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第9話
「ごめんね、わざわざ来てもらって」
呼びだされたのはホテルのレストランの個室。
そこにはメールに書いてあった通り、アニマートの三人が揃っていた。
「い、いえ。こちらこそ、あの、これはどういう……」
アニマートのリーダーである和音さんからメールが来たのは昨日のこと。
突然だけど話したいことがあるから会ってもらえないかというメールが来て、僕は家でひっくり返った。なんでも事務所からメールアドレスを聞いたらしい。
憧れのアイドルからの誘いに一も二もなく行きますと返して、そういえばこの前こんなことがあったなと思い返す。ちなみにそれに連なる記憶は封印することにした。
それで来てみればこれだ。まさかの本当に三人勢揃い。舞台の上でなくても揃うと迫力がすごい。
「響生からこの前の件を聞きました。君に無礼を働いたってこと」
「無礼って、そんな」
「申し訳ない。バカなことをしました。反省してます」
どうやらバーでの話を聞いたらしい。確かにそれは苦い記憶ではあるけれど、それ以上はなにもなかったから忘れてくれて良かったのに。
肩を落として和音さんの横に立っている響生さんは、いつもと違って精彩がない。いつもの大人っぽさとのギャップで、いたずらを叱られる子供のように見えてしまう。
「謝らせようと思って今日は連れてきたけど、これ以降一切朝陽くんには近寄らせないから。事務所にも通報済みです」
「え、困ります!」
響生さんの頭を押して下げさせる和音さんの言葉に、思わず悲鳴を上げるように返してしまった。
近寄らせない? それはつまり僕だって近づけなくなるってことだ。
「近づけなかったら、アニマートのライブ見られなくなるじゃないですか!」
力いっぱいの心からの叫びに、三人の目が一斉に丸くなる。マンガだったらきょとん、と文字が出るくらいの勢いだ。
「嫌ですよ! アニマートのライブがどれだけキラキラを僕に与えてくれるか。それがなくなるのなんて困ります! 僕に対しての罰ゲーム過ぎます!」
「でも、こんな男もう顔も見たくないでしょ? 気持ち悪くないの?」
「自業自得なんだけどメンバーに対してその言い方はいかがか」
僕の熱意に困惑する和音さんだけど、それはそれ、これはこれだ。
確かにあの時誘われたのはショックだったけど、それはなんというか僕が勝手に抱いていた理想が崩れたことに対してであって、アニマートの魅力に対しては揺らがない。
今でも響生さんのパフォーマンスは好きだし、舞台上のセクシーさならいくらだって見たい。
「そもそも、今回のことは僕にも原因があるので」
「気遣いはありがたいけど、悪いのは100%こいつだから。こういう奴は庇っちゃダメだよ。調子乗るから」
「いや、本当に」
言えない理由があるから説明が難しいけれど、あの時すでにヒート時のフェロモンが漏れ出していた可能性があったんだ。
今思えば、お酒の回っていたアルファの響生さんがそれに煽られても仕方なかったんだと思える。むしろあのままだったら僕の方が迷惑をかけていたかもしれない。
そのことを直接説明できないのはもどかしいけれど、とにかく接近禁止なんてバカな真似はやめてくださいと力強く訴えた。
結局のところなにも被害はなかったんだし、穏便に終わらせていただきたい。
その思いが届いたのか、和音さんは深くため息をついてから響生さんを小突いた。
「朝陽くんの恩情に感謝して、これからは朝陽くんの言うことをなんでも聞くこと。そして二度と朝陽くんに妙な真似はしないこと」
「約束します。不快な思いをさせて申し訳ありませんでした」
「いえ、もう本当に頭を上げてください」
謝罪と反省と後悔をまとめて渡され、戸惑いながらも顔を上げてもらう。
その後ちょうどいいタイミングで店員さんが入ってきて食事が開始されたから、僕はありがたくそのまま憧れの人たちとの食事を楽しんだ。
せっかくの個室だし、この際だ。僕がどれだけアニマートのことを好きか、存分にわかってもらおう。
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