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第98話
無事に契約を締結し、俺と城崎はやり切った顔で取引先を後にした。
「やったぁ〜!これで肩の荷が下りた〜!!」
「明日もありますよ?」
「明日は贔屓にしてくれてるとこだし、担当さんと俺仲良いからそんなに緊張してないんだよ。」
ぐ〜っと伸びをして解放感を味わう。
本当、うまくいってよかった。
「ほっとしたら腹減った!城崎、なんか食べよ!」
「いいですよ。先輩何も食べてないですもんね。どうします?」
「小倉トースト!!」
「それご飯じゃなくておやつじゃないですか。」
「名古屋着いた時から本当はずっと食べたかったんだよな〜♪ちゃんと事前に調べといたんだよ。なぁ、ここ!ここ行きたい!」
城崎にスマホの画面を見せて教えると、城崎は「仕方ないなぁ。」と言いながらも、すぐに調べて俺を店まで連れていってくれた。
着いたところは閑静な住宅街にあるお洒落なカフェ。
客層は殆どが若い女性のようだ。
席に着くと店員がおしぼりとお冷を持ってきてくれた。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」
「珈琲二つ、小倉トースト一つ。」
城崎はそう言って店員にメニュー表を渡す。
俺の頭は疑問符でいっぱいだ。
「えっ?城崎食べないの??」
「食べ切れる自信ないです。甘いもの、そんな得意じゃないですし。」
「じゃあ残ったら俺が食うよ。すみません、小倉トーストも二つで。」
「かしこまりました。」
名古屋に来て小倉トースト食わないなんて勿体ない。
ぷぅっと頬を膨らませると、城崎はぷはっと吹き出した。
「何怒ってるんですか?」
「だっておまえ、小倉トースト頼まないなんて許せん。」
「先輩の一口もらおっかなって。」
「あげねぇよ。俺全部食うもん。」
甘党の俺が譲るわけないのに、城崎は俺なら何でもくれると思ってるんだ。
まぁ、あげちゃうかもしれないけど…。
先に珈琲が運ばれてきて、俺は甘くしてからそれを飲む。
小倉トースト早く来ないかな〜と鼻唄歌いながら待っていると、OLっぽい若い女性客がこっちに近付いてきた。
「あのぉ…。モデルさんとかですか?」
「いや?」
「えぇ!違うんだぁ?もしよかったら連絡先とか教えていただけませんかぁ?」
うん、完全に城崎狙い。
目もハートだし、猫撫で声だし、絶対女出してきてる。
というか普通に顔も可愛いし、胸も大きいし、清潔感もあって良い匂いするし。
アリじゃね?こんな素敵な子に言い寄られたら城崎だって…、と思いながら恐る恐る城崎に目を向けると、ムスッとした顔で俺を見ていた。
「恋人いるのですみません。」
「あっ…、そうですよね!ごめんなさい、あまりにも素敵だったから…!」
女性はペコペコ頭を下げながら、とても残念そうに去って行った。
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