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水曜日の恋人はいじわる⑪ シリーズモノ映画の『4』を誘うってヒドイよね?
「『4』から見るのって、どうだと思う?」
昨日、無理矢理キスして来たのに恥ずかしげもなく堂々と現れた副会長に思わず愚痴った。
男なのに男と付き合い始めて八か月の俺は底辺高校生徒会長の結城友也、付き合っている相手は同級生で生徒会書記の愛されモテヤンキーの三田遼太だ。
キスもセックスも週イチでヤってる関係なのに今更「日曜日、映画に行こう」などと誘われて若干戸惑っている。
遼太と遠出したことは一度だけある、初めてセックスをする際に「絶対知りあいに会わない所だったシていい」と言う俺の要望に遼太が答えた結果、県の遥か東の観光地で枝垂桜が有名な所へ行った、それ以外、後にも先にもデートらしいことしていない。
まあ、遼太の家に行くとか、俺の家に来るとかもデートの一環なのかな?、テーマパーク行く的なデートはしていないだけか。
それはいい、人目につかなければ遼太とデートするのも別に構わない、何故なら付き合っているから、付き合う一環でデートするのは当たり前だと思うから。
しかし、しかしね、映画に誘うのはいいけどシリーズ物の『4』を指定してくるのはどうかと思うんだ俺は。
ハリウッド映画のビッグタイトルだから名前だけは知っている映画だけど見たコトないんだよな?
本当は入院している遼太のお父さんが遼太と一緒に見る約束だった映画らしい、病状が思わしくなくて一時退院も出来ないから、見に行って粗筋とかを教えて欲しいとお願いされたそうだ。
そんな流れで一人で映画を見るのも寂しいから、俺を誘ったそうだ。
遼太よ、友達たくさんいるよな?他のヤツと行けば?
と思わずに居られなかったけど、遼太からのお願いは珍しいからきくことにした、それにしてもシリーズ『4』って前作とか見てなくても楽しめるのか?、お父さんに話す時に粗筋を分かり易くまとめてくれたら助かると俺にお願いしてきたけど、荷が重いコト言っているよな?
そんなワケで昨夜から指定された映画の情報をスマホで集めている。
昼休みになって昼食を摂りに生徒会室に向かい階段を上る俺、ふと気が付いた。
色々なエロいコトがありすぎて忘れ気味だったけど、昨日は副会長の女の子にキスされたという事件があった、なんだったのだろう、あれは?、よく知りもしない人に何故キスをするかな?
黒縁眼鏡で真面目そうに見える女の子なのに不思議な人、でも、まあ唐突にキスとかするから彼女も反省しているはず、恥ずかしくて暫くは生徒会室には来ないはず。
そんなワケでサクサク階段を上る俺、三階の廊下が見えるラインで足が止まった。
…いるっ、普通にいるっ!!
昨日も見た光景、生徒会室前に短いポニーテルで人待ち顔をしている女の子、あれは正しく昨日俺にキスして来て、その後に遼太からワケの分からないお仕置きを受ける原因になった諸悪の根源、生徒会副会長こと漁師の娘の加藤葉月。
遼太に彼女と一緒に居るトコを見られたら、三日続けてお仕置きを受けるコトになる、さすがに無理っ、俺のケツが壊れる、そんなワケで静かに階段を引き返した。
昼休みを利用して映画の情報を集めたかった俺、寒いけど屋上に行くかと向かった。
生徒会室の私物化をする前に一人になりたい時に使っていた場所、屋上の発電設備が設置している裏に来た。
フェンスに囲まれた発電設備の四角い筐体がいくつも並んでいて、後ろに回ると誰に見つかることもない壁に挟まれた幅一メートルくらいの空間がある、腰掛けるのに丁度いいヘリもあって、多分俺しか知らない場所だ。
風はやや冷たいけど日差しは暖かい、ヘリに腰掛けステンレスボトルに入っているお茶を飲みながらスマホを見ていると「この映画は三田会長のご趣味ですか?」と声を掛けられてビクついた。
声の方に視線を向けるとニッコリと微笑む副会長、日曜日に見る予定の映画の前作が流れるスマホを不思議そうな顔して見ている。
「な…、なんで、ここがっ…!」
「私、会長のストーカーでもありますので居場所を詮索するなど簡単なことです。生徒会室に来なくて教室に戻ってもいないのならココしかありませんよね?」
「す、ストーカー?」
「ファンと言う方がマイルドかもしれませんね、そんなコトより何でそんな低俗で大衆に媚びたアメリカ映画を視聴されているのですか?」
「…映画に行く約束をしているから見ている。」
「誰とですか?」
「…し、親戚の子と…。」
「親戚とは、父方の妹のお子さんで中学二年の女の子とでしょうか?、それとも母方の姉のお子さんで社会人2年目のお姉さんとでしょうか?、どちらにしても疎遠気味ですよね?、どういう風の吹き回しですか?」
ニコニコしながらも黒縁眼鏡の奥にある意思の強そうな瞳が「嘘ついてますね」と言っている。
…俺の親戚情報を把握している?
ファンとかじゃなくってストーカーじゃないか?
狼狽える俺を無視するかのように隣に座りスマホをのぞき込んでくる、「まあ、頭の弱い大衆受けするように作られた作品だから賢い人が見てもソコソコ楽しいと思いますよ」とかディスり気味に映画の話をしてきた。
俺も俺で警戒しながらも遼太と見に行く予定の映画には困っていたから返事を返した、本当のコトを言うと邦画は好きだけどハリウッド系の派手な作品は嫌い、愚痴が思わず口から出た。
「『4』から見るのって、どうだと思う?ありえないよね?、俺は全然興味のない映画なんだけどね。」
「ええ、通常ではありえませんね、前作を知っている前提なのでしょうか?、流行っている作品だと言っても全ての人間が必須科目のように視聴しているワケではありません、会長の好みも考えずに誘われた方は頭の弱い方なのでしょう。」
昨日キスしたからか、大人しく遠慮がちな態度だった副会長が本性らしき物を出している。
辛辣な言葉をバシバシ吐く様子に引き気味な俺を気にもせずに肩を寄せて一緒にスマホをのぞき込んできた、短いポニーテルが揺れているのが目に入った。
俺と仲良くなろうとしているが分かるけど困る、友達とか生徒会役員として仲良くなる分にはいいけど、キスしてくるのは欧米人でもないコトから恋愛感情から来るものだ、俺には付き合っている遼太がいるから困る。
女の子にキツイことを言いたくないから言わないでいたけど、「君とは付き合わない、俺に関わらないで」とハッキリ言わないといけない段階に来ている。
正午を少し過ぎている三月の空は明るく薄い青色をしている、頬を掠める風は若干冷たく清浄、傍目には仲の良いカップルが屋上で昼休みデートをしているように見えるだろうけど、そういう関係ではないし、俺自身が望まない。
言いづらいけど口を開いた。
「ふ…、副会長、加藤さん、悪いけど俺に関わらないでくれ。」
「言うと思ったというか、言いたそうだったね、会長。」
「分かっているなら、もう、いいよね?、関わらないで。」
「それは私が決めることだから、会長には関係ないですよ。」
「関係ないも何も、俺が嫌だと言っている。」
「私を嫌なのは会長の自由であって、私が会長を好きなのは私の自由ですよ。」
「…?、まあ、心の自由は自分が決めるものだから…、別に構わないのかな…。」
「そうですよね。」
「いや、でも、全然、加藤さんと俺は付き合う気がないから時間の無駄だよ、ちゃんと好きになってくれる相手を探した方がいいよ。」
「好きになる相手は自分が決めますよ、何で私が好きでも無い相手に好きになって貰わないといけないのですか。」
「愛された方が幸せじゃない?」
「愛する方が幸せですよ?」
自分の意見を真っ直ぐに言う彼女、気が強い、こんな人だったんだと驚いた。
しかし「愛する」のと「愛される」のでは何が違うのだろう?
心を尽くして「愛する」をしても拒否られたら傷つく、「愛される」のは受け入れれば良いだけで傷つかない、「愛される」の方がラクではないのだろうか?
愛にラクを求めるのも変かもしれない、でも遼太といる分には苦しくはない、悪くはない、ラクでもある、それは俺が「愛する」をしているから?、それとも「愛される」しているから…?
「どこ行ってるんだっ!、友也っ!」
発電機の向こうから遼太らしき怒声が聞こえて我に返った。
生徒会室に居ないから探しに来たのかもしれない、副会長と居る所を見られたら彼の機嫌が悪くなりそうで頭を抱えていたら突っつかれて小声で囁かれた。
「私、隠れてますから行ってください。」
「でも…、え?、なんで?」
「あのバカと付き合っているのでしょう?」
「…そんなことは、ない。」
「私、会長のストーカーなんで何でも知っています。」
そう言ってニッコリ笑う副会長に結構な力で押されて突き出された。
それを知ってて何で告白とかしてくるかなぁ?
もしかして、俺が知らないだけで皆にバレているとか?
よろめきながら発電機の陰から出てきた俺に遼太が駆け寄ってきた。
紙袋を持っていて、俺に「日曜日は、これを着て来い」と渡してくるから中を覗くとウチの高校の女子生徒が着ている制服が入っていた。
「どういうこと?」という顔を向けたら「ココを卒業した親戚のお姉ちゃんのだからダイジョウブ!」と良い笑顔を向けて来たので「借りた先を聞いているんじゃねー!!」と紙袋を顔面に思いっきり投げつけた。
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