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日曜日
その日の夜は寒かった。
まだ9月の終わりだというのに、毛布が恋しくなるほどの気温だ。
少し早い気もしたが、結局毛布をクローゼットから出すことに決めたシノブは、毛布を夜に出したことを少し後悔していた。
少し埃っぽい毛布を抱えて裸足でベランダに出た。ベランダのタイルは思った以上に冷たかった。抱えた毛布を広げ、パタパタと振って埃を叩いた。思った以上に埃は少なくすぐに使えそうだとホッとしていた。
その時、シノブの携帯が鳴った。手にしていた毛布をひとまずベランダの淵にかけて部屋に戻り携帯を取った。レオからの着信だった。
「もしもし?レオ君?」
「あ、もしもし。シノブ?わりー、こんな時間に。久しぶり」
「うん。久しぶりだね。どうしたの?珍しいね?こんな時間に電話かけてくるの」
時間は既に夜中の0時を少し超えていた。
「俺、今近くにいるんだけど・・・今晩一晩止めてくんねえ?」
「え?・・・いいけど・・・どうしたの?」
「いや〜実は、今日ゼミの飲み会があって、さっきまで飲んでたんだけど、気がついたら終電逃しちゃって・・」
「そっか。まあ、何もないけど、それでよければいいよ。マンションの場所わかる?」
「マジ助かる!ありがとうシノブ。場所は確か、北公園の近くだったよな?」
「うん。そそ。北公園の南側の赤茶色のタイルのマンション」
「じゃあ、今から5分くらいで着くと思うから。またマンションの下に着いたら電話するわ」
「わかった。気をつけてきてね。あ!北公園の・・・」
ここまで言ったところで、電話は切れてしまった。シノブはかけ直すか迷ったが、もう近くまで来ているなら大丈夫だろうと思うことにした。
北公園は、都会の中のオアシス的に作られた大きな公園で、三角形の形をしている。北の辺が広くなっていて、南側は三角の頂点だ。だから、南側にあるこのマンションからは、広い公園の樹々が見渡せるようになっていた。
その景色が気に入って、シノブはこのマンションを借りたくらいだ。ただ、この公園の北東から入ってきた一角は、夜になるととても暗い。その為、夜中になると、不良たちですら寄り付かなかった。治安が特に悪いわけではないが、この辺りで育ったシノブは、夜中にはこの北公園の北東側の入り口から、公園を抜けるのはやめるようにと親に言われて育ったのだ。
きっとガタイのいいレオ君なら、大丈夫だよね・・・しかも北側から来るかわかんないし・・・
そうシノブは思うことにした。
シノブとレオは中学時代からの付き合いだ。見た目が華奢で病弱だったシノブには、なかなか男友達ができなかった。大病を抱えていたわけではなかったが、喘息を抱えていた。寒い時期は学校を休みがちだったのだ。
レオはそんなシノブにできた、初めての男友達だった。シノブは姉妹に囲まれて育った上、父親は海外出張も多く不在がちだった。そんな家庭で育ったシノブは、過保護に育てられてきていて、初めてできた男友達のレオとの時間は新鮮だった。
高校に入ると二人は別の学校に通っていたが、それでも毎週末、連れ立って遊ぶ仲だった。この頃には段々と体力がついて喘息も出なくなってきていた。そんなシノブを遠慮なく連れ出してくれる、レオとの時間がとても有意義な時間に感じていた。
一方のレオはというと、男ばかりの3兄弟の三男坊で、上の兄たちに揉まれながら育った。レオの父親は所謂スタジオミュージシャンというもので、主にレコーディングの際のギターやバックコーラスを入れる仕事をしていた。その為、子供の頃からレオは音楽にどっぷりハマっていて、大学生の今では父親についてスタジオに出入りもしている。見た目も、ミュージシャン見習いよろしく、派手なタイプだ。
またシノブの携帯が鳴った。
「あ、シノブ?今公園まで来た。」
「あ、レオ君、公園のどこにいるの?西側から来てる?」
「え?え〜っと、これはどっちだろう?駅の東口って書いてる方かな〜」
「JRの駅の方?じゃあ、東側だよ」
シノブは、さっき言いそびれた事を思い出した。
「レオ君、公園突っ切ったら近いんだけどそのルートだと暗くて危ないから、ちゃんと大通りを歩いてきてね」
「え?そうなの?もう公園の中に入っちゃったけど・・・」
「レオ君、体大きいから大丈夫だとは思うけれど・・・ほんと、気をつけてきてね」
「おう!俺体力には自信があるから大丈夫だって!心配すんなって!そんなに酔ってもないし。あと少しで着くから、マンション何号室だっけ?」
「えっと、北公園グランメゾンっていうマンションの710号室だよ」
「わかった。710な!オッケー。また後でな〜」
調子良く電話は切れてしまった。シノブはさっきベランダの淵にかけた毛布のことを思い出した。夜気にあたって少し冷たくなったその毛布を手に取り、寝室のベッドに広げた。今からレオが来るなら、毛布をもう一枚出さねばならない。クローゼットから予備の毛布を引っ張り出して、同じようにベランダで広げ、埃を叩く。幸いこちらもすぐに使えそうだ。その時ふと公園の方に目をやったシノブは、公園の東側から走ってくる人影を見つけた。
レオだ。
手に携帯を持ち駆け足でやってくる。そんなレオの姿を上から見つめ、シノブは久しぶりの再会に嬉しくなった。実はレオとは半年ほど会っていない。レオは大学生で、シノブは専門学校を卒業後、バイトをしながら声優を目指して修行中の身だからだ。
なかなか生活のリズムが揃わない。だからこの半年は、LINEでのやりとりやSNSでしか繋がってない状況だった。
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