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助け

それから、俺は大河がアルバイトに行っている曜日に、Bitterに顔を出すようにした。 すっかり常連になった頃、マスターとゆっくり話すことがあった。マスターが言うには、俺が顔を出すようになって、少し大河の雰囲気が変わったと。 お酒の知識も勉強させてくれと言ってきていること、このまま本当にやる気があるなら、この店を譲ってもいいと伝えたこと、そんな事を話してきた。 大河が今必死なのは側から見ていてもわかる。 何かを変えようとしているのだ。 それのきっかけに、もし、自分がなれているなら、もっと俺も頑張らねばならないと思うし、そして何か手伝えることがあるなら手伝いたいと思っている。 やっぱり大河のことが好きなのだと自覚せずにはいられなかった。 ある時、マスターから珍しく電話をもらった。 深夜24時だ。 「もしもし?霧島さん?遅い時間にすみません。申し訳ないんだけれど、大河君迎えにきてくれないかな?酔い潰れちゃって・・・」 「え??今日休みのはずじゃあ・・・」 「今日スタッフに欠員が出たから急遽入ってもらったんだよ。で、お客様と盛り上がって、潰れてるってわけ・・・。無理かな?迎え・・・」 「あ、えっと、ちょっと30分位頂けたら・・」 「そう?悪いけど、お願いできるかな・・・。 まだ店営業してて、店で寝かすわけにもいかなくて。霧島君、大河の後輩だって言ってたから。じゃあ悪いけど、お願いします」 そう言って電話が切れた。  珍しい。 大河はお酒に強い筈だ。 なのに酔っ払って潰れているなんて。 そう思いながら、タクシーで迎えに行った。 店の裏口で大河の荷物と大河を受け取って、タクシーに乗せる。今の大河の住まいは知らない。 仕方がないから自分の家に連れ帰る。 その間も大河は寝ている。 横になっては起きた時に吐いてしまう。 だから必死で体を座らせた姿勢に保つために大河の肩を抱いてタクシーを走らせた。 幸い、今日は金曜の夜だ。 明日は土曜。 きっと大河も昼の仕事は休みだ。 タクシーを降りて、家まで担いで運ぶ。 大の大人を運ぶのは骨が折れた。 玄関で靴を脱がせることもせず、そのまま自分の寝室に寝かす。靴を脱がせ、ジャケットも脱がし、ベルトも緩める。 ペットボトルに入った水を枕元に置く。 念の為、洗面器も置く。 酔い潰れた後輩の面倒は何度も見ている。 慣れたものだった。 しばらくそのまま放っておいたら起きるだろう・・・。 そう思って自分はリビングで借りてきていたDVDを見ていた。 1時間くらい経った頃、寝室でガタッと音がする。 目が覚めたのだろう。 覗きに行く。 「大河先輩ー、大丈夫ですか?」 「うーんんん。気持ち悪い・・・」 そう言って唸っている。 俺はペットボトルの蓋を開け、上半身を起こさせ飲ませる。 しばらくそのまま体を起こしておく。 5分くらいして、大河がえずいた。 「ほらね・・・。はいはい。  ここに吐いてくださいよー」 そう言って大河の顔の前に洗面器を持ってきて背中をさすって吐かせる。本当に慣れたものだった。 ひとしきり吐かせて、落ち着いただろうところで、水をたらふく飲ませる。 そのタイミングで、服を脱いでもらう。 Tシャツを着せる。 ズボンも脱がして、パンツで寝てもらう。 「先輩もう気分悪いとかないですか?」 「う〜んん。大丈夫・・・」 そう言って寝息を立て出した。 吐いたものを処理して、着ていた服をハンガーにかける。 自分はそのままソファーで寝た。 次の日の朝、8時。 大河が目を覚ましたようだ。 寝室を覗く。 ぼーっとしている。 「大河!起きろ!!」 大河がビクッとする。 初めて大河を呼び捨てにしてみた。今までは付き合っていた時でさえ、呼び捨てにはしていない。日本ではそう言うものだと強く言われていたからだ。 「あ・・・。治・・・・俺・・・・。  どうして・・・」 状況が飲み込めていないようだ。 「昨日飲みすぎて潰れたんですよ。で、マスターから連絡もらって俺が迎えに行ったんですよ」 「え・・・?ここって・・・」 「はい。俺の家です」 「・・・・・わるい・・・」 そう言ってバツが悪そうにしている。 「いいえ、大丈夫ですよ。頼って欲しかったんで、正直マスターから連絡もらった時は嬉しかったですよ。俺。ちゃんと大河先輩の役に立てるって思ったんで」 「・・・・・・ほんと、迷惑かけて悪いな・・・  情けない・・・」 「ほらほら、そう言ってないで、歯磨いてきてください。昨夜、しこたま吐いてますから気持ち悪いでしょ?ゲスト用の歯ブラシありますから」 「・・・わるい・・・・」 そう言ってのそのそと起き出した。

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