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さよなら僕のサードマン
「烏丸 さん、場所分かったよ」
「こちらも用意できました」
東京とは蝉の鳴き声がずいぶん違う。
なだらかな傾斜のアスファルトの道を、木陰に守られながら登っていく。
悪くない所だ。少し暑過ぎるのは難点だが、お墓の中はほどよく涼しければいいなと思う。
新美 と烏丸は、北鹿渡 家の墓がある霊園を訪れていた。
お盆の時期を外したおかげか、夏季休暇中にも関わらず人はまばらだ。水を入れた桶にブラシや柄杓、榊の枝を携え、まずは2人で掃除にとりかかる。
「ごめんね、烏丸さんにまで手伝ってもらっちゃって」
「いえ」
表情は涼しげな横顔に汗が伝い、邪なことを考えそうになる。無遠慮な視線にか、それともごくりと喉を鳴らしたのに気づいたのか、烏丸もこちらを見た。
「ちゃんと水分と塩分をとっていますか? 熱中症にならないようにしないと」
「ねっちゅうしょう……」
小学生みたいな馬鹿馬鹿しい冗談すらキスの誘いに思えてくるのだから、自分の妄想の逞しさに呆れる。
烏丸の方が歳上なのを差し引いても、もう少し落ち着かないものか。
当初の目的を思い出し、気を引き締めた。こういう時は無心で作業するに限る。
黙々と墓石を洗い、かれた花を取り払って榊の枝と仏花を供える。火をつけた線香の束を香炉に置いて、切なくも晴れやかな気分になった。
「秋白 、遅くなってごめんね……」
二人で手を合わせ瞑目する。
“サードマン”が秋白として新美のそばにいたことで、葬式にも行けず、最後の別れもかわせなかった。
死者に対して出来ることはほとんどないけれど、これは自分なりのけじめだ。
相談した烏丸が一緒についてきてくれたのは心強かった。
北鹿渡家の位牌などの管理人を探すのに手を貸し、墓所を教えるのを渋る相手に口添えをしてくれたのも烏丸だ。頭が上がらない。
「俺だけ助かってごめん……本当は、ついて行ってやりたかったけど」
物言わぬ石の下に眠る秋白に語りかける。
“サードマン”が去った日に見た象徴的な夢。あれはきっと秋白が“サードマン”を正しい場所に導いてやったのだと思えてならない。
振り返れば初めて出会った時から秋白には守られてばかりだった。
秋白への感謝も、胸をかきむしるような罪悪感も、一生消えることはないだろう。それを抱えながらより善く生きていくことが、きっと彼への弔いになる。
「秋白にもらった命だから、大事にするね」
この世界のどこにもいない、けれどどこにでもいる彼に、感謝の気持ちが届けばいいと願ってやまない。
線香の煙が空に溶けていった。
了
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