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第126話「2人らしさ」

「うん。勘違いさせてごめん。そう思っても仕方ないタイミングでああなっちゃって、、」 「うん」 「でも違うんだ」 芽依は大人しく鷹夜に頬を揉まれていた。 多少の話しにくさはあるものの、多分この行動は鷹夜なりに、「逃げないよ。話しにくい話題だけどちゃんと話そう」と言いたいのだろうと思ってされるがままでいる。 しばらくすると手は止まり、温かい彼の手で頬を包まれているだけの状態になった。 (気持ちいい。落ち着く) 自分の身体のことについて、芽依は「イケメン」「俳優」「格好いい」「25歳」「アイドル」等、様々なブランドのプライドがあるせいでとても話しにくい。 ましてや緊張すると勃たなくなる、などと言うのはまるでセックス慣れできていない童貞のようで、彼からすればかなり恥ずかしい話しだった。 「鷹夜くんの身体見て、鷹夜くんにフェラしてイッてくれて、嬉しかったし痛いくらい勃った。見てたから分かると思うけど」 鷹夜は彼の頬を手のひらで包んだまま、彼の目を真っ直ぐ見ていた。 「うん」 「鷹夜くんが俺と同じくらい緊張してるのも嬉しくて、可愛くて、あーやばいなあ好きだなあって思った」 「うん」 「だけど、、あの、やたらとオモチャとかゴムとかジェルとか買ってるの見せたら、鷹夜くんちょっと引いたでしょ?」 「、、あ。」 引いた、と言う訳ではない。 けれど、鷹夜は芽依から見た自分はそう感じているように見えただろうなと思った。 あれらを見せられてから余計な緊張や力が入り、自分自身がぎこちなくなったからだ。 「あっと、、あの、引いたんじゃなくてね」 「うん」 鷹夜も芽依に話す事にした。 話さねば、どうしても互いに食い違っていた部分を誤解したまま過ごす事になりそうだからだ。 「尻で感じるか分かんないのに色々買わせちゃったし、芽依は今日セックスを最後までやるって決めてるっぽかったから、プレッシャー感じたんだ」 「え」 そして芽依もハッとした。 確かに、つい先日までずっと女の子が好きだった恋人は、急に尻に挿れられる側になったのだ。 あの実家への旅行のときだって「いれる方といれられる方はどっちがどっちか」の話しだってしていた。 鷹夜は最初からずっと、自分が「いれられる側」に立つのも躊躇していたし、「いれられる側」になってからの不安も時々口に出していたのだ。 (俺、急ぎ過ぎてた、、) 芽依はやっと、それに気がついた。 ハッとした顔の芽依を見て、鷹夜はフッと笑う。 結局、お互いの気持ちが見えなくて随分不安になってしまっていたようだ。 「ごめん、ちゃんと話せば良かったよな、こう言うこと。ここんところ忙しくてろくに連絡も取れてなかったから」 「あ、、ごめん、俺もごめん本当に」 「ふはっ、ふふ。大丈夫だよ。泣きそうな顔すんなよ。今回のはホントにお互い様だから」 芽依の眉がハの字に垂れたのを見て、鷹夜は弱ったように笑いながら頭を撫で、目元まで被っている前髪をかき上げて退かし、綺麗な形の芽依の額にチュ、と優しく口付けた。 「俺はもう少しゆっくりいきたいんだけど、ダメ?」 「ううん、ゆっくりでいい。ごめん、さっきもゆっくりで良いとか言ったのに、俺、全然急いでたんだね」 「もういいよ。大丈夫」 よしよし、と頭を撫でると、芽依は甘えるように鷹夜の胸元に顔を埋めてくる。 しばらく抱きしめ合って、お互いにふぅ、と脱力し合った。 何だかお互いの事を考え過ぎて、想いすぎて、やたらと勘違いしてこんがらがっていたようだ。 (俺達らしいなあ) 鷹夜は抱き締めた腕の中で芽依の頭がスリスリと嬉しそうに身体に擦り寄ってくる感触がくすぐったく、ふふ、と肩を揺らして笑った。 「あんね、続きを話すけど、ゴムとか見せたときに鷹夜くんがウッてした顔したから、地雷踏んだかなって思ったんだ」 「んー、ごめん本当に。そういう顔はした」 「んん、だから自信なくなって、ヤバいどうしようって思ってたらフェラするってなって、気持ち良かったんだけど、もう気持ちが焦って追い付かなくなった。こんなんで鷹夜くんに挿れていいのかな。気持ち良くさせられるかな、とか。あと鷹夜くん、急にフェラできんのかな、とか。俺の汚くないかなとか嫌そうだなあとか色々考えちゃったら、ヘニョ〜ってなった」 「あーーー、マジでごめん。舐めるのは、、汚いとかは思わないんだけど、まだちょっと、抵抗あった。でも舐めたら意外といけた」 「あ、いけたんだ」 「うん」 鷹夜は芽依のサラサラな髪を楽しそうに指ですき、絡まらないなあ、と話しながらも毛先を見つめた。 「いけたんだけど、口の中で萎えたなって思ったら、、何か色々と込み上げてきて吐いた。ごめん、、嫌だよね、自分の舐められた後に吐くって」 「んー。相手が鷹夜くんだからこそ、ちょっとショックだけど、、でもまあ。うーん。付き合ったって報告したときに、泰清に色々言われたからあんまり?かな」 「え?」 胸元から顔を離した芽依が、キスしたそうに鷹夜の唇に触れてくる。 人差し指で下唇を潰したり、ぷるん、ぷるん、と引っ掻いて遊ばれた。 少しくすぐったい。 「泰清ってコミュニティ広くてさあ。俺達みたいな同性カップルも何組か知ってんだって」 そう言えば、俳優の「窪田泰清」には芽依から色々伝わってしまっているんだったな、と彼の顔を思い浮かべる。 少し寂しそうな、元ヤンではないのか?と思う程に眉毛を綺麗に細く剃って整えている青年だ。 「で、前にレズ?カップル?の女の子の片方が、相手の子のお股舐めてたらね。匂いがダメだったらしくて、鷹夜くんみたいにトイレまで間に合わずにその彼女のお腹の上に吐いちゃったことがあったんだって」 「わあ、、」 いきなりの濃い内容の話しに、鷹夜は思わずアホみたいな気の抜けた声を漏らした。 「別れずに今も仲良くしてるらしいんだけど、まあ、なんて言うか、マナーじゃん。出来る限り無臭にしとくのも、出来る限り吐いたり何だりしないのも。だからその子達は話し合って、お互いにちゃんと下の匂いのケアまですることと、吐きそうになるまで無理しないってルールを作ったらしい。そうやって話し合ったから、今はもうバンバン言いたいこと言えるようになったんだって」 「すごいな」 ちょっとだけ頭を傾けてやると、芽依は首を伸ばして鷹夜の唇にちゅ、と吸い付いて、直ぐに離れた。 「そう言うの聞いてたし、泰清からも、鷹夜くんがもし吐いたりしても当たり前のことだからなって言われてたから、あんまりショック受けてない。鷹夜くんの実家行ったとき、俺、吐きそうになったら言ってって言ったでしょ?」 「あ。確かに」 「覚悟してたんだよ。こうなってもって」 にこ、と優しく微笑まれ、鷹夜も思わず芽依に口付けた。 付き合う前の、告白してくる前の芽依だったらこんな風にはならなかっただろう。 「どうして吐いたの、ひどい」と鷹夜を散々に責めて、何度も謝らなければ許さなかった筈だ。 「だから、大丈夫」 告白のとき、鷹夜に甘えないと言った彼はきちんと彼なりに正しい解釈をしてくれた。 鷹夜が自分を嫌いになった訳ではなく、慣れていないのと初めて男のものを口に入れたと言う事に対して気分が悪くなったのだと。 芽依自身を否定している訳ではないと言う事を。 「プレッシャーかけてごめんね」 「ううん。俺も、色々傷付けることしてごめん」 コツン、とまた額が合わさった。 「大事なときに萎えたりするかもしんない。今後も。カッコ悪い彼氏でごめん」 今回のことで少し不安を覚えてしまっていたが、その不安を勇気を持って口にすると、また弱ったように笑った鷹夜が、芽依の形のいい唇を奪った。 「ん、」 「大丈夫。カッコ悪くても好きだよ。ずっと言ってるだろ」 「、、、」 「ゆっくり進もう、芽依。俺も焦ると下手なことしそうだから。今日はー、、うーん。とりあえず、指挿れるくらいで勘弁して。おっさん、お尻に関しては1日0.5歩進むのが限界だと思う」 「まーたおっさんとか言う。俺からしたら大好きな人なんだよ。そう言うこと言うのやめて」 ちゅ、ちゅ、と口付けを繰り返す。 鷹夜からしてみれば、「大事なときにちんこが勃たない芽依」なんて、可愛い以外の何者でもなかった。 大きい図体に立派な顔をしているくせに、時折り真面目で少し神経質な面が見えるのは、逆に人間臭くて愛しさが増す。 「可愛いよ、芽依」 「可愛い、はあんま嬉しくない」 そう言って、もう一度どちらともなくキスをした。

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