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…きっとさっくんは子どもの頃、たいそう有名ないじめっこだったに違いない。 そうでなければ、こんな風にぐさぐさ胸を刺してくるような、 …人の穿り返されたくない羞恥の過去を思い出させようとする言葉なんてすらすら出てこないはずだ。 むむむ、と半泣きで睨み付けていると、不意に困ったような表情でさっくんが微笑む。 それから、伸ばされた手に腕を掴まれた。 「わ、」 身体を引かれ、ふわりと優しく抱きしめられる。 後頭部を支える手と、背中に回された腕。 身体だけじゃない、…さっくんの良い香りに包まれ、驚きに目を見開いた。 トクン、トクンと鳴る彼の鼓動が肌越しに伝わってくる。 「…調子に乗ってしまって申し訳ありません。でも、あの時の貴方はいつ思い出しても…胸が苦しくなるほどに可愛らしかったので」 「…っ、」 耳元で、囁くように上擦って掠れた声。 真剣なトーンの言葉に、何故かどきどきと心臓が速くなる。 「う、うう…可愛く、なんかない…」 抱き締められながら、獣のような唸り声を上げていると、…何かが指に触れた。 びくっと震えると、気遣うように触れてきたそれは、そっと彼の指の間にオレの指を絡めるようにして手を繋いできた。 「……貴方の精液で濡れていた指に今こうして触れさせていただいていると思うと…少しだけ、変な気分になってきますね」 ちゅ、と指先に口づけられ、そんなことをされながら意味ありげな目線を送られて、真っ赤になった顔と思考がついに爆発した。 「うにゃあ゛あ゛あ゛あ゛…!!!」 つんざくような声で叫ぶ。 手を振り払い、熱い顔を隠しつつ、頭を抱えながら傍にあった布団にもぐりこんだ。 ぐるぐるごろごろと布団を巻き付けながら、なんだか言葉にできない気持ちを表すように脚をじたばたさせる。 「…っ、もうさっくんなんかだいきらいだ…」 「俺は大好きですよ」 「…っ!っ!」 そんな台詞とともに、まきつけた布団の上から抱き締められ、ぴくんっとする。 「……でも、夏空様は俺のこと…嫌いなんですね…」 「…っ、………き、きらい、じゃない…」 しゅんとした声を出すさっくんが気になって、布団から顔を出す。 傷つけてしまっただろうか。 「………」 こっそり盗み見ると、凄く辛そうな、落ち込んでるような表情をしていた。 俯いているせいで、さらりとした黒い前髪が目にかかり、余計に悲しみを濃く見せている気がする。 …まるで今まさに親に捨てられた小さな男の子みたいな雰囲気に、う、とうめき、思わず視線をそらした。 唇を噛む。 「………だから、だな…」 「……」 もごもごと言い淀み、慣れない言葉を吐こうとしている唇はうまく動いてくれない。 しかも何故か頬まで熱くなってきた。 「だから、その、つまり……」 ここまで言ってもまだ口ごもってしまう。 肝心なことは何一つ言えていない。 …ええい。 主たるもの、しっかり。びっしりばしっと言わねば。 「………っ、……っ」 相手の顔を見る余裕もなく、ぐるぐる思考を動かして、 ……もう一度、息を吸いこみ、ぎゅっと目をつぶって吐き出す。 「…………だいすき、だ」 続けて「……ごめん」とちょっとそっぽを向きながら謝った。 それから、ちらっと様子をうかがってみる。 …すると、 「はい」 「――っ」 本当に 大袈裟じゃないかと思うほど 嬉しそうに、泣きそうな笑顔で微笑んでいるさっくんがいた。 ―――――― (……『夏空…っ』) (その笑顔に、別の誰かが重なって見えた気がした)

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