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クリスマスのラジオ生放送

あの日以来、パッタリと明石と会わなくなった。以前なら、事務所でもしょっちゅう顔を見たし、時間があれば新アニメのレコーディングにも顔を出していた。これは完全に避けられている。でもこちらから連絡をする気にもなれなかった。 バツが悪すぎる。まさか男娼とホテルから出てくるところを見られるとは。しかも、嘘をついて別れた後だ。もう言い訳もできない。どうしようもない状況だと諦めていた。そのうち仕事上で、本当に合わなくてはならない時が来たら、会うだろう・・・。そんな風に思うことにした。 そんな状況は20日程続いた。今日は12月25日のクリスマスだ。こんな日でも仕事はある。例の新アニメの番宣のためのラジオゲスト出演だ。これは明石も関わっている。きっと会うだろう。覚悟を決めてスタジオに向かった。 スタジオに着くと、この日一緒に出るシノブ君が待っていた。 「おはようございます。吉木さん。今日はよろしくお願いします。僕初めてのことなのでホント迷惑かけないようにがんばります」 そう言って、ペコっとお辞儀をしてくる。 「ああ、久しぶり・・・でもないか・・・。今日はラジオのゲスト出演だからちゃんとメインDJが話を回してくれるから、それに答えたらいいよ。番組の宣伝は、この前打ち合わせした文章読んだらいいしね。まあ、気楽に行こう!大丈夫大丈夫!」 「はい!頑張ります!!」 番組は生番組だ。 放送時間の17時、生放送が始まる。 「吉木さーん、シノブくーん、ブースに入ってー」 スタッフから声がかかった。 あれ?まだ明石が来ていない。 「あの、明石先生は?」 スタッフにこっそり聞いてみる。 「ああ、今日はここに来れないって連絡ありました。放送を聞くって言ってました」 「え?あ・・・そうなんだ」 こんなことは初めてだった。 フットワークが軽い明石だったから、毎回自分が関わる仕事には必ずと言っていいほど顔を出していた。これは避けられてるのか?それとも本当に仕事が忙しくて来れないだけなのか?もう分からなくなっていた。 「吉木さん、僕、緊張してきました・・・」 シノブが体を強張らせている。今は明石のことを考えている場合ではない。シノブの手をテーブルの下で握り、 「大丈夫だから、深呼吸して」 そう小声で言って力強く手を握る。 シノブの手は汗でびっしょりだった。 ”今日のゲストは、新年1月8日から始まる新アニメ『探偵Rの苦悩』の主役”ミダレアユム役”の吉木譲治さんと、その助手”新田良一役”の吉田シノブさんでした〜” 軽快にメインDJが番組を閉めた。 放送は無事に終了した。 「吉木さん、ありがとうございました!!!!」 興奮冷めやらぬシノブ君がまた、深々とお辞儀をする。 「良かったよ、初めてにしては、上出来!これからプロモーションが本格化したら、もっとラジオ出るからね〜。ひょっとしたら、ネットテレビの声優番組にも呼ばれるかもしれないよ。 その時は顔も出るから、もっと緊張しちゃうかもね〜」 いつもの調子で、冷やかし混じりに言葉をかけた。 「ふわあぁぁぁ!そんなのまだ無理です!その時も一緒に出てくださいよー」 いつもの可愛いシノブ君だ。 「はははは。また、そんな可愛いことを言って!そんなに俺のことが好きなの〜」 冷やかしついでに皮肉も言ってやった。 「ううっ・・・吉木さんずるいです・・・」 そう言って下を向いてしまった。 あ〜やっぱり可愛い・・・。 あの時、無理にでも手を出しておくべきだったかもしれない・・・ などと、脳裏をかすめた。

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