「マスター、俺の気持ち、ちゃんと伝わってるんですかね〜」 明石はまだBitterで飲んでいる。 「それは時が解決することもあるのでは？」 明石が酔った目でマスターを睨む。 「俺、早まっちゃったかな〜。まさか吉木君が男もいけるだなんて思ってなかったから、それを偶然知っちゃって、思わず告白してしまったんだよね〜」 すっかり憔悴しきっている。 「少なくとも、私には明石さんが吉木さんのことを大事に思っているという風には写っていますよ」 「ほんと〜？もう5年も片想いしてるから、よく分からなくなってきちゃった。振られるの怖くて、答えは今じゃなくっていいって言っちゃったし。まさか男もいけるなんて思わなかったし。ただの秘めた恋心だったのに・・・真剣なんだけどな・・・・」 「明石さんもシノブ君と同じで、ゲイだって気が付いたの遅かったですもんね」 「あーーーー！！それ言う？？？」 少し膨れっ面をして見せる。 「霧島が連れてきた時のあなたは可愛かったですよ。シノブ君みたいに」 「恥ずかしくなるから・・・マスターそれ以上やめて・・・」 すっかり顔をカウンターに突っ伏している。 「いいじゃないですか。純粋な時代は誰にでもあります。明石さんあなたもまだ純粋ですよ」 そうマスターは静かに語りかけてくる。 明石はムクっと顔を上げて、 「最後にもう一杯だけ何かください」 明石がそういうと、マスターは静かに”はい”と答えた。 マスターが優雅な手つきでシェイカーを振り出した。目の前にカクテルグラスが置かれて白っぽい液体が注がれる。 「バラライカです。カクテル言葉は、”恋は焦らず”」 そう言うとマスターは優しく微笑んでくれた。 今日はそんなに飲んでいない。吉木が帰ってからその後、何人かの顔見知りが来た為さっきまで喋り込んでいた。そのメンバーも帰って行った。最後にこのバラライカを飲み干す。 「マスターそろそろ帰ります」 そう告げるとお会計をしてもらい、店を後にした。 時間は丁度3時頃だ。タクシーで帰っても良かったが、少し夜風に当たりたかった。冷たい12月の空気が気持ちいい。ふと近道をしようと、路地へ入った。そこはホテル街だった。 「よし君。また会おうね」 そんな声がする。 ふと顔を見上げると、さっき別れたはずの吉木が、可愛い男の子と腕を組んで出てきて別れの挨拶をしている。 思わず立ちすくんでしまった。 吉木が男と別れてこちらを向く。 「あっ・・・」 吉木もこちらに気がついたようだった。 明石は、思わず走って今来た道を引き返した。すぐにタクシーの灯りが見えた。思わず飛び乗っていた。 ”今の吉木くん・・・呼び出しって？今の彼氏？？誰？なに？？” さっきのお酒が回ってきたのと走ったことも相まって動悸が止まらない。なぜか涙だけが出てきた。