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3、腹ペコ坊主、腹いっぱい。

【正嗣】 隆寛不足だ。 部屋の真ん中でゴロゴロしながら正嗣はため息をつく。最近、法要や葬儀が立て込んでいるらしく隆寛と会えてない。 元々、定休日なんてないような職業だ。夜でも朝早くでも、駆けつけて読経しないといけないし、檀家の都合にあわせてスケジュールを組む。 付き合って分かったことだが、なかなか僧侶は忙しい。 うじうじする二十八歳。我ながら気持ち悪いけど、仕方ない。きっと仕事してないのが悪いんだ。 部屋の隅に置いてある不採用通知。もう見飽きたなあと苦笑いした。 【隆寛】 正嗣不足である。 法要を終えて、カラカラになった喉を茶で潤す。隆寛はふうとため息をつく。 正嗣と付き合うようになって毎朝抜かなくても良くなったが(それでも同年代より回数は相変わらず多い)今度は会えなくて、フラストレーションがたまる。 煩悩だらけだなあ、と頭を振っている遠くからもう一人袈裟をきた僧侶が部屋に入ってきた。 「どうした隆寛、冴えない顔してるな」 剃髪をしていない彼は隆寛と同じ僧侶の[[rb良照 > よしてる]]だ。 「んー、ちょっと」 「そんな顔してたら檀家さんから嫌われるぞ。可愛さだけが取り柄なんだから」 坊主頭をポンと叩かれて、隆寛はちょっとムッとした。良照は隆寛より五歳歳上。子供扱いしたい気持ちはわかるが、隆寛はもう二十八歳。いい歳をした大人だというのに。 【正嗣】 今日は風が心地よい日。桜も満開で、街行く人たちもどことなく浮かれてるように見える。 昼間の街はどことなくのんびりした空気だ。 ただそんな中でも正嗣はハローワークに通う。以前ならそんなに頑張る気力もなかったが、隆寛と出会って以来、真面目に通っていた。 それでも中々職につけなくて背中がどんどん丸くなっていく。 (あーあ、こんなとき隆寛がいたらなあ) 初めは単純に、好奇心だった。朝抜かないと疼いてたまらないと言い出した隆寛を自分がキモチヨクしてみたいと思った。 だけどいまは隆寛の笑顔や可愛らしい性格、少し怒りん坊なところも含めて大好きだ。 出来ることなら一緒に暮らしたいと思っていたが以前、隆寛が親の後を継いで、副住職をしていると聞いたので無理だと思い、出かけた言葉を飲み込んだ。 隆寛がそんな仕事じゃなければ楽なのに。でも坊主だったから出会ったんだ。 「ああもう!」 頭をかきながら、歩いていると袈裟を着た僧侶を見つける。剃髪をしていない。正嗣は剃髪をしていない僧侶には興味がない。それでも、その整った顔をつい見てしまう。黒黒とした髪にはっきりとした二重瞼。身長も高くて、となりの女性たちがチラチラ見ている。少し年上だろうか。落ち着いた雰囲気を醸し出している。 そしてその隣にもう一人ひょこっと顔を出したのは、隆寛だった。黒髪の僧侶ほどではないが隆寛もチラチラ見られている。 (なんだあのイケメン坊主二人組は〜〜!) しかもなんだか仲良しオーラが出ていて近づけない。隆寛が微笑んで話してるのも何だか癪に触る。 【隆寛】 「なあ、向こうから異様な視線を感じるんだが」 良照が小声でそう言ったので、その方向に目をやる隆寛。その先にいたのは正嗣だ。 思わず鼓動が速くなる。来週まで忙しくて顔を見ることすら出来ないと思っていたのに、こんなところで会えるなんて! (ああ、仏様、感謝致します!) 心の中で拝みながら、隆寛はそっともう一度正嗣の姿を見る。が、なんだかいつもと様子が違っている。 惚けたようなぼんやりとした顔をしていたので隆寛は不思議に思ったがやがて頭に浮かんだのは…隣の良照だ。自他ともに認めるイケメン。元々坊主好きの正嗣が見とれないわけがない! 「知り合い?」 良照に言われて、隆寛は頷く。そして隆寛は正嗣から目を逸らして先を行く。良照は慌ててその後を追った。そして正嗣は、明らかに目が合ったのに、逸らされたことにショックをうけてその場で立ち尽くしていた。 【正嗣】 隆寛のアホ。 ハローワークから戻るやいなや、ベッドに倒れ込む正嗣。目の前で恋人がイケメンとイチャイチャしていてしかも、逃げられた。これで落ち込まないわけがない。ベッドの横に投げたスマホ。隆寛にメッセージを入れる気力も無く、枕をひたすらに殴る。 (なんで逃げたんだよ!やましいことでもあったのかよ!) ボスボスと枕に当たる正嗣。そのうちそのままふて寝してしまった。 【隆寛】 「出ない…」 正嗣がふて寝した頃、用事を済ませた隆寛は電話をかけたが繋がらない。あの時咄嗟に移動してしまった。きっと正嗣は気分悪くしているだろう。もっと早く連絡をしたかったのに、中々抜け出せなくて遅くなってしまった。 逃げ出した理由は良照を正嗣に見せたくなかったから。きっと良照に目を奪われるだろう。そんな様子を見たく無くて咄嗟に良照を遠ざけた。 「隆寛、帰るぞ」 良照がうしろから声をかける。ああそもそもコイツが一緒に電車使って行こうなんて言い出すから。いつもなら大きなセダンで寺に乗りつけるくせに! 「もう車直ったの?」 「ああ。あーやっぱり電車はめんどくせよ」 背伸びしながら良照がそう言う。そうですか、と呟く隆寛。 (正嗣、怒ってるんだろうな) 【二人】 それから一週間。正嗣は完全に隆寛の連絡に返すタイミングを失ってしまった。隆寛は何度か連絡したものの、段々とその回数も減り、しまいには無くなってしまう。二人はお互いを思いながらもどうしたらいいかわからない。 【隆寛】 (腹減った…) 電車の中でお腹をさすりながら窓の外を眺める隆寛。今日は法要後の昼食に檀家に誘われたが断った。気を使いながらの昼食は苦手だ。 そういえば正嗣と初めて会った時も、腹がへってたなと思い出す。ちょっとうずくまってただけなのに。正嗣があの時来てくれて驚いた。そしてその後の、手料理が何とおいしかったことか。 二人で会うようになって、正嗣はたまに家でご飯を作ることがあった。得意の中華料理をふるまってくれて、隆寛はそれをパクパクと食べる。嬉しそうに食べる隆寛を、正嗣は食事をとることを忘れるほど、見つめていた。 プシュー、とドアが開き隆寛は人の流れに乗ってホームにおりた。目の前にあるベンチに座り、下を向く。 (このまま、会わなくなるのかな) 何度連絡しても連絡がつかない。もう正嗣は自分と会いたくないのかもしれない。胸が苦しくなり少しだけ目が潤みそうになったとき… 「ぐぅぅぅぅ〜〜」 空きっ腹の音が鳴る。はあ、とため息をつく隆寛。 「また腹減ってんの」 後ろから声がして隆寛は慌てて振り向く。するとそこにいたのは正嗣だった。以前より髪が短くなっている。 「正嗣……」 「仕方ねぇなぁ、飯作ってやるから」 そう言って手を差し出す正嗣。耳が赤くなっている。その手を隆寛はおずおずと握る。すると照れたように正嗣が笑った。 【二人】 正嗣の部屋に入ってすぐ、どちらからともなく体を抱きしめてキスをする。もちろん、触れるだけのキスではなく、いままで会えなかった分を埋め合わせるかの様な深いキス。お互いの舌を絡め合い、口内を舐める。 「ん……ふっ……あ……」 溶けるようなキスに、法衣を身にまとったままの隆寛はそのまま腰が砕けたようにしゃがみ込んだ。 「大丈夫?」 「ご、ごめん。あまりにも気持ちよくて」 隆寛の正直な言葉に、正嗣は大笑いする。 「後でもっと気持ちいいこと、しような。まずは腹ごしらえしないと」 久しぶりに見る正嗣の笑顔。髪が短くなって、少し若返ったその顔に、隆寛はホッとしながらもドキドキしていた。 正嗣の久しぶりの手料理は、天津飯だった。ふわふわ卵に甘い餡。モリモリと食べる隆寛を、頬杖をついてニコニコしながら見つめる正嗣。ふいにその視線に気づいて、隆寛は手を止めた。 「……どうしたの」 「いやー、やっぱり隆寛が俺の作った飯を食ってくれてるの、嬉しいなと思って。あ、ほっぺに餡がついてる」 そう言いながら口の横をベロリと舐めてきた正嗣に、隆寛は真っ赤になる。 「あの、この前はごめん。逃げるように離れて」 「俺の方こそごめんな。変に連絡避けて……ってか、あの坊さん、何」 良照のことだ、と隆寛が思いやはり気になってたのかと一瞬チクリと胸が痛む。 「あんなに隆寛とイチャイチャして!仲良すぎない?」 「え?良照が?」 「何で下の名前で呼ぶの?おかしくない?」 隆寛はあっ、と口を手で塞ぐ。正嗣の様子がおかしかったのは良照に妬いてたせいなのか、と今更気づいた。 「隆寛が俺以外のやつと仲良くしてるの見たくない!」 少しむくれた顔をして隆寛につめよる。隆寛は肩を震わせ、笑いながら答えた。 「良照は……兄貴だよ。実家で住職してるの」 「はぁ?」 兄貴、と聞いて正嗣は気が抜ける。 「き、兄弟で何で名前呼ぶんだよ」 「昔からなんだよ……でも、よかった」 隆寛は体を正嗣の方に向け、ギュッと抱きしめた。 「良照かっこいいから、正嗣、お坊さん好きだし、絶対好きになると思ってあの時遠ざけたんだ」 「そうなの?俺、剃髪してない奴は興味ないんだよ」 ポンポンと隆寛の坊主頭を叩く。そして首筋にキスをしてそのまま耳たぶを甘噛みした。 「ひゃ…っ」 「うなじから耳もとまでのラインが大好き。髪がないからすっごくそそられる」 するりと法衣の前から手を入れて、胸元を弄る。敏感な突起を見つけると指でピン、と弾いた。 「あっ……まだ全部食べてない」 「あとでまた温めるからさ。食欲も性欲も強いとこも大好き」 そう言うと隆寛の顎を手で押し上げてキスをする。そしてそのまま隆寛をそっと組み敷いた。 「ここで?」 「あとで移動しよ」 正嗣は耳元で囁くとそのまま乳首を弄る。その刺激にむくむくと隆寛の下半身も、元気になってくる。そう言えば正嗣に会えなかったこの間、気がついたら自慰をしてなかったけど、体は全く疼かなかった。 それなのに正嗣とこうして少し触れられただけでも、自身のアレは元気になりすぎて痛いほど。 「隆寛、もうすごいじゃん。そんなに我慢してたの?」 「…ッ、正嗣に触れられるまで、何もしなかったから」 「マジで?隆寛がしなかったってすごい」 その言葉に思わず笑う。 「人を何だと思っ…あっ!」 急に下着の中に手を入れられ、声をあげる。 「やっぱ、もうベッド行こうか。我慢出来ない」 寂しかった時間を埋めるかのように、二人はお互いを求めて貪り続ける。久しぶりに挿れるそこは中々解れなくて、正嗣はずいぶん執拗に解していく。 「んん…….、あっ、や…ぁ」 指を増やして、いやらしい音が室内に響く。もう早く入れて欲しくて、無意識のうちに隆寛は腰をくねらせていた。 「ほんと、ヤラシ」 ニヤつきながら自分の反り立ったものを解したそこに擦り付ける。ヒクヒク、と待っているのになかなか挿れない正嗣。隆寛は思わず正嗣を睨みつけた。 「正嗣、も、挿れてぇ……」 蒸気した頬。潤んだ瞳。半分開いた口がまたいやらしい。正嗣はたまらなくなってキスをする。そして自分の方に隆寛の足をかけて、その待ち構えている場所にようやく自分のモノを挿れた。グププ、と音を立てて侵入していく。ゆっくりと、ゆっくりと。 「あ…ああ…」 腰を浮かせながら甘い声を出す隆寛。出し入れに強弱をつけながら奥まで挿れる。正嗣の余裕だった顔もだんだんと余裕がなくなっていく。 奥を楽しんでみたり、円を描くようにグリグリとすると正嗣は一段と声をあげた。 「やあ…ッ、ダメ…、グリグリしちゃ…ああ…ンンッ」 「何で?好きだろ、これ」 「好きだけど……気持ち良すぎて…すぐイッちゃうよぉ…」 「じゃ、今日の…ッ、一回め、イッとこうぜ…ッ」 大きく腰を突き出して、深く深く奥へと突く正嗣。 「ひ、ああっ、あっ、んんッ、……キモチイイ…ああっ」 「出る…ッ!」 ビュルル、と正嗣と隆寛はほぼ同時に達した。 「……うわあもう、体べちょべちょ」 あのあと、欲望のまま三回ほど続けた。さすがに腰がだるくてたまらない。隆寛は立ち上がりシャワーを借りたいと言う。 「もう、帰るの」 布団の中から正嗣が寂しそうな顔を見せた。 「明日も早いからね」 「そっか……」 「……あのさ、正嗣。僕ら中々会えないし、これからもこんな感じだから。僕の職業は変えられないし、正嗣だって勤めるでしょ」 正嗣が髪を切っていた理由。それは、とある会社の面接のためだった。ようやく掴んだチャンスを逃したくないと覚悟した。何より頑張っている隆寛を見て、自分の姿が情けなくて嫌になった。だから真剣に頑張ろうと髪を切ったのだ。 「……そうだな、もっと厳しくなるな」 社会人になれば自由時間なんてスズメの涙。さらに多忙な隆寛とは会えない。シュンとする正嗣。 「だから、一緒に住む?」 「…は?」 隆寛の言葉に正嗣は間抜けな声を出した。 「でも隆寛、実家住みじゃ……家を継ぐって」 「え?いま、一人暮らしって言ってなかったっけ。実家に住んでるのは良照で、お嫁さんもいるし。もう父さんは引退するから良照が住職で、僕が副住職。二人で実家を継ぐって感じかなあ」 一人暮らししてるなんて聞いてない!と正嗣はわめき始める。 (そんなん、早く言ってくれてたらあああ) あれこれ悩まなくてもよかったのに!一人暮らしなら何でこの部屋ばかり来てたのさ、とぶつぶつ言う正嗣に隆寛は笑いながら答えた。 「美味しいご飯作ってくれるから。僕の家に来てもらっても、調味料とか全然置いてないからねえ」 「何だよそれぇぇぇ……」 シャワーを終えて法衣を着た隆寛は、大きく背伸びをして草履を履く。 「じゃ、正嗣。さっきの話よろしくお願いしますね」 ニヤッと笑う隆寛。ほんとにもう、敵わないなと正嗣はため息をつきながら言う。 「前向きに検討します」 そのあと、正嗣がパソコンに食いついて不動産情報を検索しまくったのは言うまでもない。 【了】

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