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1話  運命の歯車

     時は平治元年(1159年)夕刻。もうじき日が落ちる頃かと、屋敷から見える空を乳母は眺めていた。 源義朝の愛妾、常盤御前が産気づいてから数刻経った頃だ。 産まれた子にすぐに乳をやれるようにと、その頃から奥に控えているが、一向に頭が出て来ぬらしいと、奥女中達が騒いでいた。  それからもう日が山に陰るかと言う時に、ようやく赤子の泣き声が聞こえてきた。 「お産まれになりました!若君にございます!」  女中頭が抱えて連れて来た赤子は、今まさにこの世に生まれい出たと言うのに、こんなにも目一杯に命を爆ぜさせんばかりに泣いている。 自らの子にあらず、しかし何ともいえない感慨深い感情が乳母を包み込んでいた。 「すぐに。すぐに乳をおあげになりますよ若君。しっかりとお飲みください」 必死に乳に吸い付く赤子を見つめていた、乳母の耳にもう一つの泣き声が聞こえたのは、山に日が落ちてすぐの頃。 「若君がお産まれに…双子に御座います」 逢魔時(おうまがとき)の狭間。二人の運命の子の歯車は、鈍い音を鳴らし動き出す。

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