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第1話
「・・・・・・なあ・・・・・・いいかげん、さっさと殺したらどうだ」
魔神本体を打ち破られて、額の契約印が消えた男からは、纏っていた禍々しい気配が消えていた。男の身体は結界で覆われた亜空間へと閉じ込められている。
鍛えられた強靭な肉体からは、それなりに強さを感じるが、ただの人間である。
彼を結界で閉じ込めたのは、魔神討伐のために、王国が女神の宝玉の力で召喚したマサキ·タイラという異世界人である。
彼は討伐を達成すると王城へと戻り、魔神の依代を虜囚として引き渡した。
大抵その場で依代も討伐するのが常である。
だが、マサキ·タイラは主張した。
「彼は人間です。魔神の力に利用されたに過ぎない」
「そんな。マサキ、彼を早く殺すのです。魔神と契約するような人間は、もうヒトとは呼べない存在です。死刑は確定しています。裁判をするだけ無駄ですよ」
彼の主張に首を降ったのは、元帥であるリカール伯である。彼が魔神と契約してから10年の間に滅びた国はひとつやふたつではない。
死者の数も何百万にのぼるだろう。
「彼が魔神に操られていた可能性もあります」
「フハッ、なーにいってんだよ。俺は、俺の意思で人間を皆殺しにしてやったんだぜ」
結界の中でギレンは、自分に肩入れするマサキを面白そうに眺めて否定した。
「そう思い込まされてるんですよ。人間がそんなことをするはずないです」
「ニンゲンじゃねえよ。わりいな、俺は色無しなんだわ」
指先で、真っ白な髪を軽く弾いてニヤッと笑う。
「いろなし?」
マサキは、聞きなれない言葉に首を捻って、リカール伯に視線を向けた。
マサキがこの世界にきて3年経つが、わからない常識などはまだ多い。
「彼のように、白髪、赤い目の者のことです。神の恩寵を受けぬ色無しとして、人間扱いはされません」
「は?!ただのアルビノでしょう。なに、それ、差別?ひとの見かけで差別するなんて最低なんだけど」
マサキはリカール伯に、軽蔑するような視線を向ける。
「色無しは不吉です。魔がとりつきやすい人種です。神の供物として、捧げることしかできない」
「捧げる?」
「捕獲して、年に一度の神の祝祭での生贄としています」
リカール伯の言葉にマサキは目を見開いた。
生贄で殺されるための人種。
そんな差別だけでなく虐待が、国家で許されているというのだ。
反乱を起こされても致し方ないだろう。
「どーでもいいから、早く殺してくれねえかな。魔神は死んだけどよ、俺が魔神と魔物を利用してニンゲンとやらを大量虐殺したのには変わりねえよ」
結界の中で、暇そうに2人のやりとりを眺めてギレンは欠伸を漏らした。
マサキはふうと溜息を漏らして、リカール伯に向き直る。
「この戦いに勝ったのならば、褒美は何でもくれると言っていましたよね」
「確かに、この国は貴方に何でも願いを叶えると言いました。貴方は元の国に戻ると言っていましたね」
リカール伯は急な問いかけに、不審そうにマサキを見返した。
「僕は、彼、ギレン·アーグを貰いうける」
リカール伯は金髪の髪をぶんぶんと揺すって首を振った。
「そんな、危険なことは........できません」
「この王国は、約束を守れないのかな」
マサキのひかない様子にリカール伯はあたまを抱えて膝をつき項垂れるしかなかった。
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