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祝い
このCMナレーション録りをした日も大河はついて来てくれた。というより、俺が連れて行った。
心細かったこともあるが、晴の舞台をみて欲しいと思ったからだった。
幸い、榎木は大河のことをマネージャーのように思ってくれている。
レコーディングはものの15分程度で終わった。
あの重厚な扉を開けて、マイクの前にヘッドフォンをして座った時の興奮は今も覚えている。
自分の話す声をあんなに大きな音で聞いたことも初めてだった。
そして、自分の声に慣れなかった。みんな経験あるだろうが、録ったものは自分の声でない気がするものだ。
この日、俺と大河は打ち上げと称して、二人で梯子酒をした。
もらった一万円のギャラで飲もうということになり、安い立ち飲みに行き、とりあえず酒!という具合に飲んだ。安酒はすぐ酔える。
後にも先にも、あんなに安い酒を飲んだのはあの時だけだ。すっかり二人とも出来上がってしまって、気がついたら、大河の部屋にいた。
この日、俺は大河と同じベッドで裸で寝た。
途中まではうっすら覚えている。
亜希子先輩が留学している間、ずっと待つつもりなのか?と問いただしたり、俺が特定の彼女を作らない理由とか、そんなことを話したと思う。
正直そんなに内容は覚えていない。
気がついたら、キスされていたからだ。
大河の舌が俺の唇を舐めたところまでは覚えている。不思議と嫌な気はしなかった。
大河の舌を受け入れてしまったところからは、あっという間に波にさらわれた気持ちだった。
正直そこから先は無我夢中にその波を泳ぐことで精一杯だったと思う。
次の日の朝、一線を超えたことは明白だった。
なぜなら、お互いの身体中についている赤い小さなあざ。そして、腕の中で大河が寝ている。
「ごめん。治。俺が悪いよな・・・」
そう大河が言った事は覚えている。
が、嫌な気がしていない自分に一番驚いていた。
「え・・・いや悪いとかそういう話では・・・」
「気持ち悪いとか、怒ったりしてないのか?」
「あ・・・それが・・・驚いてるけど・・・」
「・・・・そうか。なら言ってしまうが、
俺、両刀なんだよ。バイセクシャル」
「え・・?それって・・・」
「ああ、男も好きなんだ。
亜希子はこのことは知らないし、もちろん亜希子と
付き合いだしてからは、彼女一人だったけど」
「・・・そうなんですか・・・」
「ごめん・・・」
「謝らないでくださいよ。
なんか俺が惨めになるじゃないですか!」
「じゃあ・・・・」
「友情は変わりなくってことで・・・」
その言葉を聞いて大河はホッとしたようだった。
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