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ありふれた殺人 2-6

 私が目覚めたとき、周囲は暗く、寝室の電気も消されていたので夜なのだろうと思った。  私の身体は犯された時のままの状態でベッドに寝かされていた。私やジョエルの体液で汚れてしまったシーツ類もそのままである。  顔を覆っていたテープも外されており、幾分楽になっていたが、右手には手錠が掛けられたままで、あろうことか反対側は隣でくっつくように寝ていたジョエルの左手と繋がっていた。  シングルサイズのベッドに男ふたりは相当狭い。しかも私は壁際に寄せられたベッドとジョエルの間に挟まれた格好で身動きが取れなかった。  私の微細な反応を感じ取ったのだろう。ジョエルは私の身体を引き寄せ、彼の腕の中に私を抱き締めた。ジョエル自身もまた、セックスの後何もせずにベッドに転がりこんだのだろう。  私は身をすくめ、寝ているふりを続けたが、ジョエルは子供のような私の反応を楽しんだようだ。 「怖がらなくてもいいよ、ダニー。ほら、こうして抱き合っていると、本当に恋人同士に見えないかい?」  ふたりの間に手錠が無ければ、あるいはそう見えないこともないだろう。ジョエルは私と彼とが本当に相思相愛だと思っているのだろうか。 「……ダニーで七人目なんだ」  何がと聞けるはずもない。聞かずともわかりきっている。ジョエルは子守唄のように私に話を聞かせた。 「どの男も見てくれは良かったが、結局は俺の金か身体が目当てだった。でもダニーは違う。初めて逢った時から、俺を愛してくれた。だからあなたは特別時間をかけて楽しもうと思ったんだ」  診療所のことを言っているのか。私には遠い記憶のように思えた。 「ロボトミー手術って知ってるかい? まあ、『213号室の食人鬼』を書いたあなたなら当然知っているだろうけど、小説のモデルになった男は馬鹿だ。頭蓋骨に穴を空けて、前頭葉に塩酸を注入した。自分の意のままに動くゾンビ……というより恋人が欲しかったんだろうなあ。彼は見てくれはハンサムなのに、人の愛し方を知らなかった。だから失敗したんだ。十七人も殺しているけど。その点俺は人の愛し方を心得ている。そうだろう、ダニー?」  私を抱き締める腕の力が強くなる。 「ダニーは死ぬまで、俺を愛してくれるよな……?」  ジョエルの独り言か、問いかけなのか、判断がつかなかったので、私は小さく頷いた。 「ああ、ダニー。ありがとう。俺もダニーを愛してる」  しばらくするとジョエルはすうすうと寝息を立て始めた。今なら逃げ出せるか、とも思ったが、手錠で繋がれたままでは、どうすることもできない。  ジョエルの腕の中にいるうちに、人肌の温もりに絆されたのか、気づけば私も深い眠りに落ちていた。

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