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ありふれた殺人 2-7
次に目が覚めた時、私の身体には様々な変化が生じていた。
昨夜体液まみれになっていた身体は綺麗に拭われており、シャワーを浴びたかのようにさっぱりしていた。
寝かされていた場所も違っていた。私は全裸のまま毛布一枚を被った状態で板張りの床に転がされていた。
ベッドを見ると、シーツやマットレスが無くなりフレームだけになっていた。
そしてそのベッドの脚から一本の鎖が蛇のように私に向かって伸びていた。
まさかと思い毛布を取り払うと、右の足首と鎖とが結束バンドできつく留められていた。
しかし両手は自由であり、昨日より随分待遇が良くなっていた。
「おはよう、ダニー!」
仕事用のスーツに着替えたジョエルが紙袋を手に寝室へ入ってきた。私もおはようと返したつもりだったが、喉が掠れてしまっていて蚊の鳴くような声しか出せなかった。
「寝起きのあなたともうワンラウンドお相手したいところだが、生憎仕事でね。俺がいない間の水と食料を用意した。好きに飲み食いしてくれ。ああ、シーツとマットレスは処分させてもらった。悪く思わないでくれよ。最後にトイレだが、携帯用のものをいくつか用意したから、俺が戻るまではそれで済ませてくれ」
一気に用件を伝えて、紙袋を私に手渡すと、ジョエルはすぐに立ち去ろうとした。
「ま、待ってくれ、ジョエル!」
私は思わず彼を呼び止めた。
「どうしたんです、ダニー?」
「礼が言いたくて……その、色々ありがとう」
「愛する人の為ならば、俺は何だってやりますよ」
「ああ、ジョエル……私も愛してる。ただ、あの……もうひとつ、私の望みを叶えてはくれないだろうか?」
「望みですか? まさか仕事を休んで一日中一緒にいてくれ、とかじゃないですよね。もちろん、そうしたいですが、これでも俺は医者なので。患者を放っておくわけにはいかないんですよ」
「違うんだジョエル……その、せめて、服を、服を着させてくれないかい?」
室温は一定に保たれていて寒くはない。しかしいくら自分の寝室だろうと全裸のまま毛布に包まっているのは、いささか心許ないものがあった。
ジョエルの顔色を窺うと、彼は難色を示すどころか、さも当然とばかりに私の要求を切り捨てた。
「ダニー、服は不要ですよ。どうせ俺が帰ったら脱がせられるんですから」
「え……」
「まさか昨日だけで終わりだと思っていませんよね? あれだけで俺が満足するとでも?」
ジョエルの言葉に私は背筋を凍らせた。あの蛮行がこれから毎晩のように繰り返されるとでもいうのか。きっとそうなのだろう。
顔面蒼白になった私とは対照的に、ジョエルは私に軽くキスをして「夜には戻ります」と言った。
私はジョエルに何も返せなかった。
気づけばジョエルは姿を消していて、寝室のドアが閉まり、外からガチャリ、ガチャリと鍵が二度掛けられた。
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