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第828話
家に帰ってから、城崎は俺を離してくれなかった。
お風呂も、ご飯も、食器洗いも。
珍しく全部俺がして、城崎は俺の腰に手を回してずーっとくっついていた。
おそらく蛇目のせいなんだろうけど…。
「城崎、ずっとくっついてたら何もできないって…。」
「…………」
「城崎さーん…?」
蛇目といつかは会うのは分かっていたことだし、城崎が蛇目のことを殴ったのも、いずれは俺の耳に入ったと思う。
一体何をこんなに拗ねているのか。
城崎の頬をもちもちと抓っていると、やっと口を開いた。
「擬似精子ってなんですか…。」
「え?」
「先輩言いましたよね。どこにつけられてたんですか?」
「ど、どこにって…。」
尻から出てた。
だからセックスしたと完全に思い込んでいた。
けど、こんなこと言ったら、城崎はまた蛇目を殴る可能性がある。
「あの人、先輩の善がる声とか仕草がなんだって俺を煽ったんですけど、実際セックスはしてないじゃないですか。どこまで見られたんですか?」
「え……っと……」
起きたら裸だった。
陰毛を剃っていることもバレている。
つまり、裸は見られているんだけど…。
これ、言っていいのか……?
「先輩が勘違いしたってことは、きっと裸だったんですよね…。はぁ………。」
「し、城崎…」
「先輩の綺麗な身体、全部俺だけのものなのに。」
「そうだよ。城崎のものだよ。だから…」
「じゃあ俺のだって印、いっぱい付けてもいい?」
うわぁ〜……。
本気の目ぇしてやがる…。
昨日までの三日間で、キスマークいっぱいつけられた気がするんだけど…。
「見えるところはダメだぞ?明日も仕事なんだから…。」
「分かってる。」
「んっ…」
Tシャツを捲られて、腰回りを何度も吸い上げられる。
城崎の唇が離れるたび、そこは紅く色付いた。
城崎の真剣な目を見ていると、そんなにも俺を独り占めしたいのかと、ドキドキというか、キュンキュンというか、なんだか堪らない気持ちになる。
「城崎…っ」
「ふふ。俺の先輩…」
「…っ」
キスマークを撫でながら嬉しそうに笑う城崎が愛おしくて仕方ない。
脇腹、背中、腰、それに内腿やふくらはぎ。
たくさん付けて満足したらしく、城崎は俺を抱きしめて眠ってしまった。
ベッドサイドテーブルの時計が0時を示す。
7月20日。
7月……、20日………。
「あぁっ!!!」
「何…?どうしたの…?」
「な、なんでもない!」
大きい声を出したから城崎が起きたけど、またすぐに寝てしまった。
まずい………。
明後日、城崎の誕生日じゃん…。
距離を置いたりしていたからそれどころじゃなく、誕生日プレゼントなんてもちろん用意していない。
残された時間は、今日と明日の仕事終わりだけだ。
「どうしよう……。」
せめて何をあげるか候補だけでも…。
そう思うのに、久々の仕事終わりで疲労がいつもの何倍もあって、俺は気を失うように寝落ちてしまった。
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