌とかはいるかもな〜」
べろ、と悪戯な顔をした芽依が鷹夜に自分の舌を見せた。
「こっ、このままは絶対ダメだ!」
「じゃあお風呂入って、身体綺麗にして、それからシよ」
「あーもー、、時間考えろよ」
「はーい!ほら早く早く」
根負けした鷹夜が額に手を当てて呆れると、芽依は彼の背中側に回り込み、肩に手を置いて歩かせてユニットバスの浴室に入る。
確かに時間も時間だ。
急がなければお互いに睡眠時間が確保できない。
色気もなくさっさと服を脱ぎ捨てると、芽依は2人分の衣類をヒョイヒョイと浴室のドアの外に投げ出した。
(あ、ヤバ。鷹夜くんの乳首だ)
一糸纏わぬ姿になった鷹夜の胸元を見つめ、芽依は密かに股間を硬くする。
一方で、改めて芽依の股間を見てしまった鷹夜はその大きさにブルッと身体を震わせると思わず彼に背中を向けてしまった。
浴槽に入るとバシャッとシャワーからお湯を出す。
しばらく温度を調節して浴槽の排水口に栓をすると、ダババ、と熱めのお湯が溜まり始めて足元が温かくなった。
「何でそっち向くの」
「デカすぎる、、竹内メイどういう作りになってんの」
「作りが知りたいならこっち向けばー?」
「うっせーな!心の準備中!」
悪態をついてくる鷹夜の背中を見て、芽依はニヤリと口元を緩めた。
シャワーは壁のフックにかけられ、高い位置からお湯を湯船に注いでいる。
鷹夜はその前に立っていて、鎖骨のあたりからお湯をかぶっていた。
「たーかーやーくーん」
「わっ、」
すぐそこまで迫ってきていた芽依に気が付かず、耳元で声がしたと思った次の瞬間には後ろから逞しい腕に抱きしめられる。
「鷹夜くんて乳首感じる?」
「え?うわ、やめろっ!」
どうしても鷹夜の乳首を間近で見つめ、触りたくなっていた芽依は隙をついて彼を抱きしめ、綺麗な色をしたそのピンとしている小さな突起に指を近づけた。
「無理無理無理!芽依ッ!」
暴れようとする鷹夜をガッチリとホールドし、芽依は右手の中指で鷹夜の右胸の乳首をチョン、と静かに触る。
「芽依!こら!!」
「感じる?」
「え?」
こりこりと乳首を摘んで指先で転がす。
抵抗が止んだところで反対側にも手を伸ばし、そちら側は乳首に指をくっつけたまま、クルクルと回すように撫でた。
(可愛い、、ここもいじられたことないのかな)
「、、って、」
「、、、」
「え、待って、まったく?全く感じないの?鷹夜くん?」
芽依の渾身の愛撫は、その瞬間無惨にも散った。
鷹夜は真顔のまま弄られている自分の胸元を見下ろして硬直している。
喘ぎ声ひとつ漏らさず、段々と眉間に皺が寄った彼はゆっくりと芽依の方を向いた。
「くすぐったい、かな?」
「感じてねえじゃん!!感度ZEROじゃん!!」
お付き合い初日。
最後の最後で、鷹夜の乳首が性感帯としてまったく機能していないと知った日だった。
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