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最終章:First Love

「尚指だけ、入れさせて。」 「いつもそれだけじゃ済まないじゃないですか。」 「お願い。」 櫻井先生は甘えた声で 仮眠室で突っ立っていた俺を抱きしめ、 ズボン越しに尻を揉んだ。 櫻井先生と 再度付き合うようになり半年がたった今も 俺たちは藍羽総合病院にいて、 変わらず男性医師二人きりの仮眠室で イチャイチャを繰り返していた。 櫻井先生は 俺の身長に合わせるように肩を下ろし、 キスで俺の気をそらせながら 手をするりとズボンの中へと滑り込ませた。 櫻井先生の長くて太い指が触れると、 キスは止まり、 櫻井先生はびっくりしたような顔をした。 「・・・柔らかい。もしかして用意してた?」 「・・・え、あ、あの ・・・ちょうど休憩時間がかぶると思って・・・。」 俺は恥ずかしくてうつむいた。 「相変わらず俺をその気にさせるのがうまいなぁ。」 ニヤッとした先生は 俺の顔を引き寄せ、再び熱いキスを浴びせた。 徐々に硬くなっていく下半身を感じ 体を擦り合わせた。 快楽に足元がふらつき 俺たちは抱き合った状態のままベッドへと倒れ込んだ。 この半年、 過酷な勤務時間で既に疲労している体だが 青春をリバイブしているように 互いの温もりに常時焦がれた。 櫻井先生は現場では厳しいのに 二人きりの時は 高校の時と変わらず俺にとことん甘かった。 先生はベッドの下の方へ移動し 俺の左足を持ち上げると、 開いた場所に指を差し込みながら、 俺の勃起したものを咥えた。 粘膜が液体を弾かせる音がたつ。 時折俺の表情を伺うように 上目でこちらを見られると とても恥ずかしくてつい目を背けてしまう。 俺はいとも簡単に 下を広げられながら、 先生の口の中で射精まで行き着いてしまった。 先生はもう慣れたように ベッドのそばに隠してあるコンドームを さっと取り出し取り付けると 口に入ったものを手に吐き それに塗りたくるように付けた。 そして正常位を好む俺の上に乗っかった。 何度も繰り返している行為なのに 毎度入る瞬間、緊張して強張ってしまう為 先生に「力抜いて」と注意されてしまう。 多忙で限られた時間しかない俺たちは その限られた時間の中で愛を何重にも重ねている。 ただただ幸せな日々だ。 1ヶ月ぶりに二人の休みが被った日曜日、 ちょうど両親も休みだと言うので、 俺は櫻井先生を実家へ連れて行くことになった。 再度付き合うことなってから 俺は櫻井先生に、 自分の親に恋人として紹介したいと話していた。 櫻井先生は反対したが、 俺は、親を安心させるためにも、 そして何より先生を安心させるためにも それが一番いいと思った。 「尚、緊張してきた。」 「・・・大丈夫ですって。」 実家までの電車はそれなりに混んでいたが、 俺は人目も気にせず、先生の手を握ると 先生も握り返した。 「おかえり。」 家に着くと、玄関では母が出迎えてくれた。 俺は事前に話があると両親に告げていた。 俺の身長では全く隠れない、 後ろにいる櫻井先生を見て、 母は少し戸惑っているように見えたが、 なんとなく空気を読んで、 俺たちを招き入れた。 櫻井先生は丁寧に母に挨拶をし、 お土産にともってきたクッキーの詰め合わせを渡し、 リビングルームに向かう俺の後ろについた。 リビングルームには、 ソファーで寛ぐ父がいた。 あれから、何度も過労で倒れ、 早く引退したいと常に嘆いている。 俺たちは 父親の指示通り空いているソファーに腰をかけた。 すると父はこちらをじっと眺め、 「二人は付き合っているのか?」 と、そう突拍子もなく聞いた。 「え?」 俺と櫻井先生は顔を見合わせ驚いた。 「あ、うん。そうなんだ。 同じ産婦人科で働いてる櫻井先生。 実は高校も一緒だったんだ。」 「へぇ・・・。」 「あ、あの、尚さんとお付き合いさせていただいている 櫻井優一と申します。 東京大学医学部卒で、 9ヶ月ほど前までアメリカのJ H大学の 研修プログラムにも参加させていただいておりました。」 「優秀だな。ご実家も産院なの?」 「いえ、うちは両親二人とも、大学勤務です。」 「あぁ。そう。いいじゃないか。採用だ。」 「お父さん、面接じゃないんだから。」 俺と、両親は爆笑していた。 櫻井先生は一緒に笑ったほうがいいのか、 笑わぬほうが良いのか困惑している様子だった。 「先生、だから心配しなくてもいいって言ったんです。 うちの親、こんな感じなんです。」 「何?心配って?反対されるとでも思ってたの?」 母が笑いながら聞いた。 「あ、いや、あの・・・僕、見ての通り男ですし、 尚さんと結婚とか出来ないですし、 孫とか・・・」 「あら、あなたって意外と古い考えなのね。 今、同性同士でも結婚式とかあげてるじゃない。 子供だって、 アメリカにいらしたなら分かると思うけど、 向こうでは代理出産も多いし、 二人が将来子供が欲しいなら、 オプションなんてたくさんあるのよ。」 櫻井先生は母の前向きさに圧倒されていた。 「結局私たちは、尚が幸せなら、なんだっていいのよ。」 その言葉を聞いて、櫻井先生の 強張った顔は緩んだ。 「・・・ありがとうございます。」 「俺は、誰かがあのでかくしすぎたクリニックを継いでくれればいいよ。 尚もやっと継ぐ気になったんだろう?」 「あ、うん。」 「尚はなぁ、高校1年の時まではよかったんだが、 2、3年になって急に勉強にも手がつかなくなって、 もう跡取りを諦めなければならないかと思ったよ。 一時期は大学進学もしないと言ってて 数年放浪して、やっと大学に行き始めてねぇ。 今は順調にやっているようだけど・・・。」 「もう、お父さん、櫻井先生の前でそんな恥ずかしい話題は止めてよ。」 「ははは、いいじゃないか。」 父も母も楽しそうだった。 俺たちは、認められたという喜びを噛みしめながら実家を出た。 父の勧めで「柏木レディスクリニック」を 二人で見学することになった。 隣にあるのに、俺はほぼ立ち入ったことはなかった。 「ずっとここを目指してた。」 クリニックの自動ドアが開くのと同時に、 櫻井先生が呟いた。 櫻井先生のような優秀な医者が 本来目指すような場所なのか 俺には分からない。 祖父が作り 父が大きくしたこの場所は 時に俺を縛り 窮屈で逃げ出したいときもあった。 だけど今では この場所に 近い将来自分がいて、 そしてその隣には櫻井先生がいる。 二人でずっと一緒に患者を診ていくと言う光景が 容易く思い描ける。 櫻井先生は 病院見学に前のめりで、 医局までの長い廊下を俺の少し前を歩いた。 今ではこの背中を見ても切ない気持ちには ならない。 「待って。」 小声でも届いたその声に 櫻井先生は振り向き 大きな手をそっと差し出した。 俺はその手をギュッと掴んで 櫻井先生の横に並んだ。 (終)

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