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第182話 お嬢様

リョウタはお嬢様を想像していた。きっと、縦巻きの長い金髪をふわふわ揺らして、瞳はブルーで、ふりふりのワンピース。見るからに上品で、食事の前には執事が味見して… 「リョウちゃーん?そろそろ怒るよ?」  「えっ!?」  「鼻の下伸ばしてなんなの!?さすがに気持ち悪いよ!?」  「ご、ごめん!今はどう?」  「うん!戻った!」  リョウタは鼻の下をたくさん擦って、弘樹の後についていった。 2人はお嬢様の交換留学先や病院に向かい、話し聞く役割になったのだ。  (会ってみたいなぁ。お嬢様!)  シズクの友達だといえば通してもらえた場所は病院の個室。  弘樹がノックする寸前にドアが勢いよく開いた。  「早く!シズクのとこに行かないと!!」  そして勢いよく弘樹にぶつかり、弘樹は尻もちをついた。  「大丈夫!?」  弘樹に馬乗りになったのは、青い目に白い肌、金髪の女性。  「痛たたたた…ッ」  「ほら、立って!」  グイッと引っ張られた弘樹は、すみませんと謝罪した。 「いいの!こちらこそ!」  サバサバした話し方。  目の前にはベリーショートのお姉さん。  「エイミー落ち着きない!」  「嫌よ!オジ様!私はこんなにも元気!シズクが心配なの!行ってくる!」  リョウタは飛び出すエイミーの腕を掴んだ。  「何?」  「シズクの家族です!あなたに会いに来ました!」  リョウタがそう言うと、エイミーは大きな目を潤ませてリョウタを抱きしめた。  「シズクの…!ごめんなさい。私のせいなの!シズクに会わせて」  泣き始めたエイミーにオジ様と呼ばれた眼鏡のおじさんが慌て、しまいにはまたエイミーにしっかりしてよ、と怒鳴られていた。  「エイミーさん。私のせい、とは?」  エイミーはぐっと黙り込み、おじさんは言うんじゃないとエイミーに目配せしたが、エイミーは首を振った。  「私、命を狙われているの。今回の留学も大反対を押し切ってここへ来た。私は、忍者になりたかったの。」  「「忍者…」」  おじさんは呆れて頭を抱えている。  「忍者!いいじゃないか!女の子ならくの一だね!」  リョウタがそう言うと、エイミーは嬉しそうに頷いた。  「日本の文化を学びたかったの。語学はどこでもできるけど、文化は行かなきゃ分からない。…学校に行けばシズクが何でも教えてくれた。シズクは親友よ。」  エイミーが学校の楽しかった話をしたあと、悲しそうな顔をした。  「私が戻らなければ、大勢の人が死ぬと、犯行予告が入ったの。揶揄う人もいるから無視していたら…、学校のお水が変だってシズクが言ったの。だから、私は触っていない。シズクは触ったりして調べてたから…」  次の日からシズクが学校に来なくなり、エイミーは先生に伝えたが誰も取り合わずこの大惨事になったそうだ。  「シズクが教えてくれたの。私じゃなくてシズクが先生に伝えていれば変わったかもしれない。」  「犯人は?」  「犯人は近くにいるはずなの。殺したいのは私だけ。この国にいる間は手出しができなかったはずなのに…どうして。」  エイミーは短い髪をきゅっと掴んだ。  「どこにいても、私に自由はない。」  寂しそうな顔に、リョウタと弘樹は胸が痛んだ。普通の女の子なのに、と眉を下げた。  「とにかく、シズクに会いたいの!」  「なら、ここにいて下さい。」  弘樹が通る声で言った。リョウタは弘樹を見つめ、首を傾げた。  「犯人が狙ってるのは貴方だ。捕まるまで、ここを出ちゃダメです。」  「っ!でも!」  「シズクが、貴方を守ったのに、俺たちが貴方を危険な目に遭わせるわけにはいきません。」  「でも…」  泣きそうなエイミーにリョウタはオロオロするが、弘樹は真っ直ぐエイミーを見た。  「解決したら、うちへ遊びに来てください」  「え?」  「俺らはみんな家族なんです。」  弘樹の言葉に、リョウタは微笑んで弘樹のお尻をポンと叩いた。  「だからこの件は、俺らに任せて、エイミーさんはここで待っていてください」  エイミーはしばらく弘樹を見つめた後、納得したように、はい、と頷いた。 後ろのおじさんは、安心したように汗をハンカチで拭った。  「エイミーさん!また来るから!」  「うん!待ってる!」  リョウタは大きく手を振ってドアを閉めた。  「「さて」」  2人は目を合わせてニヤリと笑った。 

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