17 / 17

第15話 侮れない男※

次の日、ヴィクターは朝から年上の男とまぐわっていた。 相手は、ユージンと同年代くらいの剣士だ。ユージンに比べればいくらか節操はあるが好色で、年下の扱いに慣れている。と、言えば聞こえはいいものの、実際は根っからの年下好きだった。 「……ぁっ、はぁっ、ぁあ……、ん、」 ヴィクターには、相手に合わせてしなを作る、そんな可愛げはない。床に組み敷かれているときも、散り散りの知性で彼特有の静かさを守ろうと努めている、そんな感じだ。 そんな表情はヴィクターを、白馬騎士団にごまんといる遊び人とはやや違ったタイプに見せた。 興味を誘われた男がヴィクターに訊く。 「どうして……君みたいな真面目な子が、こういうこと進んでしたがってるのかな」 その問いに、あるいはユージンは愚問だ、と答えるだろう。性格にも身分にも関わらず、全ての人間は服を脱いで触れ合い、甘い言葉を交わすことを根底では望んでいると。 しかし、ヴィクターの答えは違った。 「ぅ、わ、わかんな……っ、で、す」 故郷に居た時から、同性に対する渇きに似た欲が湧き上がるのを感じたことはあった。が、それがどういうタイミングだったのかは思い出せない。深く考えようとした隙間に、新たな快楽が滑り込んできて、また思考は散っていく。 「ん、ぁ、っく、ぁ、あ───ッ、……」 ぱたぱたと腹に精を飛ばして、ヴィクターが先に達した。 繰り返すが、ヴィクターに、相手に阿って色っぽさを演出するような高等技術はない。 「は……」 しかし、真面目な彼が僅かな間だけ甘い怠惰に身を任せ、くたりと頭を垂れる姿は、この上なく男の欲情を煽った。 ヴィクターは体を清め、改めて訓練場を訪れた。勿論今度は訓練場所としてだ。 いつもはヴィクターが一番乗りだが、今日はすでに聴こえる音があった。素振りの音……にしては少し妙だ。 「何をやっているんだ」 物陰から声をかけると、音の主であるところの新人、アーサーは動きを止め、バツが悪そうにヴィクターの方を振り返った。 「良いとこの坊ちゃんには分からねぇよ」 何やら誤解があるようだ。 訂正しようと思ったが、その前に背後から声がかかった。 「よしよし、今日は決闘とかしてないな」 「「おはようございます」」 教官用の服をやや着崩したユージンが立っていた。 「うん、おはよう」 ユージンが返すと、律儀に頭を下げていたアーサーが鋭く視線を上げた。 「ユージン様」 「ん?」 「俺はあんたを認めません」 リアクションをする間もなく、アーサーがさらに言葉を続ける。 「宿舎や食堂であんたの同僚達が話しているのを聞いた。どれもこれもロクな内容じゃない。教官の変更を希望します」 「……」 「男好きの給料泥棒に教わる剣はねぇつってんだ!」 ユージンがなんらかの言葉を返すよりも、アーサーの首元に手が掛かる方が先だった。 「……訂正しろ」 「ヴィクター」 ユージンの静止も耳に入らなかった。ヴィクターが今感じているのは、生まれて初めてに近い、強い怒りだった。

ともだちにシェアしよう!