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第1話 初めまして、間違えました。
「黙っててほしい?」
今までそれなりに恋愛ドラマをやってきて、いわゆる壁ドンや顎クイなんて呼ばれるものも何度かしたことがある。
ただ「王子様」なんて呼ばれる見た目の性質上、床に相手を押し付けるような床ドンはまだしたことがない。
それもいつかはやるかもしれない、なんてぼんやり思っていた想像は予想外の形で裏切られる。
「いつもと逆の景色はどんな感じ?」
プライベートで床ドンを経験してしまった。しかも、される側で。
「秘密を黙っててほしいなら、言うこと聞いてくれるよな? オメガの王子様?」
にやりと笑う口元は、僕にとって肉食獣の牙がきらめいているようにしか見えない。
いや、実際そういうことなのだろう。彼にとって僕は獲物だ。
ありがたくも王子様アイドルと呼ばれて歌にダンスにドラマにと奮闘中な僕、天河 朝陽 がどうしてこんなことになっているのか。
事の発端は数時間前に遡る。
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