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第15話 侮れない男※
次の日、ヴィクターは朝から年上の男とまぐわっていた。
相手は、ユージンと同年代くらいの剣士だ。ユージンに比べればいくらか節操はあるが好色で、年下の扱いに慣れている。と、言えば聞こえはいいものの、実際は根っからの年下好きだった。
「……ぁっ、はぁっ、ぁあ……、ん、」
ヴィクターには、相手に合わせてしなを作る、そんな可愛げはない。床に組み敷かれているときも、散り散りの知性で彼特有の静かさを守ろうと努めている、そんな感じだ。
そんな表情はヴィクターを、白馬騎士団にごまんといる遊び人とはやや違ったタイプに見せた。
興味を誘われた男がヴィクターに訊く。
「どうして……君みたいな真面目な子が、こういうこと進んでしたがってるのかな」
その問いに、あるいはユージンは愚問だ、と答えるだろう。性格にも身分にも関わらず、全ての人間は服を脱いで触れ合い、甘い言葉を交わすことを根底では望んでいると。
しかし、ヴィクターの答えは違った。
「ぅ、わ、わかんな……っ、で、す」
故郷に居た時から、同性に対する渇きに似た欲が湧き上がるのを感じたことはあった。が、それがどういうタイミングだったのかは思い出せない。深く考えようとした隙間に、新たな快楽が滑り込んできて、また思考は散っていく。
「ん、ぁ、っく、ぁ、あ───ッ、……」
ぱたぱたと腹に精を飛ばして、ヴィクターが先に達した。
繰り返すが、ヴィクターに、相手に阿って色っぽさを演出するような高等技術はない。
「は……」
しかし、真面目な彼が僅かな間だけ甘い怠惰に身を任せ、くたりと頭を垂れる姿は、この上なく男の欲情を煽った。
ヴィクターは体を清め、改めて訓練場を訪れた。勿論今度は訓練場所としてだ。
いつもはヴィクターが一番乗りだが、今日はすでに聴こえる音があった。素振りの音……にしては少し妙だ。
「何をやっているんだ」
物陰から声をかけると、音の主であるところの新人、アーサーは動きを止め、バツが悪そうにヴィクターの方を振り返った。
「良いとこの坊ちゃんには分からねぇよ」
何やら誤解があるようだ。
訂正しようと思ったが、その前に背後から声がかかった。
「よしよし、今日は決闘とかしてないな」
「「おはようございます」」
教官用の服をやや着崩したユージンが立っていた。
「うん、おはよう」
ユージンが返すと、律儀に頭を下げていたアーサーが鋭く視線を上げた。
「ユージン様」
「ん?」
「俺はあんたを認めません」
リアクションをする間もなく、アーサーがさらに言葉を続ける。
「宿舎や食堂であんたの同僚達が話しているのを聞いた。どれもこれもロクな内容じゃない。教官の変更を希望します」
「……」
「男好きの給料泥棒に教わる剣はねぇつってんだ!」
ユージンがなんらかの言葉を返すよりも、アーサーの首元に手が掛かる方が先だった。
「……訂正しろ」
「ヴィクター」
ユージンの静止も耳に入らなかった。ヴィクターが今感じているのは、生まれて初めてに近い、強い怒りだった。
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