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第829話

7月21日19時。 城崎の誕生日に気づいてから二日間、やはり城崎が俺から離れるわけもなく、仕事終わりも真っ直ぐに家に帰ってきていた。 「先輩、おかえりなさい♡」 「あぁ…」 ただいまのキス。 あぁ、俺どうするんだ? 城崎の誕生日まで、もうあと6時間もない。 「先輩、最近上の空ですよ?どうかしましたか?」 「いや…、うーん……。」 「悩み事?」 「悩んではいる…。けど、苦しんでるわけではない。」 悩み事があるとだけ伝えたら、きっとこいつは心配してしまうから。 幸せな悩みだと思う。 彼氏の誕生日プレゼント何にしようかな、なんて。 結局準備できないまま迎えてしまうことになるのだけれど…。 「飯、俺が作る。」 「え?いいですよ。先輩疲れてるでしょ?」 「そんなのおまえもだろ。」 「俺は別に…」 「いいから座っとけ。」 せめて飯くらい。 大したものは作れないけど…。 野菜を切っていると、城崎は腰に手を回してきた。 「あぶねーだろ。」 「だって嬉しいんだもん。先輩が俺のためにご飯作ってくれてるの。」 「今はダメ。」 「え〜。新婚さんみたいでドキドキしてるの俺だけ?」 何言ってんだ、こいつ。 好きな人とこんな密着したらドキドキするに決まってるじゃん。 「ドキドキするからダメだっつってんの。手ぇ切ったら城崎のせいだからな。」 「それはダメ!!離れるからケガしないで!」 城崎はさっきまでの甘えん坊は何だったのかと思うくらいパッと離れて、俺から距離をとってじーっと見つめていた。 「そんなに見られたら恥ずかしい。」 「触っちゃダメなんだから、見るくらい良いじゃないですか。」 「もう少しバレないようにとかできねーの?」 「できません。……あ、動画撮って良いですか?」 「人の話聞いてた?」 城崎は俺にスマホを向けた。 ピロンッと音がしたから、本当に動画を回し始めたのかもしれない。 集中できねぇ…。 「なぁ、城崎。そろそろやめ……ッ」 「先輩っ?!」 マジで切ってしまった。 ほんのちょっと掠っただけだから、少し切れただけだけど。 城崎は俺の方に飛んできて、怪我した指を口に含んだ。 「ちょっ…、城崎?!」 やば…。 視覚的にも変な気分になる。 城崎の舌先が傷口に触れるたび、ビクビクと身体が震えた。

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