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第10話

タイラが目を覚ますと、神妙な表情で顔をのぞきこんでいるギレンの顔が飛び込んできた。気を失ってしまったギレンの後処理をして、そのまま眠り込んでしまったらしい。 奴隷契約をしていれば、奴隷は主人を傷つけることはないから、寝首をかかれるようなことはない。 結界に懲りたのか逃げ出すこともしていないようだ。 「........貴様は、契約の内容を知らなかったのか」 ギレンは、上体を起こしておもむろにタイラを見下ろして尋ねた。 「僕はこの世界の言語はわからないのです。話す言葉は、脳に変換されて入ってくるし、話すこともできるみたいなのだけどね」 魔力などの異能を与えられた特権なのだろうか。ご都合主義な能力も与えられている。 だが、文字を読んだりする能力はない。 だから、契約の内容も話されることを丸ごと信じるしかない。 「オレは3日に1度発情する。貴様を求めずにはいられなくなる........」 「今まで我慢していたのですか」 心配そうに問いかけるタイラの言葉に一瞬ギレンは目を見開くが、グッと奥歯を噛み締める。 「........殺してくれ。放置したり、いつか手に余って売り払うくらいなら」 どちらにしても惨めすぎる。 タイラは若く美しい勇者で、性奴隷を必要とする人種ではない。最初は情けをかけるだろうが、そのうち、もてあまして捨てられる。 ボロボロになって狂い死ぬくらいなら、一刀両断された方がいい。魔神を失った時から覚悟はできていた。 人間が残酷な生き物なのは、十分分かっているが、少しの温情にでも縋りたいと考えている。 「........殺さないよ」 ぽつりと返された言葉に、ギランは絶望の表情を浮かべた。 「死んで終わりなんてダメだよ。何千人も殺した罪があるなら償わなきゃね」 優しい声に突き放された心地で、ギレンは肩を落とした。このまま淫らな欲求に耐え忍びながら、情けない姿を晒して狂って生きるしかないのだろう。 「でも、こんな契約なんてどうかしている。この契約はちゃんと正しいものにしてから、一緒に国をめぐって贖罪の旅をしよう」 最初からそのつもりだったけどと、つけたしてにこりと笑う邪気のなさにギレンは毒気を抜かれた。 「でも........オレは」 「安心してよ。契約の上書きができるまで、責任をもって僕は君の発情をちゃんと満たしてあげるからね」

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