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最終話 幸せ
ーー10年後
「「うわぁあああん!!」」
「どうしよ、サキ!さっきミルクあげたのに!」
「うんこじゃないのー?」
「手伝ってよ!」
ここ最近の桜井組はてんやわんや。
任務の方が楽だ、と思ってしまうほどリョウタは振り回されていた。
当番制の育児。これは依頼でもなんでもない。
「あー!もう!アサヒさんたちいつ帰ってくんだよ!」
リョウタは自分の方が泣きそうだとオムツを剥ぐと、もう1人が顔を真っ赤にして泣いている。
「サキ!!!」
「あはは!はいはい。リョウタと弘樹の育児は本当笑える」
サキはもう1人のオムツを交換してくれた。手際が良くてムカつく。もたもたしていたら、リョウタの世話していた方がぐずりはじめてサキと交代した。
「はぁ〜しんどい。ハルさんの買い物代わればよかった。」
「お前この間も逃げただろ。ハルさん覚えてたぞ。」
「うっ!」
すやすやと眠る姿は天使でしかない。
頬を突きたいけど起きたら困る。
リョウタはその寝顔を見ることが幸せだった。
「アイリ、卒業式終わったらすぐ海外?」
「らしいよ。たくさんの人を助けて、また戻ってくるんだって。」
「うはー。シズクだけでもつか?」
「俺たちもいるだろーが。」
アイリは海外の大学を飛び級で卒業して医師免許を取った。同じ海外の大学に通っていたシズクとの間に双子も産まれ、結婚した。
「シズクも助教授の話来てたらしいじゃん。もったいねー。」
「いいだろ。本人が決めたことだ。」
サキは、赤ちゃんが好きなのかずっとリビングにいるようになった。弘樹やリョウタのサポートをしてくれる。たまにレンと取り合いになってはアサヒに2人を奪われている。
「しっかし。アサヒさんが抱っこしたらすぐ寝るよなぁ。やっぱアサヒさんパパなんだなぁ」
「安定感あるんだろうな」
少しだけ悔しそうにサキはそう言って、リョウタのお腹を撫でた。
「お前はまだか?」
「ばっかじゃないの!?一生産まれないし!バカ!」
サキが子ども好きなのを気にしていたリョウタは、直接言われて冗談でも泣きそうになった。察したサキは慌てて抱きしめてくれたが、ぐずった双子がまた泣き始めて2人は慌てた。
「ただいまー」
「おかえりなさーい!」
ぎゃん泣きする2人を連れて行くと、アイリとシズクが受け取った。すぐに落ち着いて笑う2人は両親が分かるのだろう。
「ありがとう!リョウちゃん。大丈夫だった?」
「うん!サキに手伝ってもらった!」
「やっぱり1人は厳しいですよね。ありがとうございます。」
シズクは苦笑いして頭を下げた。
明日はアイリが海外へ出発する日。
3ヶ月の出張だ。リョウタとサキは2人でゆっくりしてもらおうと引き続き2人をあずかったが嫌がっていた。
「うー…せめてユウヒが来たらなぁ」
「ユウヒと弘樹は任務だろ。」
サキは泣くのも可愛いとデレデレだ。
ガチャ
「ただいまー」
「来た!!快晴!満天!じいじだよ!」
「まぁた泣かしてんのか?」
アサヒの登場にリョウタも双子も歓喜した。
双子の男の子。名前をつけたのはアサヒだった。2人は我先にとアサヒに手を伸ばし、抱っこされれば安心したようにウトウトした。
「うわ?ミナトさん、それ何?」
「じいじが孫へのプレゼントだって。毎回買いすぎって言っても聞かないや」
呆れたようにミナトは運んで、と部下に指示した。
ミナトもアサヒと一緒なら外出できるようになった。今日は2人でアイリの卒業式を見て、その後にシズクの家に挨拶に行っていた。
「疲れた…。オモチャ屋ってどうしてあんなに子どもがいっぱいなの…。どうしてみんな叫んでるの…。」
「子どもはそーゆーものよ。」
「無理…。アイリとユウヒはもっと育てやすかった。あんな廊下で寝転がって泣くほど欲しい?僕が買ってあげたかった」
「そりゃ躾になんねーの。」
ミナトはソファーに横になった。
満天はミナトに手を伸ばす。
「あはは!本当満天はお前に懐いてるなぁ。」
「穏やかなところが僕と合うのかな。おいで」
(穏やか!?どこが!?猫被りやがって!)
「リョウタ。顔に出てる。」
ムニっと頬をサキにつねられた。
長男の快晴はずっとアサヒにべったり。声もでかいし暴れ方も尋常じゃない。次男の満天は快晴よりはまだ静かだが、自己主張はすごい。
ミナトは満天を抱きしめたまま寝息を立てた。リョウタは満天の毛布をそっと被せて、起きなかったことをサイレントで喜んだ。
その後、卒業祝いと出発を送り出す会が盛大に行われた。それぞれに部下達も増えて、涙する部下もいたが、アイリは笑顔で行ってきますと挨拶をした。
リョウタも涙を拭いながら、ふと考えた。
世間的には反社会組織で、普通じゃない。
でも、リョウタは普通の世界にいた時には知らなかった、仲間、家族、恋人を、ここで知ることができた。
前の生活ではとても考えられない日常。
命懸けで、その日その日を大切に生きる。
それが、幸せすぎて、ありがたくて泣きながら笑った。
「何泣いてんだよ。お前の部下たち見てみろ。みんなもらい泣きしてるよ」
「だって…幸せだよっ、アイリも立派になって…っ」
サキは優しくリョウタの涙を拭って、頬にキスすると、リョウタの涙はピタリと止まり、リョウタの部下達は今度は赤面した。
「お前、っ、な、なにやってんだよ、人前で!」
「ん?可愛いから。」
「はぁーー!?」
「可愛っす!リョウタさん!!」
「うるさーい!!」
ぎゃあぎゃあ騒いでパーティーは幕を下ろした。
「アイラ。俺、じいちゃんになってさ、アイリの子どもも抱っこしたよ。旦那はいい奴さ。ガキん頃から見てる。だから、これからも、見守ってくれよな。」
アサヒは1人、賑やかな会場から出てバルコニーに出た。
満天の星空を見て、微笑んだ。
「アサヒ。ここにいたの。」
「ミナト…。うん、アイラ達に報告をな。」
ミナトも星空を見上げた。
「アイラさん、マヒル。僕、とっても幸せだよ」
ミナトの穏やかな顔を見て、アサヒはミナトの頬に手を伸ばした。
反社組織に入社しました。
終わり
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