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第2話
大陸の中央にある都から3000kmは離れた長閑な村は、不安と恐怖に陥っていた。
この村を拠点にしていた勇者と呼ばれている人物が魔神を倒して戻ってくる。それであれば祝いの歓迎会を開いて勇者を出迎えるものである。しかし、勇者は厄介者まで町に連れ帰るという噂が流れてきたのだ。
捕らえた魔神を、虜囚として一緒に暮らすといったとんでもない話をしていると。
「流石に勇者様に何かあった時に、また魔神が暴れ出すだろうしなあ」
街の人々の心配もさもあらんである。
大声で話している横を、フードを被った旅人らしい背の高い2人はゆっくりと歩いていく。
「・・・・・・町の奴らに襲われても知らねえからな。さっさとオレを殺せよ」
無気力な口調でフードから覗く赤い瞳を光らせて、隣を歩く青年に声をかける。
「え、僕のこと、心配してくれるの?優しいよね。ギレンって、本当に」
「優しくねえから。オレが魔神を利用したのであって、操られたり利用されたりはしてない」
丘に登るための階段を登りながら、何日も繰り返した言葉を口にする。
魔神本体を殺され、戦いに敗れた何の力ももたない彼自身が、この異世界からきた勇者にかなうことは決してない。
すっかり吸い取られ尽くした魂の根源には、再び新たな契約をするだけの力はない。
「ここの世界の身分制度とか、よく分からないけど、髪の色とか目の色で差別しているのにさ、自分たちだけ正義みたいな顔してるのはオカシイと思うんだよね」
「どこも一緒だろ・・・・・・」
丘の上には水車と町の中では大きな屋敷が建っている。
「あそこが僕の家」
「勇者なのに、小さいな。あれだけ活躍してたのだから、城くらいやればいいのに。王はケチくせえな」
意外そうな顔をして、屋敷の門の前に立つ。
「広いと掃除が大変だよ。自分で掃除できる範囲で充分だよ」
「奴隷とかがいるだろ」
「いないよ。僕がいた世界にはそんなのいないから、ここにもいないよ」
門の鍵を掌をあてて術を解いて開き、どうぞと中に促す。
産まれ落ちた瞬間から、いろなしとして人権がなかったギレンにはタイラが言っていることがまったく分からなかった。
「お前は、故郷に帰れなくてもいいのか」
「んー。実はあまり問題ないんだよね」
「そうなの・・・・・・か」
玄関を開くと、ふわっと異臭がたちこめて、ギレンは鼻をつまんだ。
掃除ができる範囲といっていたが、まったく掃除などはされていない。
「流石に今回は、出立から半年経ったからね。掃除しなきゃな」
「カビだらけだぞ。それゆ変な袋がいっぱい部屋を埋めつくされてるぞ」
嫌な顔をして振り返るギレンに、タイラは大丈夫と言って、円を描くように指を動かす。
歪んだ空間が開いて、そこにぱんぱんと袋を飛ばして投げ込んでいく。
「どこに投げてるんだ」
「明日は燃えるゴミの日だから、大丈夫」
何が大丈夫なのか分からなかったが、ギレンにはタイラがすごい魔力の持ち主だということだけが分かった。
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