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第1話

 二カ月前から働いているバーは雨の日以外は混まない。逆に言えば雨の日は惨いくらいに混む。今日は雨だが、いつもより暇だった。 「お前もう少し愛想がよかったらフロアー任せられるのにな。」  暇になったのか、安いホットドッグをほおばりながらフロアマネージャーが残念そうに、言った。 「けど、セスがトマトをバラみたいに切ってくれるから、女の子受けいいですよ。」 フォローするように同僚が言った。  同僚のロバートは愛想がよいので、通常フロアーと厨房の仲は最悪なことが多いが、彼のおかげで厨房も比較的心穏やかに仕事ができる。そして憎しみはフロアマネジャーにそそがれる。 「お前の果物の並べ方芸術的だな。少なくても、お前が来てからフルーツの盛り合わせ注文する客が増えた。」  料理の味付けはできないが、切って並べることに関しては料理長も褒めてくれる。女の子から歓声がもらえたときは、ロバートが両手の親指を立ててくれた。  フロアマネージャーは食事を終えてフロアに戻って行ったが、客はまばらに来るが少ない。厨房も暇で、レモンの補充分を切っているとロバートがやってきた。 「なんか殺人事件あったみたいで規制されてるっぽい。」 「また? 」  今月に入って二人目だ。 「夜出る奴も少ないだろうな。」  客が来るような様子もなく、セスも上がっていいと言われた。  店を出た通りには野次馬なのか人が多かった。人を避けるように迂回し、セスはアダルトショップにたどり着いた。  この店は店長の趣味なのか、それともセスのように買い物に出かける時間が限られている者のためか、普通のコミックスや雑誌が置かれている。  新しいコミックスを手に入れてレジに行くと、頭を刈りあげた軍人みたいな店長が包んでくれた。 「10ドル以上買ってくれたお客さんにおまけをしてるの。一枚スクラッチをとってもらっていいかしら。」  店長が野太い声でスクラッチカードのボックスを差し出したので、一枚取って削った。 「おめでとうございます。」  ウィンク付きでくれたのはバナナやココナッツ味付きの避妊具だった。欲しくないが断ると、今後店に行きづらくなるのでもらった。  店から出ると雨は止んでいた。本が濡れなくて嬉しい。家に帰ってシャワーを浴びて雑誌を読む至福の一時が待っていると思うとミュージカル映画のように踊りたくなる。  鼻歌がでかけたが、目の前からちょうど人が歩いてくるのでやめた。 大柄で金髪の男だ。まだ若いが、夜なのにサングラスをかけている。  人にすれ違うのが珍しい時間帯だったので、つい警戒してしまったが、何事もなくすれ違った。  気を取り直して鼻歌を歌いながらエレベーターで昇り、部屋に行くと誰かいた。サビの部分だったので盛り上がっていただけに少しびくっとした。  金髪に緑の目をした、白い肌の青年だった。身体付はやや華奢だが、それが線の細い端正な顔と併せて、窓からさす街灯に溶けてしまいそうなほど美しく見えた。 「ニコラスさん。どうしたんですか? 」 鼻歌を聞かれていたらと思うと冷汗が出た。 「ちょっと話したい。」  気だるげな声で言いながら煙草を取り出した。  ニコラスはセスがいるハーレムのリーダーだ。人間の社会に紛れる吸血鬼はハーレムという集団を形成し、互いを守り合う。セスは守られてばかりだ。 「いきなりですね。」  机の上の雑誌を片付けながら言った。 「最近忙しかったからな。」  灰皿を差し出すと苦笑した。 「お前、これまだ持ってるのかよ。」 「ニコラスさん来た時いるでしょう。」  安物の灰皿は、割れた継ぎ目をくっつけた跡が残っていた。部屋の窓を開けてタバコの煙を出しながらニコラスが言った。 「飯、まだだろ。気にせず飲め。」  セスは冷蔵庫から真っ赤な液体が詰まった、A型RH+のラベルが貼られたビニールのパックを取り出した。 「今日、お前の店の周りで殺しがあっただろ。」 「はい。知ってるんですか? 」 「隣の州じゃ男も殺られてる。」  先を切り落としてストローを差し込むとジュースのように飲んだ。 「人間の仕業にしちゃ重なりすぎだ。だからハンターが動き出した。」  セスは血液パックを吹き出しそうになった。 「……気を付けます。俺瞬殺されますから。」  ハンターと遭遇したことはないが、焼き殺された吸血鬼の遺品を見たことはある。服が焼けこげ、あちこちに穴が開いていた。  「そうしてくれ。絶対関わるな。お前は何も考えず逃げろ。」  ニコラスは二十代後半くらいにしか見えないが、百年以上は生きているらしい。吸血鬼になってから十年しかたっていないセスは、子供のような存在なのだろう。 「セス、たまには店に来いよ。これだけじゃ足りない。」  セスの飲む輸血用の血液を指してニコラスは言った。 「お前は狩をしないだろ。」  受け取った灰皿にタバコの灰を落してニコラスはセスの頭を撫でた。 「行きづらいなら俺の部屋でもいい。」  子供をなだめるように、ニコラスが言う。昔は綺麗な顔だけど怖い人だと思った。今は綺麗な顔で怖いけれど、優しい人だと思う。  人間だったころはニコラスほど面倒見が良くて優しい人には会ったことがなかった。 「好みの女そろえてやるから。」 「あ、ありがとうございます。」  実の家族よりも過保護なほど、ニコラスは優しかった。    殺人事件で街は緊張しているが、セスも別の意味で緊張していた。吸血鬼の集まる店にはいかないし、吸血鬼の輸血用パックを捨てるときは、輸血用パックをもらっている病院に持って行き、自分の家から出さないようにする。  その日は仕事の後で水を買いにでかけた。吸血鬼は血だけを飲めばいいのだが、輸血用の血だけでは乾きは収まらないので、水を飲んでいる。 今の時間ならまだ食料品店も開いている。どこの店に行こうか迷いながら暗い路地を歩いていると、背後から何かの気配を感じた。  振り返っても誰もいない。気のせいかと前を見ると、柄の悪そうな男たちがいた。ニコラスのハーレムではない。どちらかというと、あまり仲も良くない。この前ニコラスが三人ともふっ飛ばして壁にめり込ませていた。  その場にはセスもいたので、顔は覚えられている。通り過ぎてほしかったが、セスに気付いてしまった。 「ニコラスの所のブルネットじゃねぇか。どうしたんだ? 一人で歩いちゃ危ないだろ。」  三人。一人二回として六回は殴られるかもしれない。  経験上、何を言っても絡まれるだけなので、黙っていると一番背の高い茶髪に胸ぐらをつかまれた。 「ニコラスに言っておけよ。他人のハーレムに手だすな。」  勢いを付けて突き飛ばすので、壁にぶつかった。 「男娼上がりは人間を手なづけるのがうまいからな。」  そこで黙っていれば、男たちは立ち去った。けれど、セスは普段よりも大きめの声で言ってしまった。 「手をだしたんじゃなくて、お前よりもニコラスさんの方が人望があるだけだろ。」  殴られても良かった。彼を侮辱されたまま黙っているくらいなら死んでも良かった。  振り返った男が拳を振り上げる。しかし、突然明るい光が自分たちに当たった。  目を眩ませて光から離れる。黒いジャケットに銀色のロザリオを下げた金髪の男が立っていた。 「三対一はフェアじゃなくない? 」  照らした灯りは銃口の上についていた。チンピラたちは驚いた。  ロザリオに銃という組み合わせを見て、セスもはっとした。 「こいつ、ハンター、か? 」  一人が言うと三人はひるんだ。  今面倒を起こすのは得策ではなく、男たちは捨て台詞を吐いて行く。ハンターは追う様子はない。セスもそっと帰ろうとしたが、ハンターが振り返った。  以前夜にすれ違った男だった。 「吸血鬼? 」 サングラスをかけた顔が笑う。 「ニコラスって吸血鬼はあんまり聞いたことないんだけど。そんなに男前? 」 「さっきのやつらよりはかなり男前だよ。」  答えるとサングラスを外した。金髪と同じような、内側から輝くような琥珀色の目だった。 「俺、今聞き込みしてんだけど、暇? 」  人懐っこい顔で笑う。身長と体格の割に、まだ幼く感じた。断った瞬間、下げられた銃口はこっちを向くだろ。  逃げろと言われたが、逃げ切れるだろうか。ここで面倒を起こせばニコラスに迷惑がかかる。従ったふりをして人通りの多い場所に行けば、発砲してこないかもしれない。それならどさくさに紛れてきっと逃げられる。 「水、先に買いに行っていいなら。」  食料品店を指すと青年は笑った。 「吸血鬼って水飲むの? 」 「他の人は知らないけど、俺は飲むよ。」  上着の下にホルスターがあり、そこに銃をしまった。食料品店で水を買い、普通に買い物をするのを珍し気に見られた。 適当なダイナーに入り、ボックス席に座ると青年はオーダー表を手に取った。 「飯食っていい? 最近まともに食ってなくて。」 「ニンニクでなければ。」  ウェイトレスに注文すると、料理が届く前に青年は写真の付いたIDを見せた。ハンターのライセンスらしい。初めて見たので本物かどうかわからない。 「ロルフだ。よろしく。」 手を差し出された。 「ハンターって、吸血鬼と自己紹介して握手するのか? 」 「他の奴とはしたことないけど、あんたとはしたい。」  素手なので、銀製の者を隠し持てるようでもない。そっと握手をすると、がっしりとした手の感触がした。 「俺は、セス。……先に言っておくけど何も知らない。」  ロルフが吹き出した。 「あんたおもしろいな。初めて会ったタイプだ。」  巨乳のウェイトレスが恭しくフライドチキンとシェイクとミネラルウォーターを運んできた。 「買い物している吸血鬼なんているんだな。」 「俺の知り合いはタバコ買ったりしてるよ。金も、バイトして稼ぐし。」 「……バイト? 吸血鬼が? 」  セスははっとした。他の吸血鬼の風評被害を起こしてしまうかもしれない。 「俺は、だよ。俺はそこら辺のバーでバイトして、その金で水買ったりしてる。」 一生懸命話しているのに、伏せた頭が絶対笑っている。 「この辺で殺人事件が起きてるの、知ってる? 」  セスは落ち着こうと水を飲んだ。 「テレビでやってる程度には。ハンターも動き出してるんだろう。」 「そ。隣の州と合わせるとそろそろ十人超えるんで、あっちこっちで似たような事件が起きるたびにハンターが大騒ぎしてるんだけど、三人目が出たのはこの街だけだ。吸血鬼はどんな感じ? 」  フライドチキンの油の匂いが漂う。懐かしいが食欲はわかない。 「知らない。」  その瞬間、彼の動きが一瞬止まった。 「知らない? あんたもハーレムにいるんだろ? 」 「他の吸血鬼とあまり交流がないんだ。」  骨をつまんでぶらぶらさせながら、ロルフが言った。 「ハーレムはどのくらいの規模なんだ? 」 「知らない。」  尋問している相手にこんなことを言われたら、殴るなりしたくなるが、人の目もあるせいか特になにもされない。 「ハーレムに所属してるなら仕事くらいするだろ? 毎日顔を合わせる奴が数人いないのか? 血液提供者確保するノルマとかあんだろ? 」  そろそろ嘘つくなと殴られそうだが本当に何も言えない。 「俺は、ない。」  ロルフが固まった。 「どういう意味? 」 「特になにするわけでもない。輸血用の血液パックもらって食いつないでいる。」  ロルフが骨を皿に落とした。 「あんた誰かの愛人なのか? 」 「……そういうわけでは……ない。」  そろそろ撃たれるかもしれない。 「あんた、吸血鬼になったのはいつだ? 」 「十年くらい前だけど。」 「よく他のハンターに狩られなかったな。」 本当に吸血鬼なのか疑われている。 「なってからしばらくはどこかの地下にいたから。外に出たのは最近だ。」  セスはフライドチキンの骨に眼を落した。十年前は自分もたまに食べるフライドチキンがご馳走のように美味しく感じた。今は脂の匂いやスパイスの匂いを食べ物だと認識できない。  吸血鬼かどうかも怪しくなってきたのだろう、ロルフが考え込んでいる。 「俺からも聞いていいかな。」  セスの申し出が意外だったのか、ロルフが顔を上げた。 「ハンターって吸血鬼を殺すんじゃないのか? 」 「昔はそうだったけど今は複雑なんだよ。」  骨になったフライドチキンが乗った皿をよけ、手を拭いてロルフは言った。 「殺人事件も吸血鬼が起こすようなのはほとんどなくなって犯人は人間だ。吸血鬼に血を売るやつもいるし。逆に敵対する吸血鬼同士でハンターに始末させようって情報流したり報酬もうらうこともあるし。」  シェイクをすする顔が幼く子供っぽく見えた。 「人間が自主的に吸血鬼に献血するってのも珍しくない話だな。あんたも可愛い女子の一人や二人信者がいるだろ? 輸血だけじゃ必要な栄養補えないし……。」  嘘が付けない性格で、無言になるとロルフが何かを察した。 「嘘だろ。それも人任せかよ。」  ここまで吸血鬼らしくない吸血鬼に遭遇したのは初めてなのだろう。  他人から言われると、改めて何もかもニコラスの世話になりっぱなしだったことに気付き自己嫌悪が込み上げる。 「……本当に吸血鬼なのか? 」 「……吸血鬼だよ。その銀のロザリオ触らせてくれたら焼けただれるからすぐわかる。」  セスが手を出すと、ロルフはセスの手を取った。 「あー、でも爪は吸血鬼だな。爪の根元がしっかりしてるし、厚みもあるし。」  しげしげと左手を眺めて言った。つま先や指の太さを確かめるように触れるのでくすぐったい。  その時、ロルフのスマートフォンが鳴った。番号に登録されている画像だろうか、金髪の美女の顔が映った瞬間ロルフがスマートフォンを掴んでひっくり返した。 「送って帰る。さっきの奴らに会ったらあんた殺されるだろ。」  ハンターに送迎される吸血鬼。セスの吸血鬼らしくない歴史の一ページが刻まれた気がした。 「大丈夫だ。一人で帰れるし、仲間同士で殺し合いなんかそう簡単に起きないよ。」  小突かれることはあっても、殺されることはない。 「ハンターなら殺されるだろ。」  ウェイトレスに伝票を渡して、チップを払いながらロルフが言った。 「俺と一緒なら殺させない。」  セスは反論できなかった。 「絡まれることよくあるのか? 」 「ほとんどないよ。」 「あるのかよ。あんた一人で生活できるのか? 」  ここまでハンターに心配される吸血鬼がいただろうか。少なくともセスは知らない。  家の前まで来た時、ニコラスと出くわした。一緒に連れているのは赤毛の美女で肌が青白い。見覚えがある。ニコラスの信者だ。 「お前が誰かといるのって珍しいな。」 「どうしたんですか? 」  赤毛の美女は意味深にセスに笑いかける。 「お前が中々店に来ないから誘いに。」  遠まわしに血を飲みに行かなかったことだと気づいた。 「すみません。ええっと……。」  答えた瞬間、セスの腰にロルフの手が回った。 「セスさん俺と遊ぶって言ったじゃないですか。」  赤毛の女性はきょとんとした後に、何かを察したのかニコラスの腕に手を絡めた。 「セス様は私がお気に召さないようですね。残念です。」  甘い声で言う。ニコラスはまだ疑っているようだが、ここまで世話をかけてきてさらに世話をかけるわけにはいかないと、セスもロルフの腰をがしっと抱いた。 「あの、今回は自分でなんとかしてみるので大丈夫です。」  見つめ合うと嘘がばれるので、そう言って部屋の中にロルフを連れて行った。  せっかくわざわざ来てくれたのに失礼なことをしてしまった罪悪感で今度は消えたくなった。 「あの人がニコラスって人? 」 「そうだよ。男前だろ。」  がちゃんっと鍵の締まる音がし、肩を掴まれると扉に背中がぶつかった。  唇がふさがり背筋に鳥肌が立つほどの生気に固まった。口の中にあふれ、飲み込む。温かくて、柔らかくて歯を立てそうになった瞬間、気が付いた。  唇が離れると目の前にロルフの顔がある。子供っぽいとさっきまで思っていたのに、どこか可愛らしいと思ったのに、蜜のような眼は無邪気さのかけらもない。 「血じゃなくてもいけるんだな。 」  血には劣るが、他の体液でも生気は取りこめる。  再び重なりそうになった唇を全力で拒んだ。これ以上はまずい。食欲に負けて絶対に噛みつく。 「だめっ、危ないからだめだ。」 「じゃどうすんだよ。あんたの腹かっさばいて胃に直接流し込むわけにはいかないだろうが。」  何気にグロテスクなことを言う。 「明日もあんたが腹空かせてたらあいつ絶対疑うだろ。」  痛いところをつかれてセスは黙った。  とっさとは言え、嘘をついて家にハンターを招き入れている。それがニコラスにばれたら、彼は自分をどう思うだろう。  「……キスはだめだ。」  生き血の味は知っている。何カ月と口にしていない。無意識に噛みついたり、ロルフの皮膚が少しでも傷ついて血を流せば、歯止めがきかないだろう。 「セスさん、血以外で補ったのいつが最後だ? 」  ロルフがずいっと顔を寄せる。 「六年か、もっと前……。」 「ほぼ処女じゃん。」  ぐいっとロルフの手がシャツをめくった。 「栄養失調ギリギリだな。あいつは輸血用の血を運ぶだけ? 」  貧相な腹筋というかアバラが浮かびそうな身体を見られて恥ずかしさで泣きそうだった。すっと指が胃の辺りから下腹部を撫でる。まさか本当に切る気か。 「ロルフ? 」  怯えた目で見ると、しげしげと腹を見ていたロルフがこっちを見た。 「細い腰だと思って。」  ひょいっと抱えられた。 「えっちょ……っ。」  痩せているとはいえ成人男性をこんなに軽々抱えられるものなのか。  ソファーに落とすとシャツをまくられた。両手で腰を掴まれる。身体が震えた。 「俺のけっこうでかいから、処女だとつらいかもな。」  腰に当たったものが、ズボン越しでも大きさが分かってぞくっとした。 赤い舌が胸に触れた。唾液が皮膚から生気を流し込んでいるようで熱くて身震いした。 「あっ……っ。」  指がズボンの間から入り込み、丸みを帯びた形にそって撫でる。 「セスさん立ち仕事とかしてる人? こっちは少し筋肉ついてるね。」  腹の上を舌がすべり、下がっていく。大きな手が身体を撫でまわしていたが、ズボンのジッパーを降ろして、下着ごと下げた瞬間手が止まった。 「これが、セスさんのご主人様? 」  腰に彫られたタトゥーを見て、ロルフが言った。花のようにも、文字のようにも見える黒い刻印は誰の所有物か表している。 「分かりやすいところにつけるもんじゃね? 」  再び指が動き、今度は身体の中に入ってくる。 「いっ……そ、それはぁ……。」  ゆっくりと中に入ってくる指が根元まで入った。 「あると逆に絡まれるだろうからって、ニコラスさんが……。」  指が引き抜かれ、軽々膝を抱えられる。 「軽っ……今までやった女よりも華奢だな。」  ロルフの体液が触れると、体の中が甘く疼いた。直接身体の中に触れると声も出ないほどの快感で思わずしがみ付く。 「……きっつ……セスさん、まだ入るか? 」  吐息が耳をくすぐるとはっとした。 「わ、かんないっ……。」  触れているだけで生気が滲みでている気がする。 「気持ちよくて……頭、おかしく……。あんっ……だ、ちょっと待ってっ。」  ロルフが少しでも動くと身体が抉られて声が漏れる。 「ごめん、無理……。」  揺さぶられるたびに、身体の中が解けていくような感覚がした。初めて血を飲んだ時のように、恍惚としていた。

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