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第99話

「目くらい合わせて断ってやれよ。」 「先輩は鼻の下伸ばして満更でもなさそうでしたね。」 「の、伸ばしてねぇし?!」 奴がむくれてる理由はそれか。 俺が女の人見つめてたから。 いや、だって俺ゲイじゃねぇもん。 綺麗な女性いたら、いいなとかそれくらい思うもん。 「素敵な人だったじゃん。」 「俺にとって素敵なのは先輩だけなんですけど。」 「うっ……」 「先輩は俺があの人に鼻伸ばしてていいんですか?」 「や、やだけど……。」 城崎が俺以外の人に目移りしてるの想像したらモヤッとした。 城崎も今こんな気持ちだったのかな? 「ごめん…、城崎。」 反省の色を示すと、城崎はにっこり笑った。 「先輩、小倉トースト来ましたよ。」 「わっ…。美味そう……。」 「先輩、顔ふにゃってなってます。」 「マジ?やべーやべー。」 目の前に大好きなスイーツが運ばれてきて思わず表情筋が緩んだ。 名古屋に来た時の俺のご褒美スイーツ。 めちゃくちゃ美味そう。 一口食べると餡の絶妙な甘さが広がってうっとりした。 「うまぁ…♡」 「先輩、可愛い。」 「城崎も食ってみ。まじで美味い〜」 ぱくぱく食べ進め、俺の皿からあっという間に小倉トーストがなくなった。 全然もう一個いける。 「小倉トースト作った奴天才だろ…。」 「たしかに美味しいですね。」 「城崎全部食えそう?俺追加で頼んで良い?」 「いや、もういいです。先輩どうぞ。」 城崎は二、三口しか食べていないようで、残りを全部俺にくれた。 甘いのが苦手なんて勿体無いよなぁ。 「ご馳走様でした。」 俺は舌鼓を打ちながらペロっと食べ切り、珈琲も飲みきった。 お腹が満たされて幸せだ。 まぁ朝から何も食ってなかったからもうちょっと何か食べたい気もするけど、そうこうしてる間に夜ご飯の時間になるからこれくらいが丁度いいだろう。 「先輩、次どうします?」 「んー。もう疲れたしなぁ。」 カフェを出た時間は16時。 商談で疲労困憊(ひろうこんぱい)の俺たちは、早めにホテルにチェックインしようと意見が合致し、予約していたビジネスホテルに向かった。

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