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73話
ゼノスはそれに気づきベッドへ歩み寄る。
「蔵之介様、大丈夫ですか?お辛いですか?」
蔵之介は顔を上げ、ゼノスを見た。
「ゼノス、手を握っていい?」
「はい」
ゼノスが手を差し出すと、蔵之介は右手でその手を握った。
「遠いからベッドに座って」
ゼノスは言われた通り、ベッドに座った。そして蔵之介の手を両手で包むように反対の手も添える。
「ありがとう」
蔵之介は優しく言った。
「他にしてほしいことはありませんか?」
「大丈夫。少しこのままでいて欲しい」
「それは大丈夫です。気が済むまで私の手をお使いください」
ゼノスがそういって、にこりと笑った。
蔵之介は左手で膝を抱えた。
「僕は何もできなかった。怖くて、足がすくんで、動けなくて。抵抗もしたけど、全然意味なくて。両足を引っ張られたんだ。体が割けたかと思った……」
蔵之介はそこまで言うと再び顔を伏せた。
「辛かったですか?」
ゼノスは聞いた。
「うん、怖かった。体をばらばらにされるのかと思った」
蔵之介はぎゅっとゼノスの手を握った。
それだけ言うと、蔵之介は再び涙を流し泣き始めた。
「ビアンカが来てくれなかったら……俺は……」
ビアンカは一通り、けが人の処置を終えるとその場を後にした。
「ビアンカ様」
ピーは後を追う。
「大けがをしてるものは見た。もう限界だ、蔵之介の心音が乱れている」
「しかし、まだ怪我人がいます。蔵之介様にはゼノスがついています」
「今の蔵之介には僕が必要なんだ」
「蔵之介様が必要なのはビアンカ王、貴方の方です」
ビアンカはそういわれ振り返った。
「そうだ、僕が蔵之介の側にいないと僕の心音が乱れる。そんな状態でまともな治療はできない」
そういって再び歩き出す。
「落ち着いてください、蔵之介様の安全は守られております」
「蔵之介が襲われた時もそうだった。キーパーを10人は置いてた。外に9人居て、全員でも海の糸を破れなかった。この結果をどう見る!?これが安全なのか!?」
ビアンカは感情的に怒鳴り、ピーは黙った。ビアンカはそれを気にせず部屋へと急いだ
「今回の例は特殊です。相手の力が強すぎました」
「いや、僕の計算ミスだ。10人のキーパーと海が居れば足止めくらいにはなる。蔵之介に触れる前には僕がたどり着けるはずだった。
部屋の中で待ち構えてるのも想定していた。しかしそれを海に伝えなかった。警戒するものだと思い込んでたからだ。海の考えの甘さまで想定していなかった。」
ビアンカはすべてのミスを自分の物にしようとしている。こういう時はもう説得は無理だとピーは悟り、少し黙って後についていった。
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