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89話
「怖い思いをしたんだ。ゆっくり回復させるしかない、仕方ないことだ」
「仕方なくなんてない。ビアンカが傍にいてくれるから安心できるんだ。だからもっとなにか、できるようになりたい。あの時逃げ出せてれば何か違ったかもしれない。皆みたいに糸は出せないし、力も能力もない。なのになんで……」
蔵之介はぎゅっと握り拳を作った。
「なんでビアンカは僕に優しくしくれるの?なんで大切にしてくれるの?」
蔵之介は泣きながらビアンカの服を掴んだ。
ビアンカといれば安心できたけど、心のどこかでずっと不安だった。弱い自分がいつまで守ってもらえるのか。いつか見捨てられるかもしれない。売り飛ばされて居場所がなくなるかもしれない。
こらえきれず、顔をビアンカの肩に寄せ子供の様に泣きだした。
「俺は何のために生贄にされたの?」
その答えを知っているが、聞かずには居られなかった。ビアンカに優しくされて、時々それが不安で。そんな事されるはずないと思っていても、離れて行ってしまう気がしていた。
「母さんに捨てられた時のことが何度も頭の中に浮かぶんだ。いつか俺は皆と一緒にいられなくなるんじゃないかって……。生贄でもいい、ずっとビアンカの傍にいたい」
ビアンカは口を開き言おうとした言葉を飲み込んだ。
蔵之介の体をゆっくり抱きしめた。
「ゼノス、今から行うことは他言無用だ。あと誰も入れるな」
「はい」
ゼノスは返事をしてドアの前に立っていた。
ビアンカは蔵之介の体を持ち上げ、ベッドへと運んだ。蔵之介はビアンカの首に抱きついていたが、ベッドに卸されると離れた。
「蔵之介。君が生贄になった理由を教えよう。生贄と呼ばれる理由も」
蔵之介は涙目で頷く。ビアンカはベッドのカーテンを引き、二人の姿をゼノスから見えないようにした。
「僕たちの世界にいる生き物は既に人間の世界の蜘蛛とは別の進化を遂げ今の姿をしている。その理由は。人の体から生まれたからだ」
蔵之介は驚きはしなかった、分かっていたこと……。
「人間の体から?」
「そう、最初人間を生贄として引き渡されていたときは食すためだった。食べればその知恵、生き永らえ方、力を手に入れられると思っていた。しかしそれが無理だと気付き始め、雌は人間の体内に卵のうを作った。卵のうは人間でいう子宮と同等のものだ。そこで受精させた。
そして奇妙な子供が生まれた。上半身は人で下半身は蜘蛛の姿だった。完全な人の姿でも、蜘蛛の姿でもない。しかしその子供は能力が高く、力も持ち合わせていた。皆驚き、強い子孫を残すため、それを何年も繰り返し続けた。
そうするうちに、もう聞いているとは思うが僕たちのような無性別に近い個体が生まれ始めた」
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