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第92話
「熱拗 らせただけだと思うけど、点滴した方が早いから、悪いけどうちのクリニックまでこいつ連れて来てくれる?」
「え…。あ、はい。」
「すぐそこなんだよ。俺先行って準備しとくわ。」
倉科さんは「じゃ、よろしく。」と言い残して帰って行った。
あの若さでクリニック持ってんの…?
「透さんの親父さんが開業医で、そこを継いだらしいですよ。」
「そうなんだ…。」
俺の疑問を見透かしたように城崎はそう言った。
城崎に肩を貸して、マップを開いて倉科クリニックを探すと、一駅も離れていないくらい近いところにあった。
タクシーに乗ってクリニックに向かうと、入り口まで迎えに来てくれていた倉科さんがひょいっと軽々城崎を担いで中に連れて行った。
城崎はベッドに降ろされるなり、すぐに点滴が開始された。
心配でそれを見守っていると、倉科さんは振り返ってニヤリと笑い、俺を別室へ拉致 した。
「で?夏月の恋人くんは何でそんなに怒ってるわけ?」
「えっ?!お、怒ってなんか…!」
「見ればわかる。俺のことすっげぇ顔で睨んでたぞ。」
倉科さんはククッと笑った。
余裕そうな表情がなんだか癪 だ。
「城崎とどういう関係ですか…?」
「聞いてねぇの?友人だけど。」
「聞いてますけど…。その、お互いゲイなんでしょう?それにそんな整った容姿だったら…、その……」
「ん?」
「一線超えたこととか…、一度くらい………。」
不安と悔しさと悲しさが入り混じって声が小さくなる。
一方で倉科さんは俺の言葉に吹き出した。
「ぷっ、くくっ!俺が夏月と?ないない(笑)だって俺もあいつもタチ専だからな。いくら顔が綺麗でもその気は起きねぇよ。」
「タチ専…?」
「あぁ、挿れる方しかしねーってこと。それに、夏月は顔は一級品だけど俺の好みじゃねぇし。」
「本当ですか…?」
「本当本当。俺は可愛い子が好みだから。」
倉科さんは笑いを堪 えながら俺の質問に答えてくれた。
「なんで君にしてもあいつにしても、俺と夏月がくっつくと思うかな。ありえねぇだろ。」
「あいつって?」
「俺の恋人。そいつも初めて夏月を見た時、同じ勘違いしてたんだよな。」
「そりゃ……。」
こんなハイスペック彼氏いたら、不安や心配なんて日常茶飯事なんじゃないか?
というか、恋人いたんだ。
この言い草じゃ本当に城崎とは何もないみたいで、ほっと胸を撫で下ろした。
「っと…、そろそろ点滴終わる頃かな。」
倉科さんは腕時計を見て、診察室へと戻って行った。
俺はというと、倉科さんがあの超有名な数百万の腕時計を付けていることに驚いて固まってしまい、ワンテンポ遅れて城崎の元へと向かった。
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