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最終章:日向彰良 〜いい大人〜

「父さん、先生、行ってきます。」 「爽太くん、ちょっと待って。 俺も一緒に駅まで行くよ。」 「ちょっと、爽太も類くんも、僕を置いてかないで。」 「もう二人ともいい加減に子離れして! 俺抜きで二人で仲良く行けばいいだろ。」 「えぇ、そんな寂しいこと言うなよ。」 「そうだよ。」 あれから10回目の春を迎え、 爽太は15歳になった。 僕と、 今では『類くん』と呼んでいる『先生』は 付き合い始めてから紆余曲折あったが関係は ずっと続いていて、 爽太が中学生になるのと同時に 爽太に僕たちの関係をちゃんとカミングアウトをし、 類くんが僕たちの家にほぼいるという半同棲状態から 近くの3ベッドルームのマンションへと 一緒に引っ越し、3人で暮らし始めた。 僕たちはその時を境に 家賃も生活費も 私立中学に通う爽太の学費さえも、 二人で折半するようになった。 僕の方が多めに払おうかと 申し出るのもおかしいくらい 爽太はずっと類くんの作ったご飯で大きくなって 呼び方だけは『先生』と昔と変わらないが、 類くんのことを信頼し、 僕と同じように父親として接している。 カミングアウトした時にも 「別に今更? 俺たちずっと3人家族だったじゃん。」 と言ってくれて、類くんも僕も号泣した。 僕たちはこの10年間 いつだってそんな爽太の言葉や気持ち、行動に 救われてきたような気がする。 結局今朝は3人で駅まで行くことになったが、 思春期の爽太は一人早歩きで 僕たちの10歩ほど先を歩いていた。 そんな後ろ姿を見て、 類くんが、 「爽太くん、また身長伸びたんじゃない? 今178cmくらいだっけ?」 としみじみ言った。 「僕を超えるかな。」 「えー、やっぱ超えちゃうかな。 まぁ それでも可愛いけどね。」 「そうだね。」 二人でニヤニヤしながら話していると、 爽太はむくれた顔で振り向いた。 「あのさ、さっきからずっと聞こえてるから!!! 親バカ! ってか、言うの忘れてたけど 今日学校の後、 康介の家に泊まるから 夕飯いらない。」 「え!また? せっかく今日は僕も類くんも早く帰れるのに。 二人とも受験勉強ちゃんとやってるの? 遊びすぎじゃない?」 僕が不安げに訊ねると 「ちゃんと、俺も康介も勉強してるし、 俺においては成績も変わらず 学年トップだよ?」 と生意気に返してきた。 爽太は小さい頃から 類くんに勉強を見てもらってきたこともあり 今のところ成績に関しては 何も言うことがない。 「また二人飯か。 一番の大食いの爽太くんが 食べてくれないと 腕がならないなぁ。」 類くんが残念そうに言うと、 「せっかくだから、 おじさん二人でデートでもすれば?」 と爽太は呆れた声で言った。 「そうだね、そうしようか、彰良さん。」 「あー、うん、そうだね。」 「何食べたい?」 「えー。類くんは?」 「俺は彰良さんが食べたいものでいいよ。」 「うーん、どうしようか。 じゃぁ、せっかくだから類くんが作れないものがいいなぁ。 でも類くんなんでも作れるしなぁ。 寿司とか?」 そう言うと、寿司が大好物な爽太が 「は!?ずるい!」 と大きな目をさらに大きくし反応した。 「じゃぁ、爽太くんも一緒に行こうよ。」 と類くんが笑いながら言うと、 「ふん。いいよ、別に。 俺はもう康介と約束してるし、 二人で楽しんでくればいいじゃん!!!」 と拗ねて走って行ってしまった。 「しっかりしてきたとはいえ 爽太もまだまだ子供だなぁ。」 「今の拗ねた顔、 彰良さんに似てて可愛いかったね。」 男同士の関係は もっとドライなものかと思っていたけれど、 10年経っても類くんはこんな感じだ。 体型はあまり変わっていないにしろ、 顔のシワも白髪も年相応に増えたのに、 未だに類くんは僕のことを 「可愛い」対象として扱う。 最初のうちは 女や子供のように扱われているような気がして 違和感があったが、 こんなに長く言われていると 慣れてしまって、 類くんの可愛いは 愛しいと思っている気持ちだということも ちゃんと分かっているから むしろ、嬉しいとさえ思う。 「まぁ、寿司は今度3人でまた行くとして、 今日はさ、久々にアイ・タイに行こうよ。」 僕たちが初めて二人で出掛けたタイ料理屋さんは まだ存在していて 飲食激戦区の新宿で、 なくならないうちに 何回も訪れようということで 定期的に訪れていた。 「そうだね。最近行ってなかったね。 ついでにヒデママにも会いに行かない?」 「俺は先月会ったけど、 彰良さんは、もう半年くらい会ってない?」 「うん。」 「じゃ、ヒデママの店にも顔出すとするか。 初デートのコースだね。」 「あれってデートだったの?」 「デートでしょー。」 仕事後、待ち合わせ場所のアルタ前に着くと 初めて待ち合わせしたときのことを思い出すように 類くんは、一際目立っていた。 一緒にいすぎて 見慣れて すっかり忘れそうになるが、 こうやって人混みの中で 類くんを見ると、 ずば抜けてプロポーションも良いし 顔もいい。 10年経って渋さが加わり、 更にいい男になった気がする。 「彰良さん!」 僕を見つけて嬉しそうにそう呼ぶ声も この人全てが自分のものなのだと思うと、 優越感と照れ臭さで、 胸の中がくすぐったくなる。 タイ料理をいつものようにシェアして食べた後、 僕たちはヒデママの店に向かった。 ヒデママは数年前にパープルラビッツを閉店し、 今は『パープル&ホワイト』という店を 以前パープルラビッツで店子として働いていた 美形ハーフのユウリママと共同経営している。 二人は私生活でもパートナーで 僕たちと似たような時期から一緒にいる。 「今日は二人揃ってくるなんて珍しいじゃない?」 店に入って いつものようにカウンター席に座ると、 ヒデママは ささっと 僕たちがいつも頼むウーロンハイを出してくれた。 「今度結婚パーティーするんでしょう? 類くんから聞いたよ。」 ヒデママに僕がそう尋ねると、 「ユウリがしたいってしつこいのよ。 私はもう50過ぎにもなって恥ずかしいんだけどねぇ。」 と、こそばゆそうに言った。 「そんなこと言って、ヒデさんだって 僕のタキシード選び、ノリノリだったじゃないですか。」 違う客の相手をしていたユウリママが 途中、ショットグラスをヒデママの後ろの棚から 取るついでに話に割り込んた。 「だってそれはユウリって元モデルだけあって スタイルいいし、 目の保養っていうか。 それとこれとは別というか。」 「二人は相変わらず熱いね。」 「あんた達バカップルには負けるわよ。」 しばらくいつもの感じで 二人と喋りながら楽しく飲んで話し、 僕は一旦トイレに立った。 パープルラビッツよりも 広くなった店内を見渡すと、 今日も相変わらず賑わいを見せていた。 『パープル&ホワイト』は 客層が違う二つの店を融合させたこともあり、 客層が広がり、 出会いを求めてくる人たちが より多くなった気がする。 さっと用を済ませて 席に帰ろうとすると、 僕の座っていたところに 若い男の子が座っていて、 類くんに話しかけているのが見えた。 類くんのモテ度は 僕と恋人同士になったからとか 歳を取ったからとかで 変わることはなくて、 一緒に2丁目に来るたびに こういうことが多々ある。 僕がいない時なんて、 きっともっと声をかけられているのだろう・・・。 類くんのことは信用しているし、 もう慣れっこなはずなんだけど、 それでも毎回直接目にすると ムズムズしてしまう。 僕が席の前に戻ると 類くんは 「ここ、連れの席だからさ」 と男の子を追い払うように冷めた口調で言った。 彼は僕のことを値踏みするように上から下まで見て、 「ふーん」 と一言言い捨て、席を離れた。 「あんたの旦那また口説かれてたわよ。 あんたが一緒にいたの分かってて あの子もやるわねぇ。」 「もう慣れたよ。」 ヒデママのそんな言葉に対し 気にしていないと言う様に返すと、 類くんだけは 僕の小さな声色の変化に気づいて、 バーカウンターの下で 僕の手をギュッと握った。 そして 「俺たちそろそろ出るよ。」 と、財布を出し、会計の準備を始めた。 「え?もう?」 と惜しむヒデママに、 僕たちの様子を察したユウリママが 「せっかく二人だけの夜なんだから、 引き止めるのは悪いですよ。」 と フォローした。 二丁目から家までの タクシーの中、 握られた手。 類くんは僕の手をずっと握っていた。 言葉は何もいらない。 1秒でも早く 触れ合いたいということを 手の甲をなぞる指の先で伝え合う。 だから家についたその瞬間、 僕が類くんに抱きつくと 類くんも、 僕を強く抱きしめ返し、 熱烈なキスをした。 この人が今すぐ欲しい。 それ以外何も考えられないほど ただ目の前にいる男に 僕は欲情している。 互いの衣類を一つずつ落としながら 玄関から家の奥にある寝室にまで 辿り着く。 産まれた時の姿になり ベッドにそのまま倒れる前に、 僕は類くんの前で跪き 形を為し始めた類くんの塊を口に含んだ。 「どうしたの?今日は積極的だね。」 頭を前後に動かしながら、 先をチロチロと舐めていると、 どんどん膨らんでいく性で 口内が窮屈になる。 「さっきの子のせい?」 類くんは僕の髪をサラッと撫でた。 図星なのかもしれない。 でも素直にそうとは言えない僕が 何も言わずにひたすら 硬直したものを咥え続けていると、 そんな僕のことなど お見通しな類くんは、 「相変わらず 焼き餅屋さんだね。 ほら、おいで。」 と僕から一旦離れ ベッドの上に座り、 自分の上に座って欲しいと訴えるように 腿を叩いた。 僕は類くんの方を向き、 跨がるように類くんの膝の上に腰を下ろすと、 類くんは僕の首に柔らかなキスをいくつも 落とした。 「・・・類くんは揺れたりしないの? あんな若くて可愛い子からナンパされて・・・。 僕なんて、ほら・・・もう こんなおじさんになってしまったし・・・。」 類くんはまるで僕が おかしいことを言っているように笑った。 「彰良さん、 そんなこと言ったら、俺なんて 女ですらないよ。」 「・・そ、そうだけど、類くんはモテるし・・・。」 「俺がモテることと、 俺の気持ちは関係ないよ。 それにこんなにエッチで可愛い人が ずっと側にいるのに、 目移りなんてしてる余裕はないしね。」 そう言って、僕のツンと立った胸の中心を舐め始めた。 「あぁっ!んっ」 「彰良さんの胸 結構育ったよね。」 「そんなこと・・・。」 類くんは片方の乳首を親指と人差し指で 摘むように捏ねながら もう片方の乳輪を伸ばすように吸った。 「あぁんっっ!あぁっ、あっ!んっ!!」 ほどよく痛くて、それが気持ちい。 これは類くんに会うまでは知らなかった感覚で、 今でもはもうお馴染みの快感。 既に膨れている前も、 ちょうど類くんのものと当たって、 気持ちくて つい体を動かしてしまう。 そんな僕の様子に気づいた 類くんはサイドテーブルの中から ローションを取り出し、 自らの手を濡らすと 僕の後ろに指を押し入れた。 「あぁああぁんっ!」 自分で体を揺らすたびに 類くんの指は どんどん僕の奥へと入っていく。 自分で誘い入れているようで 恥ずかしいのに 腰を振るのをやめられない。 人差し指、中指、薬指、 その全てが入ると、 気持ちの良い場所を 一瞬で当てられるほど 僕の中を熟知していている指たちは 僕にぞくぞくとした快感の波を運ぶ。 毎度の如く 入念に中をほぐされた後、 「乗っていいよ。」 と、類くんは手をベッドにつき、 体をリラックスさせた。 胴体は寛いでいるのに その中心にあるものだけが 硬く反り上がっている。 僕は類くんの頭を抱えながら 聳え立つそれに 自分を突き刺すように 脚を広げてしゃがんだ。 「あぁっ・・・あぁっ・・・あぁんっ!」 半分も入っていないうちに、 既に指で刺激され続けていた場所にあたり、 つい声が出てしまう。 「可愛いね。」 そう言い類くんは ちょうど類くんの口元にある 僕の鎖骨に痣をつけるように強く吸った。 このまま動くと、 すぐに果ててしまいそうで 体を休めていると、 類くんは 片手で僕の前を握って、 口に胸を再び含んだ。 「あああぁぁんっ!!あぁッ!ああぁァっ!!! 一気にはダメっ・・・ぁあんっ!」 上半身も下半身も全て同時に 快感を与えられ、 痙攣するように全身が震えて力が入らない。 僕のそんな震える脇腹を空いた手で支えながら、 類くんは、下から腰を突き上げた。 いっきに奥まで貫かれ、 強烈な快感が全身を駆け抜ける。 「そ、そんな・・・あ、それ・・・い・・・イっちゃう。」 「いいよ。出しちゃおうね。」 類くんは嬉しそうに 僕のあらゆる性感帯を犯し続けた。 「あぁっぁあんっああぁっあっぁぁああ」 息継ぎができないほどに高揚が盛り上がり、 僕はあっというまに絶頂を迎えてしまった。 「ごめん。」 あまりに早くてしょんぼりする僕の肩を押し 「まだ終わりじゃないよ。」 と類くんはそのまま僕を仰向けに倒した。 下はまだ繋がっていたので、 類くんは座った体勢のまま 僕の膝下を掴み、 腰を前後に振った。 「あ、またそこばっかり・・・擦らないで。」 「好きでしょう、ここ。」 「あぁっ、ぁああっ!あああっ!!!あぁんっ!ああぁああ。」 すっかり中を 類くんから開発されている僕は 仰け反りながら そのままドライでイき続けた。 「ほんと、可愛い。大好きだよ。」 「僕・・・もぉ・・・あぁっ!ん!! だ、、、いす・・・きぃっ!ぁっ! だから これ、、、もぅ・・・やめてぇ・・・」 「ダメだよ。 俺が彰良さんのことだけを好きだって 何回でも分からせてあげなきゃね。」 「分かっ・・・ってる、からぁ・・・」 「まだまだ。」 類くんの動きは激しくなる一方で、 僕の意識はもうそこから無くなった。 「父さんたちさ、 いつまでも仲がいいのはいいんだけど、 思春期の子供がいるっていうのを 忘れないでよねぇ。」 僕は、爽太のそんな声で目覚めた。 隣では、類くんも同じタイミングで起きたのか 目を擦りながら上半身を起こしていた。 僕たちは布団をちゃんと被っていたものの 事後を物語っているような裸のままだった。 部屋のドアの前に立っていた爽太は、 二人で昨夜家中に脱ぎ捨てて来た 服の山を両手で抱えていた。 「わぁっ、ごめん、爽太くん。」 それに気づいた類くんは焦った様子だ。 「・・・爽太、今日は随分帰り早かったんだね?」 僕が気まずくそう聞くと 「何?早く帰って来ちゃいけないの?」 と爽太は平然と答えた。 「いや。 ・・・ね。 いつも通りに夕方ごろに帰ってくるかなって思ってたから 今爽太が持っているものとかの 片付けとか・・・ちゃんとしてなかったから・・・」 「ふーん、じゃぁ、お詫びに何かしてもらおうかな。 そうだなぁ・・・ 回ってないお寿司が食べたいなぁ〜。」 爽太は何かが欲しい時など 自分の要求を通したい時に使う声色で 僕よりもはるかに爽太に対し甘い 類くんの方を見て、言った。 「あ、うん、じゃ、今夜行こう!3人で!」 類くんがそう答えると、 自分で言っておいて、 まさか即オッケーが出るとは思っていなかったのか、 爽太は 「え?今日?昨日二人で行ったんじゃないの?」 とびっくりしていた。 「あんな風に拗ねられていけるわけないだろう? 僕たちのこと分かってるくせに。」 僕がそう言うと、爽太は鼻で笑った。 「はぁー、二人って本当ちょろいよね。 とりあえずさ 親の生々しいキスマークとか みさせられてんのとかきついから 服着ようよ。 俺、その間この落とし物 洗濯カゴにいれとくわ。 そこに落ちてるパンツとかは、 自分たちで持ってきてよ。」 「・・・申し訳ない。」 爽太が洗濯機のある洗面所に向かうと、 「はぁ、爽太くんは やっぱり彰良さんに似て寛大だねぇ。」 と、類くんは僕の方に頭を乗せた。 「何言ってんの。 そういうとこ、類くんにそっくりじゃん。」 僕も類くんの細くて柔らかい毛に顔を埋めた。 「えー、そうかな?」 「そうだよ。 見た目は俺に似るのは 遺伝子だからだけど、 性格は断然類くん寄りだよ。」 「そう言われると、嬉しいなぁ。」 そう言って、類くんが僕の顎をクイッと掴んで キスしようとした。 すると、 「ほらまたそこー! イチャイチャしない! パンツ!!!!」 と爽太はパトロール中の警察のように さっと駆けつけた。 僕と類くんは思わず 「「はい!」」 と同時に答えた。 僕たちのシンクロした返事に 呆れ顔を貫いていた爽太も表情を崩し、 僕たち3人は顔を見合わせて、 面白おかしく笑った。 幸せだな・・・ こう言う時、特にそう思う。 こんな瞬間一つ一つがあるたびに 僕たちの選んだ道は 間違えではなかった、と 証明してくれているようで、 笑っているのに、泣きたくなる。 付き合うと決めた時は 不安や戸惑いばかりで、 まさか10年後 こんなに笑いが絶えない家庭を築いているなんて、 想像すらできなかった。 だけど 10年というそれなりの年月を重ねてきた僕たち。 今では いい大人でしたこの恋が お伽話の結びのように 締め括られることを信じて疑わない。 『それからずっと幸せにくらしましたとさ。』 <終>

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