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第93話
診察室へ戻ると、城崎は幾分 かさっきより楽そうな表情をしていた。
倉科さんが点滴を抜針し、薬を準備しにどこかへ行った。
城崎は上半身を起こし、ベッドを叩いた。
俺は城崎に促されるまま隣に座る。
「城崎、大丈夫か?」
「はい。迷惑かけてすみません…。」
「そんなことねぇよ。ちゃんと薬飲んで、明日も仕事休め。俺が城崎の分まで頑張るから。」
「先輩、本当かっこいいですね…。」
城崎はまだ少し怠いようで、俺にもたれかかり目を瞑った。
可愛い…。
思わずキスをしようとした時、タイミング悪く倉科さんが戻ってきた。
俺はバッと体勢を戻すが、それを見て倉科さんはくつくつと笑っている。
「続き、どーぞ?」
「やっ…、その……!」
「まぁ今そいつ焚 き付けたら悪化しそうだからオススメはしねぇけど。」
倉科さんは「はい。」と薬を手渡す。
城崎は寝ぼけ眼 で倉科さんから薬を受け取った。
「夏月も意外と上玉 捕まえたじゃねーの。」
「駄目ですよ。透さんの好みじゃないでしょ?」
「好みじゃねぇし、俺には家で待ってる可愛い恋人がいるから安心しろ。普通に良い奴捕まえたなって褒めてんだよ。」
「それはどうも。」
診察代と薬代を払い、クリニックを後にした。
タクシーに乗って城崎の家へ戻る。
「なぁ城崎。倉科さんすげぇな。腕時計見た?」
「そりゃあ医者ですからね。結構腕の立つ心臓血管外科医らしいですよ。大学病院からも戻ってこいって声かかってるレベルみたいですし。」
「へぇ、そんなにすげぇんだ。」
「先輩、あんまり透さんのことばっかり褒めてたら、俺また嫉妬しそうです。」
「ごめんって。そういうつもりじゃねぇよ。」
クリニックから城崎の家までそう距離もないため、話しているうちに到着した。
城崎を部屋まで送り届けて、名残惜しいが帰る準備をした。
「先輩、ありがとうございました。」
「うん。ゆっくり休めよ。」
玄関で靴を履いていると、後ろから抱きしめられた。
弱っていていつもより甘えたな城崎。
振り返ってキスをすると、「駄目です。」と肩を押し返された。
「家に先輩がいるだけで我慢してるのに。あまり煽らないでください…。」
「ごめん。なんか突然キスしたいと思って。」
「俺だっていつでもしたいです。でも、出張までにお互い完全回復したいので今は我慢です。」
寂しそうな城崎を置いて、俺は家を後にした。
来週には出張が控えている。
二人で初の遠出であり、城崎の初めての出張。
楽しみ3割、プレッシャー7割ってところだろうか。
城崎の回復を切に願いながら、俺は帰路についた。
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