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第826話

「せんぱ〜い…。ごめんなさいってば…。」 「しばらく来んな。」 自分からキスしたのがきっかけとなり、城崎のスイッチを入れてしまったようだ。 腰砕けになるほどの熱烈なキスをお見舞いされ、俺は今、物理的に城崎から距離を取ろうとしている。 このままじゃ、仕事とプライベートの境界線分からなくなる…。 会議室から出ると、ちゅんちゅんが気づいて寄ってきた。 「あ!望月さん!」 「ちゅんちゅん、おいこら。元はと言えば、おまえのそのゆるっゆるな口が全部バラしたから…」 「こら、城崎。自分が悪いのにちゅんちゅんのせいにしない。」 「すみません…。」 城崎がちゅんちゅんを見下して威圧しているのを止める。 ちゅんちゅんが言わなかったら、俺は気づかなかったかもしれないし。 朝から城崎に感じていた視線の原因も、城崎が休暇を取れた理由も解決した。 城崎に怯え、俺の背中に隠れるちゅんちゅん。 この口の軽さを見ていると、いつかポロッと俺たちの関係も暴露されそうで怖い。 「望月さぁん…、城崎さん怖い…。」 「まぁ、ちゅんちゅんも口の軽さはどうにかしないとだな。」 「えぇ〜?俺、口軽いっすか?」 「うん。すっごく。」 自覚ないの怖ぇ〜……。 本当にいつの間にか広まってそう。 「何話してんの?」 「あ、涼真。別に大した話じゃないよ。ちゅんちゅんが口軽いって話。」 涼真が来て、俺に尋ねた。 ちゅんちゅんは新しい逃げ道が来たと目を輝かせている。 「はは。ちゅんちゅんはいい奴だけど、無自覚で信用失いそうだな。」 「えっ?えっ??」 「「同意。」」 「えぇ〜?!!」 涼真の言葉に俺と城崎が頷くと、ちゅんちゅんがショックを受けてその場で崩れ落ちた。 今一度その口の軽さを反省してもらわないと、俺たちの平穏な職場関係が終わるかもしれない。 勘付かれていたとはいえ、暴露する相手間違えたな。 くすくす笑っていると、「おはようございます。」と後ろから聞こえた声に体が固まった。 この声は………。 「蛇目……。」 「主任、お久しぶりです。」 朝からいなかったから、休みだと思って油断していた。 心の準備ができていなかったから、自分でもわかるくらい動揺している。 城崎は俺を守るように、俺と蛇目の間に立った。 「おやまあ、城崎くん。そんなに睨まなくても…。別に取って食おうとしてるわけじゃないんですから。」 「うっせぇ。」 「この傷、まだ痛むんですよ?城崎くんが休んでいた三日ほど、外回りも行けないくらい腫れてたんですから。」 蛇目は左頬を触りながらそう言った。 たしかに言われてみれば、少し腫れてる…かも…。 「主任、この間はすみませんでした。反省しています。」 「先輩、行こう。こいつの話なんて耳貸さなくていい。」 「待って、城崎…。」 本当は逃げたい。 城崎に逃げて安心したい。 でも、本当に俺と蛇目は何もなかったって、全てを知っているこいつの口から確認したかった。 「蛇目…、本当に俺たち何もなかったんだよな…?」 「何かあってほしかったですか?」 「何もあってほしくないよ。」 怖くて声が震える。 俺の返答に、蛇目はふふっと笑った。

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