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第56話

下腹部の重怠さとケツの切れたような痛みに目を覚ますと、気持ちよさそうに眠る城崎が俺を大切そうに抱きしめていた。 俺、城崎とシたんだ…。 まだ地平線から昇ってきたばかりの朝日が都内を明るく照らし、部屋に柔らかい光が差した。 「先輩……?」 「城崎、おはよう。」 城崎は目を擦って大きな欠伸(あくび)をした。 まだ眠そうだ。 「寝てていいよ。」 「先輩が起きるなら起きます……。」 「いや、俺も二度寝する。」 まだ余韻に浸りたいし。 でも喉がカラカラで口がくっつきそうだ。 サイドテーブルに置いてあるミネラルウォーターを口に含むと、口の渇きが潤った。 「先輩、俺も…。」 「はい。」 「やだ。口移しで飲まして…?」 上目遣いでおねだりをする城崎。 寝ぼけてるとこんな可愛いの? もう一度ミネラルウォーターを口に含み、城崎と唇を合わせる。 「ん……く……」 「上手くできないな。」 唇を離すと城崎の口角から水が(あふ)れていく。 俺が下手なのか、そもそも口移しとはそういうものなのか。 もう一度チャレンジしようと体を起こすと、身体ごと引き寄せられて、俺は城崎の腕の中に収まった。 城崎は俺の耳元に顔を近づけて、フッと息を吐く。 擽ったくて身じろいでいると、城崎の甘くて低い声が俺の耳を抜ける。 「綾人さん」 「えっ…」 「綾人さん、愛してます。ずっとずっと大切にします。」 「ちょ、待って、城崎…」 自分でも真っ赤になっているのがわかる。 身体中の血が(たぎ)る。 いきなりは狡い。 「ずっと呼びたかったんです。」 「ば……、やめろっ……」 「綾人さん、好き。」 「耳元で言うな…っ」 「綾人さん」 「も、いいって…」 「綾人さん、可愛い。大好き。」 城崎の身体を押して距離を取ろうとするが、力敵わず城崎に抱きしめられる。 名前を呼ばれる度、胸がきゅうっと締め付けられるような気持ちになった。

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