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第3話
せめてベッドで、なんて言葉を一生のうち一回でも言うことになるなんて思わなかった。
このくそ色気の無い部屋で、よくその気になると蘇芳を尊敬する。
生まれて初めてしたキスは、蘇芳の唇が思ったよりも柔らかくて、色々限界で泣くつもりは無かったのに思わず涙がこぼれた。
それを丁寧に拭った蘇芳も泣きそうな顔をしていて、お互いダセーななんて考える。
でも直ぐに、何度も、何度も息も碌にできない位、唇を触れ合わせて、舌を絡めて、吐き出す呼吸が顔に当たるのに慣れる位ずっと触れ合う。
頭がボーっとしてきて良く分からない。
ただ、相変わらず余裕のありそうな蘇芳がムカついた。
蘇芳の来ていたシャツを乱暴に脱がせると鎖骨に唇を寄せた。
でも、これは逆効果だったかもしれない。
蘇芳の体臭が鼻孔をくすぐって俺の方がおかしくなりそうだった。
性急に服を脱がせ合う。
裸を見ると、俺か蘇芳かがやっぱり無理だとなるかと思ったが全然そんなことも無く、二人して馬鹿みたいにおったててて、それで漸く安心した。
蘇芳の手が全身くまなく撫でる。
一生誰かが触ると思っていなかった尻に触れられて顔から火を噴くんじゃないかという位恥ずかしかった。
「これからもっと恥ずかしいことするんですよ。」
クスクスと笑われながら蘇芳に言われる。
知っている。知識だけなら、多分ある。
けれど、その知識が自分自身の現実のものになるとは思っていなかったのだ。
うつ伏せにひっくり返されて中を解される。
後ろから、蘇芳の荒い息遣いが聞こえるのは救いだった。
ふうふうという喘ぎなのか何なんだか分からない声を出し続けてひたすらシーツを掴む。
快感を拾っているような気もしたがそれを認めたく無い気持ちもある。
頭の中までぐちゃぐちゃにされているみたいだった。
「入れますよ。」
後ろから聞こえた声には余裕がなくて、それだけで優越感のような感情が湧く。
実際はこっちも余裕なんてなくて似たようなものだけれど同じ位向こうも余裕のないことに安心していた。
洒落にならない質量が中に侵入してきて、思わず息をつめる。
なんだこれ、なんだこれ。
体の中から支配される様な錯覚に陥る。
ぞわぞわとした何かが背中を駆け巡る。
自分が自分では無くなってしまうみたいで怖かった。
体が本能的に逃げをうつ。
けれど、肩を掴まれてそのまま抱きこまれるみたいにして戻される。
うなじの下、首の部分に触れられる。
多分それが蘇芳の唇だとわかって、蘇芳に抱かれているということを殊更(ことさら)実感する。
首に堅いものが当たってそれから痛みと引きつれるような熱さを感じた。
蘇芳に噛みつかれたのだと気が付くのに、やや時間がかかる。
痛みで目の奥がチカチカした。
多分間違いなく歯形は付いているのだろう。
首元から顔を一度離した後、再び触れられる。
噛まれた跡を丹念に舐め上げられて、ピリピリとした痛みが、単なる痛みなのかそれとも快楽と伴うものなのか分からなくなる。
思わず中を締め付けてしまう。
蘇芳が息をつめたのが分かる。
唇は首元から耳に移っていて、食まれる。
ぞわぞわとした感覚が怖い。
「ちょっ、ちょっとまっ、あああ゛、アッ。」
待てと言っているにも関わらず、蘇芳はその言葉を聞くつもりは無いらしく腰を打ち付ける。
異物感なのか違和感なのか、快感なのかそれすらも判別できず、ただただはしたない声を上げ続けた。
◆
体全部、特に関節すべてがきしんでいる気がする。
「水……。」
出た声は自分で驚く位かすれていて、気持ち悪い。
後、蘇芳から出ている甘ったるい空気にどうしていいのか分からない。
喉がカラカラでかさかさになって張り付いているから水を飲みたいのに動けそうにない。
蘇芳は俺の頬を撫でた後、冷蔵庫に何か入ってますか?と聞きながらベッドを降りた。
なんていうか、色々無理だ。
後、冷蔵庫には飲めそうなものは無い。
蘇芳がコップに入った水を甲斐甲斐しく運んで来て渡される。
ありがたく飲ませてもらうが、体が辛すぎてそのままベッドにうつ伏せで横になる。
指一本もう動かしたくなかった。
「なあ。」
「なんですか?」
声まで甘ったるい気がしたが気にしないことにする。
「俺たち、付きあちゃったりするのか?」
「まあ、どうせ今までと大して違いは無いでしょうけど、そうだったら嬉しいですね。」
違いはあるに決まってるだろう。その言葉は気恥しすぎて口には出せなかった。
疲れ切っていて、考えることを放棄して、俺は眠気に身を任せた。
了
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