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御主人様は、いつだって我が儘
***
「夏空様、」
耳に心地よい声が届く。
ソファーでうとうとしていると、髪を優しく撫でられた。
「…ぬ、……な…に?」
一緒にテレビを見ていたはずなのに、いつの間にか寝てしまっていたらしい。
…まだ完全には起きていないから、この微妙に良い感じを消したくない。
「歩けん。…運んでくれ」
手を伸ばす。と、「畏まりました」クス、と笑みを零す気配とともに、膝裏と腰に回された腕で抱き上げられる。
「夏空様はいつになったらご自身の足で歩くようになるのでしょう」
「…む、」
「外ではあれほど大人びて凛々しく振る舞っていらっしゃるのに、家ではこのようにまるで幼い子どものように…」
「…んー…、違う」
寝ぼけながらむっとしてなんとなく否定する。
ついでに目を開ける。
と、
近くにある彼の整った顔は全く嫌がってないというか、むしろそれ以上に優しく…甘く微笑んでいて、わざとらしく困ったなぁとでも言いたげな言葉に反している。
「ここにはさっくんしかいないんだから、別にいいだろ」
「…っ、…嗚呼、貴方は…また無自覚に誑かすようなお言葉を…」
溜息を吐き、「俺ではなく他の方にそのような発言をされたら、勘違いされかねないお言葉ですからね」とイマイチわからないが、良くない言葉だったらしい。釘を刺される。
ぼーっと、さっくんの綺麗な黒髪とか、肌の薄い色素とか、異常なほどの端整な顔とかを見つめていると、「どうかされました?」と目を細めて笑みを零される。
…「なんでもない」なくはないけど、オレもさっくんみたいな顔だったら、性格だったらもっとみんなと仲良くなれて人気あったんだろうなとかちょっと考えてただけだ。
寝室に入り、ベッドの上に下ろされる。
「…ん、」
ふかふかなベッドに身をゆだねると、睡魔が重く襲ってくる。
…眠い、寝よう…と考えていると、さっくんが傍を離れようとする。
ぐ、と手首を掴んで引き留めた。
「どこに行くんだ」
「…居間で明日の準備でもしようかと、」
困ったように返すさっくんに、首を横に振る。
じと、と睨む。
「だめだ」
「ですが、夏空様が希望され、…っ、」
このままでは、らちが明かない。眠い。と思う感情のままにさっくんを強引にベッドに引きずり込んだ。
「一緒に寝るぞ。嫌だとか拒否権はない。オレと一緒に寝ろ」
「…全く、俺の御主人様は寂しがりやですね」
「別に寂しがりじゃない。さっくんがいないと寝れないからだ」
自分の前後の発言が矛盾しているのは百も承知だ。
というか、それをさっくんにも言われているような声が聞こえてきたが、気にせずにさっくんをぎゅうっと抱き締めて…そのまま10秒と経たずに眠りにおちた。
朝起きたら、さっくんの寝顔が隣にあった。
ちゃんと寝ていたようだから、なんだかんだと居間に戻らずにずっと一緒にいてくれたんだろうと思うとやはりさっくんはオレに甘いんだと思って嬉しくなった。
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