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第96話

「Sコーポレーションの望月様と城崎様ですね。お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ。」 取引先へ着いて受付に名乗ると直ぐに上へ通された。 さすが大手企業は報連相がきちんとしている。 俺はと言うと、緊張は解けたものの心臓バクバクでどっと汗をかき気持ち悪い。 城崎は涼しげな顔をしていてなんか腹が立つ。 俺たちを乗せたエレベーターはあっという間に上へ昇っていく。 エレベーターから降りると、この取引のやり取りをしていた常務が俺たちを出迎えた。 「本日は遠方からご足労いただきありがとうございます。」 「こちらこそ取引に応じていただき感謝致します。」 「社員ともども楽しみにしておりました。どうぞこちらへ。」 会議室に通され、その広さにたじろいだ。 予定では会議に参加するのは15人と聞いていたが、30人くらいいないか…? 俺が固まっていると、常務はニコニコ笑った。 「みんなSコーポレーションさんのプレゼンが聞きたいと集まってくれたんだよ。予定より人数が多くてすまんね。」 「え、あ、はい。お集まりいただきありがとうございます…。」 「時間もないし、始めていただけるかな?」 「えっ……」 常務は席についてそう言った。 待てよ、マジか。 資料は多めにコピーしてきたものの、さすがに倍量も刷ってきてない。 慌てて部数を数えていると、2部足りなかった。 「すみません。資料が……」 「時間がないんだ。始めてくれるかい?」 「いや、その……」 常務はニヤニヤと笑っている。 クッソ!!さてはこいつ、確信犯だな?! 緊急事態を予測できない無能会社と取引はしねぇってか? だからってこんなところで取引先に怒鳴るわけにもいかず、どうしようか途方に暮れていると、城崎が俺の肩を叩いた。 「先輩、始めましょう。」 「いや、でも資料が…」 「これ配れば何とかなりますよね?」 俺と城崎の分の資料があれば確かに数は何とかなる。 でも資料なしで説明なんて…。 プロジェクター見つめながら話すわけにもいかねぇし。 「俺に任せてください。」 城崎の言う通り、俺は手元にある資料を全て配った。 全員に資料が回ったところで、城崎はプレゼンを開始した。 「皆様、お集まり頂きありがとうございます。Sコーポレーションの城崎です。本日はこちらの……」 城崎は資料も見ず、ましてや画面も見ずにスラスラとプレゼンを進めていった。 始まって間もなく、ニヤニヤほくそ笑んでいた常務は、目を見開いて城崎のプレゼンに圧倒されていた。

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