182 / 191
第182話 お嬢様
リョウタはお嬢様を想像していた。きっと、縦巻きの長い金髪をふわふわ揺らして、瞳はブルーで、ふりふりのワンピース。見るからに上品で、食事の前には執事が味見して…
「リョウちゃーん?そろそろ怒るよ?」
「えっ!?」
「鼻の下伸ばしてなんなの!?さすがに気持ち悪いよ!?」
「ご、ごめん!今はどう?」
「うん!戻った!」
リョウタは鼻の下をたくさん擦って、弘樹の後についていった。
2人はお嬢様の交換留学先や病院に向かい、話し聞く役割になったのだ。
(会ってみたいなぁ。お嬢様!)
シズクの友達だといえば通してもらえた場所は病院の個室。
弘樹がノックする寸前にドアが勢いよく開いた。
「早く!シズクのとこに行かないと!!」
そして勢いよく弘樹にぶつかり、弘樹は尻もちをついた。
「大丈夫!?」
弘樹に馬乗りになったのは、青い目に白い肌、金髪の女性。
「痛たたたた…ッ」
「ほら、立って!」
グイッと引っ張られた弘樹は、すみませんと謝罪した。
「いいの!こちらこそ!」
サバサバした話し方。
目の前にはベリーショートのお姉さん。
「エイミー落ち着きない!」
「嫌よ!オジ様!私はこんなにも元気!シズクが心配なの!行ってくる!」
リョウタは飛び出すエイミーの腕を掴んだ。
「何?」
「シズクの家族です!あなたに会いに来ました!」
リョウタがそう言うと、エイミーは大きな目を潤ませてリョウタを抱きしめた。
「シズクの…!ごめんなさい。私のせいなの!シズクに会わせて」
泣き始めたエイミーにオジ様と呼ばれた眼鏡のおじさんが慌て、しまいにはまたエイミーにしっかりしてよ、と怒鳴られていた。
「エイミーさん。私のせい、とは?」
エイミーはぐっと黙り込み、おじさんは言うんじゃないとエイミーに目配せしたが、エイミーは首を振った。
「私、命を狙われているの。今回の留学も大反対を押し切ってここへ来た。私は、忍者になりたかったの。」
「「忍者…」」
おじさんは呆れて頭を抱えている。
「忍者!いいじゃないか!女の子ならくの一だね!」
リョウタがそう言うと、エイミーは嬉しそうに頷いた。
「日本の文化を学びたかったの。語学はどこでもできるけど、文化は行かなきゃ分からない。…学校に行けばシズクが何でも教えてくれた。シズクは親友よ。」
エイミーが学校の楽しかった話をしたあと、悲しそうな顔をした。
「私が戻らなければ、大勢の人が死ぬと、犯行予告が入ったの。揶揄う人もいるから無視していたら…、学校のお水が変だってシズクが言ったの。だから、私は触っていない。シズクは触ったりして調べてたから…」
次の日からシズクが学校に来なくなり、エイミーは先生に伝えたが誰も取り合わずこの大惨事になったそうだ。
「シズクが教えてくれたの。私じゃなくてシズクが先生に伝えていれば変わったかもしれない。」
「犯人は?」
「犯人は近くにいるはずなの。殺したいのは私だけ。この国にいる間は手出しができなかったはずなのに…どうして。」
エイミーは短い髪をきゅっと掴んだ。
「どこにいても、私に自由はない。」
寂しそうな顔に、リョウタと弘樹は胸が痛んだ。普通の女の子なのに、と眉を下げた。
「とにかく、シズクに会いたいの!」
「なら、ここにいて下さい。」
弘樹が通る声で言った。リョウタは弘樹を見つめ、首を傾げた。
「犯人が狙ってるのは貴方だ。捕まるまで、ここを出ちゃダメです。」
「っ!でも!」
「シズクが、貴方を守ったのに、俺たちが貴方を危険な目に遭わせるわけにはいきません。」
「でも…」
泣きそうなエイミーにリョウタはオロオロするが、弘樹は真っ直ぐエイミーを見た。
「解決したら、うちへ遊びに来てください」
「え?」
「俺らはみんな家族なんです。」
弘樹の言葉に、リョウタは微笑んで弘樹のお尻をポンと叩いた。
「だからこの件は、俺らに任せて、エイミーさんはここで待っていてください」
エイミーはしばらく弘樹を見つめた後、納得したように、はい、と頷いた。
後ろのおじさんは、安心したように汗をハンカチで拭った。
「エイミーさん!また来るから!」
「うん!待ってる!」
リョウタは大きく手を振ってドアを閉めた。
「「さて」」
2人は目を合わせてニヤリと笑った。
ともだちにシェアしよう!