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第87話

温かくて、安心して、 ……あれ?俺今何してたっけ? なんて思って目を覚ますと、優しい顔で俺を見つめる城崎と目があった。 「起きました?」 まるで王子様みたいだ。 何度も言うが城崎は国宝級のイケメンで、そんな男に見つめられて甘い声で囁かれている贅沢な俺。 こんなとこ見られたら全世界の女にボコボコにされてしまうんじゃないだろうか。 夢見心地だったのに、サッと肝が冷えた気がした。 「先輩、俺のことそんな好きなんですか?」 「へ…?!」 「ジャケット。」 城崎に言われてハッとする。 そういえば城崎のジャケットの匂い嗅いでた気がする。 案の定俺の手には城崎のジャケットを握られていて、城崎はニヤニヤ嬉しそうに俺の頭を撫でた。 「嬉しいです。」 「こ、これは…、その……」 「俺の勘違いですか?でも、俺は先輩の匂い大好きですよ。」 「うわぁっ…!」 ぎゅぅっと抱きしめられて城崎の腕の中に収まる。 服から香る匂いじゃなくて、城崎自身の匂い。 甘え下手の俺を死ぬほど甘やかしてくれる、包容力の権化(ごんげ)。 多分城崎は俺が甘えることを躊躇(ためら)っているのも分かってるし、それを分かった上で俺が甘えやすいように誘導してくれているんだと思う。 城崎の優しさに乗じて、俺は城崎の背に手を回し、ぴたりと城崎にくっついた。 「震え、止まってよかったです。」 「うん。まだ悪寒するけど。」 「寒いのにソファで寝てちゃよくなりませんよ?」 「ごめん…。」 心地よさに目を閉じようとすると、「あ、そうだ。」と城崎が何かを思い出したように立ち上がった。 「薬、買ってきたんですけど飲めますか?一応医者やってる知り合いが勧めてくれたやつなんすけど…。」 「あぁ、あの……。」 「はい。前先輩にあげた塗り薬勧めてくれた人です。割といいの紹介してくれるんで頼っちゃうんですよね。」 城崎は箱から瓶を取り出し、錠剤2錠とミネラルウォーターを俺に差し出した。 薬を飲んでいる間に、城崎は温タオルと着替えを持ってきて俺をまた脱がせる。 「城崎、気持ちいい……。」 「こんな汗かいたら気持ち悪かったでしょ。」 「ごめんな、こんなことさせて。」 「お安い御用ですよ。」 着替え終わると(わき)に体温計を挟まれて、また熱を測られる。 ピピッと音が鳴り、城崎が俺をまた抱えてベッドに連れて行った。 「熱、上がり切ったみたいですね。39度8分。薬も飲んだし、あとはちゃんと休んで解熱待ちましょうか。」 「さっきよりマシだと思ったのに上がったの…?」 「さっきは今から体温上げるぞって生体防御ですよ。ほら、そばに居るから寝てください。」 「うん。ありがとう、城崎。」 城崎に見つめられながら、俺は安心して眠りについた。

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