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☆一章二話

 海は最初に屋根に登り木を眺めて、そこから適当な高い木へと登っていった。 「さて、どうするかな? 見守ろうか」  ヴィンター師は楽しそうに笑い海を見ていた。  海は自分がいる木から正面左の一番高い木と、そこに並ぶ左の二番目に高い木に糸を張り、木から飛び降りた。落ちて加速し、それを振り子の要領で体を振り切り上空へと飛ぼうとしたが、大した高さも出せず海は落ちていった。 「考え方としては悪くないな」  ヴィンター師はお盆にお茶がないことに気付きお盆を撫でた。蔵之介はそれに気付きゼノスに言う。 「ゼノス、お茶を作ってもらえる?」 「え、はい」  ゼノスは立ち上がり、台所を探してとたとたと足音を立てて走っていった。 「お前は賢い子だな」  ヴィンター師はひげを撫でながら言った。 「そんなことはないです」  蔵之介は遠慮がちに言う。  ヴィンター師は嬉しそうに「ふふふ」と笑って海を見ていた。  五分ほど経ってゼノスはお茶を入れて持ってきた。それを急須から四つの湯呑に数回に分けてそそぎ入れた。一つに茶托を添え、それを蔵之介に差し出す。すると蔵之介は小さな声で「ヴィンター師に先に」と言った。ゼノスは頷きヴィンター師の横のお盆にお茶を置いた。  蔵之介の元に戻り、もう一つに茶托を添え、蔵之介の横に置いた。ヴィンター師はお茶を一口飲んだ。 「なかなかいいお茶だ」  ゼノスは褒められ嬉しそうに笑って、蔵之介を見た。蔵之介も微笑み返して、お茶の熱を取る為息を二回ふきかけ一口飲んだ。 「あつっ、にがっ!」  それを見てヴィンター師は笑った。 「蔵之介様、すみません熱かったですか?」 「大丈夫、冷まし足りなかったみたい。けどすごく苦いよこのお茶」  蔵之介は笑ってお茶を置いた。ゼノスは困ったように眉を寄せた。 「このお茶は低温出しなのじゃよ。温度計があるはずだ。六十度の温度で出すと渋みが出ない」  ヴィンター師が言った。 「はい、次から気を付けます」  ゼノスは言って、湯呑を一つ取って何度か息を吹きかけ冷ます。  ひとくち口にすると眉を寄せ、唇をぎゅっと閉じた。 「んっ……苦い……」  ゼノスは涙目で言った。  海が何度か飛び上がるのを見た頃、門の方から足音がした。 「来たか」  ヴィンター師が言って門の方を見た。  蔵之介はのぞき込むと、ビアンカとピーが庭へ歩いてきた。 「蔵之介、迎えに来たよ」  ビアンカは言ってほほ笑んだ。蔵之介はそれを見てホッとするが、うつむき目をそらした。ビアンカが来てくれたことは素直にうれしかった。けれど、蔵之介はまだ気持ちの整理が出来てなかった。 「海は何をしているのですか?」  ピーが海が木に登っていくのを見て言った。ビアンカもそちらに目を向ける。 「上空一キロへ登って落ちてこいって指示したんだが、あれじゃあいくら待っても無理そうだ」  ヴィンター師に呼ばれ海は庭へ戻って来た。 「どうやって上にのぼるんだよ」  海は投げやり気味に言う。 「ゼノス、お前はどうだ? 上空に上がるならどうする? やってみなさい」  ヴィンター師に言われゼノスは驚き、蔵之介を見た。 「できる?」 「あ、あの、やってみます」  ゼノスは立ち上がり緊張気味に歩いて靴を履いて庭に出た。そして深呼吸をすると。手を前に伸ばした。  すると足元から糸が出てそれを土台に体が持ち上がり屋根にも満たない辺りで止まった。そして足場様に足の下に小さい土台を作った。 「これで糸か出る限りは進めると思います。でも私はまだそんなに多くは糸が出せないので一キロも登れないと思います」  ゼノスが言うとヴィンター師は満足げに頷いた。 「すごい。そんなこともできるんだ」  蔵之介も驚いて立ち上がった。  ゼノスはそこからぴょんと飛び降り、地面に着地した。すると足元にあった糸も柔らかく崩れ、ふにゃりと地面に落ちた。 「え、なにそれ、せこ」  海が驚いた様子で言った。 「せこくはないでしょう、こんなの子供でもできます。海もやったことあるでしょう?」  ピーが聞くと海は不満げに目をそらした。 「やったことない」  海が言うと、皆ぽかんとして海を見つめた。 「なんだよ、お前らまでバカにするのか!?」  ピーとビアンカを見て海は言い放った。 「いえ、これは小学で習うことです。海さんは小学に行ってないんですか?」  ゼノスが聞くと、「行ってない」と海はぼやいた。  その場の皆は混乱し、言葉を出せなかった。ビアンカは特に気にしてないと言った様子で海を見ていた。 「いいだろ、行ってなくたって」  海は言ってヴィンター師は少し笑った。 「まあそうだな。ビアンカ、海を上空一キロへ連れて行って、落としてきなさい」  ビアンカは頷き海に歩み寄る。 「なんだよ」  ビアンカは海の腰を掴むと抱き寄せ横に立たせた。すると、するすると足の下から糸が上空まで伸びそれとともに海とビアンカの体は持ち上がっていった。  蔵之介は黙ってそれを見つめた。 「あれ」  蔵之介は胸元で手を握り、服をぎゅっと掴んだ。  ドキッとした  胸が痛い  ビアンカが海の腰に手を回して……その光景を思い出すと、再びじくりと胸が痛んだ。  蔵之介は靴を履いて庭に出て上空を見ると糸が伸びる先は薄暗く既に見えなくなっていた。 「ついたよ」  上空一キロ付近につくと糸が止まった。バランスのわるい一塊の糸の上に海は立ってどうにかバランスを取っていた。 「本当に来れるのかよ」  海は驚いて辺りを見回した。  建物から明かりが漏れる城が遠くに見えた。 「すげー、絶景?」  海が話しているさなか、ビアンカは海の背中を押した。  すると「えええええええええ!!」と叫び名がら海の体は落ちていった。  海はとっさに体を返した。 「容赦ないなー」  とぼやくがまだ余裕はある。と海は木に糸を伸ばした。  この糸をばねに使えばなんとか落下直撃を食い止められるはず。  すると、耳元でビアンカの声がする。 「それでは駄目だ、足からも糸を出し、着地時クッションにしなさい」 「は?」  海は意味がわからないと言った声を出した。  足から糸なんて出したことない。足から出すなんて考えたこともなかった。  海は集中して足から糸を出そうとしたが、どうにも上手く扱えず、糸は散って落ちた。 「どうやるんだよ!!?」  海は手の糸を縮め、地面への叩きつけは回避しようとするが、もう間に合わない距離にあった。  叩きつけられるのを覚悟し、目を閉じると、体は何かに触れはずんだ。  海が目を開けると、ビアンカがさかさまに立っていた。数秒立って自分がさかさまなのだと気づいた。 「わけわかんねえ」  自分の状況を確認すると、そこにはビアンカの生成したであろう網が張られていた。それがクッションとなり助かった様だ。  海はため息をついて糸から離れ地面に降りた。  ビアンカと海は庭に戻ると、蔵之介とゼノス、ヴィンター師とピーは呑気にお茶を飲んでいた。 「どうだった?」  ヴィンター師が聞くと、ビアンカは首を横に振った。海は 「どうやって着地したのか全く分かんなかったです」 と諦めた様に言った。  ヴィンター師は「ふっふっふ」と含む様に笑った。 「ほらな、無理やりやっても仕方ないだろ」 「ならなんでやらせたんだよ!」  海は叫び、ヴィンター師に歩み寄った。 「覚えるにも手順がある、考えなさい」  ヴィンター師は海を無視して、ビアンカに言った。海はそれを聞いて、そういうことかと理解し靴を脱いで家の中に入った。  ビアンカは立ち止まりうつむいていた。  ヴィンター師は蔵之介に無理やり嫌なことをさせても意味がないと言いたいのだろう。  ビアンカはそれを飲み込み縁側へと歩き、座った。  ゼノスは蔵之介を見ると、蔵之介は入れてあったお茶の一つを持って、ビアンカの元に向かった。 「ビアンカ」  ビアンカは呼ばれ、蔵之介の方へ顔を向ける。  蔵之介はビアンカの横に膝を折り座ると、蔵之介はビアンカにお茶を差し出した。 「ありがとう」  ビアンカはそれを受け取り、蔵之介を見ていた。  蔵之介は何か言いたそうにしているが、何も言えずうつむいていた。  ビアンカはお茶を一口飲む。 「あの、ビアンカ。今朝は、その、ごめん。怒って」 「構わない。怒ってくれないと分からないこともある」  ビアンカはそういって蔵之介を抱き寄せた。 「ビアンカ……」  蔵之介はビアンカに抱きつき、泣きだした。  今日は何度も泣いている。なんでこんなに泣いてしまうのか分からないが、感情が溢れだすと止められなかった。 「蔵之介、君が高いところが苦手のは分かった。今日も話をした。もう少し時間がかかりそうだが話はつける。蔵之介はもう気にしなくていい」 「あの、俺……」  蔵之介は涙をぬぐった。 「ビアンカとなら飛び降りてもいい。あんまり高いと無理だと思うけど。ビアンカが一緒ならできると思う」  ビアンカはそれを聞いて蔵之介の頭をなでた。その手はやさしく蔵之介は撫で受け、あまえる様にビアンカの肩に顔を擦り寄せた。 「本当にいいのか? 嫌なら断っていいんだ」 「大丈夫。ビアンカとなら」  蔵之介はビアンカのぬくもりを感じ目を閉じた。 「それでいいならそれで話をつけてみよう、蔵之介が安心できる形で話を進めるようにするよ」 「うん」  蔵之介はビアンカに肩を抱かれて安心していた。先ほど海の腰を抱き上に登っていったとき、違うと分かっていても取られるのではないかと思った。それをやきもちだと自覚し、恥かしくなったが、その気持ちはどうしようもなかった。譲りたくない。少しでもビアンカの力になりたい。  蔵之介はビアンカの腰をぎゅっと抱きしめた。  ビアンカは蔵之介の耳元にそっと顔を寄せ、まわりに聞こえない声でささやいた 「蔵之介、先ほど海の腰を抱いた時動揺していたが。大丈夫、僕は君にしか心を奪われたりしない」  耳元でするビアンカの声とその言葉に、蔵之介は顔が熱くなる。 「お、俺も!」  蔵之介は思わず、声を張り上げ、それだけまわりに聞こえた。皆は何かと二人を見るが、抱きしめ合っているのをみて、何かを察しお茶を飲んだ。海だけはその二人をひたすら睨みつけていた。  ビアンカがお茶を飲み終わると「帰ろう」と蔵之介に言った。  隣でお茶を飲んでいた蔵之介もお茶を飲み干す。 「ヴィンター師、そろそろ帰ります。今日は蔵之介をありがとうございました」 「うん、こちらも楽しかった。やはり人が多いのはいいのう。いつかお前さんたちの子供を預かるのを楽しみにしとるよ」  蔵之介は顔を赤くしビアンカの袖を掴んだ。 「良いんですか? 引退されたのに」 「引退したものに一人送り込んできたのは誰だ? せっかくのんびり寝ていたのに、目が覚めた様だった。起こしたなら責任をとれ」  ヴィンター師は不満そうではあったが、どこか嬉しそうでもあった。 「また来なさい」  縁側に座るヴィンター師に言われ蔵之介は頭を下げた。 「また何かあったらいつでも来いよ」  海が言って手を振った。  蔵之介はビアンカに抱え上げられ、頷き手を振り返す。ゼノスはキーパーに抱えられ、ピーもあとに続き帰り道へと進んだ。  ビアンカは一度高く飛んだが、蔵之介が恐がりぎゅっと目を閉じ抱きついてきたのを見て低く飛び帰路を進んだ。  蔵之介はゆっくり目を開けると、ビアンカが高く飛んでいないことに気付き、ビアンカを見る。なんともない横顔だが、それが近くにありドキッとして顔を進行方向に向けた。  今日はおかしい、なんでこんなにドキドキしてしまうのだろう。  朝からすごく感情的になって怒ってしまった。ヴィンター師の元で何度も泣いて、ビアンカにも謝ることが出来て、仲直り出来て、今また傍にいて安心できる。  これが家族なんだ。だとしたら、昔一緒にいた家族はきっと家族じゃなかった。  家族と一緒にいて安心できる時間なんてなかった。  城について、ビアンカの部屋の前に着くと 「おろして」  と蔵之介は言った。しかし、ビアンカは下さずにピーが開けたドアへ入っていた。  ビアンカの様子も少し変だ。  蔵之介は首を傾げた。部屋の中に入るとやっと降ろされた。いつもと変わらない部屋。 「蔵之介、お風呂に入っておいで。食事を運んでおくから」  ビアンカが言うと蔵之介は頷いた。ゼノスと一緒にビアンカの部屋のお風呂へ向かった。 「ビアンカ王、大丈夫ですか?」  ピーも少し違和感を抱きビアンカに問いかけた。 「大丈夫じゃないな、少し変だ。自分でも分かっている」 「なにか我慢でもされていますか?」  ビアンカは少し黙ってから口を開いた。 「蔵之介を抱きたい」 「なぜです? 卵は産んだのでしょう?」 「言いたいことは分かる。既に卵は産んである、なのにしたいなんておかしい。蔵之介の体の負担になることだ。それを実際にするつもりはない、しかし蔵之介を見ているとすごく体が沸き立つんだ。こんなことは初めてだ」  ビアンカは手で口元を隠した。恥ずかしさを悟られない様、静かに呼吸をする。 「なら一緒に寝ない方が良いのではないでしょうか?」  ピーが言うと、ビアンカはよくわからないといった表情でピーを見やる。 「なぜ一緒に寝ると思っているんだ?」 「じゃなかったら部屋にいれて、風呂に入らせ、ここで食事をするなんてしないでしょう。お互い別の部屋ですればいいことです」 「確かにそうだ」  ビアンカは、本当に何も考えてなかった様で、嘆きながら頭を抱えた。ソファの背もたれに腰掛けた。 「ならなぜ部屋に運び入れたのですか?」 「蔵之介を部屋に帰したくなかった……」  ビアンカはため息をついた。 「これは僕のわがままだな、蔵之介は部屋に帰そう」 「すみません、私から切り出しておいてなんなのですが。蔵之介様も拒否はしておられない様なので一緒に寝てもいいかと思いますよ」  ビアンカは両手で顔を覆った。 「いや、無理だ。一緒に居たら欲を抑えられる気がしない。けど離れたら寂しくて死ぬ。僕はどうしたらいい?」 「面倒なので蔵之介様と一緒にいてください」  ピーは投げやりぎみに言った。 「そうするか」  ビアンカはため息をつき、顔から手を外した。 「食事を運んできてくれ」 「わかりました」  ピーは一礼して部屋を出ていった。  食事を終え、蔵之介は先にベッドに入った。風呂に入ったビアンカを待ちながらうとうとして、いつの間にか眠ってしまった。  寝ている途中でぬくもりが布団に入ってきたのを感じ、それに抱きついた。 「ビアンカ」 そのぬくもりはビアンカのものだった。起きなくても分かる。 「蔵之介、おやすみ」 おでこにキスをされ、蔵之介は気持ちよくなりそのまま眠りについた。  その次の日から蔵之介の教育計画が進み始めた。  初日は座学へ行き、そこで専門の先生に次々と話をされ、いろんな情報を叩きこまれる。  蔵之介は、必死に覚え様としていたが、途中でゼノスに 「あまり集中して聞かなくて大丈夫ですよ。子供は蔵之介様が聞き流していても聞いていますので」  と言われ、安心して話を聞いていた。その時間の方が頭に入ってきやすかった。  午前中の教育が終わるとお昼の時間になり食事処に向かった。あまり時間がないということで、ビアンカも来ていない中、蔵之介は食事を済ませる。  午後の授業は糸の仕組みについてだった、どこからどのように出すかで強度や使い勝手が変わる様だ。  治癒糸は皆が出せるもので、基本知人同士でしかつかわない、恋人が出来れば恋人同士でしか使わない。医者にいっても重傷で無ければ医師が処方してはならない。原因を突き止め家族間で治療を進めるのが通常なのだそうだ。  そこまで聞いて蔵之介ははっとした。昨日ヴィンター師に言われた治療箇所をビアンカに伝えようと思ったのに忘れていた。布団に入るまでは覚えていたのに、布団に入ったら心地よくてすぐに眠ってしまった。  昨日のビアンカの体温は暖かかった。風呂上りなせいか熱くて……。  そう考えると、随分熱かった気がする。熱があったわけじゃないよね? 今朝も普通だったし。  蔵之介は上の空になっていると、ゼノスに袖を引かれた。 「蔵之介様、聞いてましたか?」 「え、ごめん聞いてなかった。何?」  蔵之介が言うと、糸の師はため息をついた。 「蔵之介様、糸の勉強は実践を交えますので聞いていてください」 「ごめんごめん」  蔵之介は慌てて手を左右に振った。  ビアンカのことで気持ちがそれていたなんて、なんだか恥ずかしい。 「私の糸を使って、蜘蛛の網を作ってみてください」 「蜘蛛の網って蜘蛛の巣だよね」 「そうです」 「えっと」  ゼノスが出した糸と木の枠組みが目の前にあった。 「このべたつきのない糸を軸にして、“繋留糸”を張り、“付着版”で枠にくっつけて、“枠糸”と“縦糸”を作る、真ん中に宿主の住処となる“こしき”を作って、あとは“横糸”には“粘着球”のついた糸を張っていく」 「蔵之介様聞いてたんですか? 先ほど聞いてないと言ってたのに……。ちゃんと出来てます」 「え、でも手順はあってるのか分かんないんだけど」  ゼノスは綺麗にできた蜘蛛の網を見て感動していた。 「私の糸でもこんな綺麗な網を作れるんですね。私も頑張ります」  ゼノスの方がやる気を出して網づくりの勉強に熱心になり始めた。  授業が一通り終わると、部屋に戻って横になった 「あー疲れた」 「お疲れ様です」  疲れはしたがすごく勉強になった。知らなかったことが分かるようになっていくのは楽しい。  夕食の時間になり、ビアンカに会えるかと思ったがまたビアンカは王の任務で忙しいようで会うことはできなかった。ビアンカに会えずしょんぼりして部屋に戻った。でも任務なら仕方ない。  蔵之介は風呂からあがり自分の部屋のベッドで横になった。 「ビアンカの部屋で寝ちゃダメかな?」 「大丈夫ですよ。いつでもお連れしていいと言われています」  蔵之介は少し考えてから起き上がった。  このままベッドで横になっていても眠れそうになかった。ビアンカのぬくもりが欲しい。  ゼノスとビアンカの部屋に向かい、ゼノスは部屋をノックしたが返事はなかった。  蔵之介はドアを開け、中に入った。部屋の中には明かりがついている。  つけっぱなしで出かけたのだろうかと蔵之介は部屋に入り、ベッドへ向かった。ベッドに乗り横になると、枕からビアンカの香りがする。この匂いがするとすごく落ち着く。  うとうとしかけたころ室内のドアから物音が聞こえた。風呂場の方からだった。  蔵之介は起き上がり、ビアンカがいるのだろうかとそのドアの前に向かった。  ドアを開けると、ビアンカが全裸でピーに髪を束ねて貰っている所だった。 「わっ」  蔵之介は驚いて声をあげ慌ててドアを閉める。 「ご、ごめん! 音がしたからつい」  蔵之介は顔を真っ赤にした。蔵之介の見たビアンカの裸は、下半身のものが熱を持っていた。 「蔵之介、すまない、すぐに出るよ」 「う、うん。ベッドにいる」  ベッドにいると言ってからさらに恥ずかしさがこみ上げる。  これじゃあ期待しているかのような返事だ。  ベッドに入ると、頭から布団にもぐりこんだ。  ど、どうしよう。あんなの見ちゃって。見られたくない所だよね、しかも急にドア開けるなんて。なんで俺はノックしなかったんだよ!?  自分でしたことを後悔してこめかみを両手の拳でたたいた。 「蔵之介?」  そんなことをしていると布団がめくられる。 「び、ビアンカ、ごめん勝手に開けて。見るつもりじゃなくて」 「何を?」  ビアンカに聞かれ蔵之介は耳まで顔が赤くなった。 「な、あ、えっと」  蔵之介が答えられずにいると、ビアンカはくすくすと笑って布団に入った。  蔵之介を抱きしめ体を寄せる。  髪はまだ少ししめていてビアンカのシャンプーの匂いがする。  ビアンカの下半身の熱はまだ硬い。  ふと蔵之介は自分の下半身にも違和感を抱き、そこに触れると自分のものも硬くなっていた。  蔵之介は慌てて寝返りを打つ。ビアンカに背を向けると、ビアンカは蔵之介を後ろからだきしめ、お尻にビアンカの熱が当たる。 「ビアンカ、当たってる……」  蔵之介が言うとビアンカは「うん」と返事をしてこすりつけてきた。 「するの?」  蔵之介は顔を少しだけビアンカの方へ向けた。 「しないよ。お腹には卵があるし。でもしたい」  ビアンカはいとおしさから蔵之介を強く抱きしめた。 「ひぅっ」  蔵之介は思わず変な声を出してしまう。  ビアンカはどうしたのかと蔵之介の様子を見るが、未だに耳まで赤い。ビアンカは蔵之介の股間へ手をのばすと、蔵之介が隠すように抑えてる手をどけてそこの熱に触れた。 「抜いてあげるよ」 「あっ」  ビアンカは蔵之介の体を返し仰向けにさせた。蔵之介の唇にキスをしながら、寝間着の前をはだけさせ、下着に手を入れ直にそこに触れた。  こすられ次第にくちゅくちゅと音が立ち、恥ずかしさを助長させる 「んっ、ふぅ」  キスが深まり、ビアンカの舌が蔵之介の口の中をしっとりと味わっていく。  蔵之介はビアンカの服を握って、時折体をこわばらせる。 「イけそうか?」  ビアンカに聞かれ蔵之介は頷きビアンカの胸元に顔を寄せた。 「ずっと、イなくて……」  蔵之介の瞳が熱のせいで潤み震えていた。 「自分じゃ、出来なくて。ビアンカとじゃないと、俺イけないのかも」  ビアンカは思わず蔵之介の熱をぎゅっと掴み、蔵之介はその刺激で熱を吐き出した。 「くぅっ」  蔵之介は腰をそらし、熱が吐き出されるまでビアンカの服をぎゅっと掴んだままだった。  熱を放出し終わると手が緩み、脱力してはあはあと息を吐き出す。 「イけた。よかった」  蔵之介はビアンカに抱き着きビアンカのぬくもりを求めた。  初めて勃ってからだいぶたった。その間何度か硬くなったが自分で出すことが出来ず、熱がおさまるのを待つしかなかった。 「なんで言わなかったんだ?」 「恥ずかしくて言えないよ……」  蔵之介はビアンカの顔を見た。キスをしたい。そう思ったけど、できずにいるとビアンカは蔵之介の唇に吸い付いた。  ビアンカは手についた蔵之介の熱の液を蜘蛛の糸で包み玉状のスペルマウェブにして、ベッドの外に落とした。  蔵之介を抱きしめ、さらに求めるように唇を重ねる。  挿れたい……  ビアンカの欲求が高まり、蔵之介の上に覆いかぶさった。  しかし、卵を産んだので中に挿れるわけにはいかない。ビアンカは堪え蔵之介を強く抱きしめた。  蔵之介はそっとビアンカのものに手を伸ばし下着越しにそこに触れた。ビアンカはびくりと体を動かし体を起こす。蔵之介は恥ずかしそうにビアンカの下半身の方に目を向け、下着をずらして直にそこに触れた。 「俺も、ビアンカのにするよ」  蔵之介は熱で硬くなり、お腹につきそうなほどのそれを掴み、下の二つのふくらみにも指を伸ばし柔らかくこね始めた。  蔵之介の指が何度か玉を揉み込み、茎の部分へ手のひらが移動し、先端まで手が動き、それがまた根本へと下がる。なれていない手つきと、ためらいがちな動きでビアンカはくすぐったさを感じ、クスリと笑った。 「ご、ごめん、変だった? 初めてだから」  蔵之介は戸惑い手を離そうとするが、ビアンカの手に元に戻される。 「大丈夫、気持ちいいよ。続けて」  ビアンカの熱い息が耳に触れ、蔵之介はぞくぞくと体を震わせた。 「蔵之介、さっきみたいに下の方を揉んで」 「うん」  蔵之介は言われた通り、玉の方を揉む。 「少しそれを繰り返したら、全体を擦って、先端を撫でて」  ビアンカの指示を受け、蔵之介はその通りに手を動かした。  数分その動きを繰り返したがビアンカはなかなか達しなかった。 「気持ち良くない?」  蔵之介が不安げに聞くと、ビアンカは蔵之介を頭を撫でた。 「気持ちいいよ。触れて欲しくて我慢してるだけ」 「我慢?」  気持ちいいと達してしまうのに、我慢なんてできるのだろうか? と蔵之介は先ほど達してしまったのを思い返した。あれを止めるのなんて困難だ。 「蔵之介、そろそろイくよ」  ビアンカの唇が蔵之介の耳に触れ、そっと舐めた。 「んんぅ」  蔵之介はくすぐったさに声を漏らし、肩を竦める。  ビアンカは蔵之介のその甘い声を聞いて、熱を放出した。放出した熱は蔵之介の服にかかり、染みを作った。  ビアンカが達してくれたことに蔵之介は安心して、手を離す。ずっと動かしていたせいで腕がつかれていた。 「気持ちよかった」  ビアンカは余韻に浸り蔵之介を抱きしめた。蔵之介は嬉しくなりビアンカの頬にキスをする。 「唇にはしないのか?」  ビアンカが聞くと蔵之介は恥ずかしそうに一度目をそらすが、再びビアンカの顔を見て唇にそっと唇を触れさせた。ゆっくり唇が離れ、ビアンカと目が合うと蔵之介は顔を真っ赤にして、ビアンカの胸に顔をうずめる。 「恥ずかしいから見ないで……」 「蔵之介はかわいいな」  ビアンカは蔵之介の頭を撫でた。  蔵之介の頭にキスを返すと、蔵之介は嬉しそうに「ふふふ」と笑う。  ビアンカといるのが幸せで、幸せで、蔵之介はこのまま溶けてしまいたいとすら思っていた。  ビアンカは精液のついた蔵之介の服を脱がせ、自分の着ている服を脱いだ。  そして蔵之介を優しく抱きしめ眠ろうとすると蔵之介は何かを思い出したかのように顔を上げた。 「あ、ビアンカ」 「どうした?」  ビアンカは目を閉じたまま答える 「ヴィンター師が昨日頬にまだ傷があるって言ってたんだ」 「頬に?」  ビアンカは蔵之介の両頬を確認するが見た目では綺麗に治っている。 「そうか、ヴィンター師がいうなら何かあるのかもしれない。糸を張っておこう」 「うん、あとこれ、ビアンカにも誰にも言ってなかったんだけど。前にバードイートに襲われた時、両足を強く引っ張られたんだ。そのせいか足の付け根あたりに少し違和感があって、ヴィンター師がそれもビアンカに治してもらった方が良いって」 「違和感? 痛むのか?」  ビアンカは驚き起き上がる。 「そんな変なものじゃないんだけど、今までと何か違うような気がして」 「……」  ビアンカは黙って蔵之介の股関節に触れ撫でた。 「骨のことなら詳しい医師がいる、一度見て貰って、位置があっているか確認してから糸を巻いた方がいい。ズレたまま糸を巻くとそのままで回復してしまう。そうすると違和感が残ったままになってしまうかもしれない。すぐに見てもらおう」  ビアンカは布団をどけた。 「え、明日でも良いよ」 「駄目だ、ピー、聞いてたか? 医師をすぐ呼んでくれ」 「はい」  ピーの返事が聞こえる。返事のあと、ドアを出ていく音が聞こえた。  分かってはいるけど、やはり部屋の中にいて音を聞かれているのは恥ずかしさが込み上げてくる。急に意識が現実に引き戻され蔵之介は掛け布団を引き上げ体を隠した。 「ゼノス、蔵之介の体を拭いてあげて。僕はシャワーを浴びてくる」 「はい」  とゼノスの声が聞こえる。ゼノスは準備をしてベッドに歩み寄ってきた。 「蔵之介様布団をどけて貰えますか?」 「今は、恥ずかしいから」  事後直後の体を見られるなんて考えていなかった。乳首もまだ起ってるし、体も火照ってるし、匂いだって、またキスマークとかもついてるかもしれないし。

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