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第190話 シズクの覚悟
シズクが完全に回復して、リビングに来ると全員が集まっていてシズクは息を飲んだ。ただならぬ空気を察して頭を下げ、席についた。
「シズクに話がある。」
「はい。」
珍しく緊張している自分に少し驚く。指先が僅かに震えるのを握って誤魔化し、シズクはアサヒを見た。
「俺たちにはシズクが必要だ。」
「…?…はい。」
話が見えなくて首を傾げてしまう。周りの緊張感が伝わる。何より、ユウヒとアイリの緊張感は他のメンバーよりも強く感じる。
「でも、ここに残るかはお前が選べ。」
「えっ?」
(どういうこと?)
不安になってユウヒを見るが目が合わない。必死に床を睨みつけている。
「あの…僕、何かしましたか?」
「逆だ。俺たちが、お前を危険にさらすことも、今後はあり得る話した。」
「そんなの!入った時から覚悟してます!今回の件は僕が勝手に…勝手に…」
(あぁそうか。僕の勝手な判断が、みんなを心配させた。僕を元の世界に戻さなきゃと思わせたんだ。)
シズクはもう一度ユウヒとアイリを見た。泣くのを我慢している顔をしていた。
(巻き込みたくない、とか思ってるんだろうな。…そしつ、アサヒさんも。)
シズクは、この家族の優しさを痛感して立ち上がった。
「シズク…」
「アサヒさん、僕はここにいたいです。」
頭を下げた。
僕自身の居場所だと、そう思える場所だった。家族よりも家族に感じていた。シズクにとってアサヒは理想の父親像そのもので、ユウヒは親友、そしてアイリも大切だった。
「もう戻れねーぞ。いいのか?お前は勉強とか普通の学校生活を…」
「え?やりますけど?」
シズクはニヤリと笑った。
「外の世界をゆーひに教えてあげるのは、僕の役目ですから。」
ユウヒを見ると、号泣して顔をぐしゃぐしゃにしたユウヒが抱きついてきた。
「俺!シズクがいないと、ダメダメだから!シズクにいて欲しい!」
強い力のユウヒの背中をポンポンと叩いてアサヒを見た。
「僕は、普通に学校生活を続けて、ここも続けたいです。アサヒさんも昔はそうだったと聞きました。」
「まぁ、な。」
考え込むアサヒに少し不安になってユウヒの服をきゅっと握った。
「父さん!シズクが良いって言ってんだから認めてよ!」
「うるさいユウヒ。少しは落ち着け」
アサヒは呆れるように頭をかいた後、ユウヒを見た。
「シズクが高校卒業するまでは、お前が護衛しろよ。」
「それじゃあ…!」
「シズク、その条件でいいなら交渉成立だ。お前には今後ミナトやレンのそばでブレーンとして動いてもらう。だからユウヒの護衛をつけさせてもらう。」
シズクはぽかんと口を開けたが、いろいろ考えたのか慌て始めた。
「ダメです!それならユウヒにも護衛を…」
「ユウヒが心配なら、学校は許可できない」
渋るシズクにユウヒが苛立ちはじめた。
「シズク!お前!俺を信用してないのかよ!?」
「してるよ!でも、それとこれは…」
「同じだ。俺はお前も、俺自身も自分で守る。もう守られてばっかりじゃダメだ。」
ユウヒがニッと笑うとシズクは任せたよ、と苦笑いした。
「よーし!んじゃパーティーだ!ハル〜準備してくれたの持ってきて〜」
急にご機嫌になったアサヒはニコニコしながらハルに合図を送り、他のメンバーもドリンクや取り皿を分け始めた。
「ゆーひ、何?何が始まるの?」
「シズクの歓迎会&復帰祝い」
「えぇ…。いいのに…。」
「まぁまぁ!そう言うなって!」
ユウヒは嬉しそうにシズクにお茶を注いだ。
「シズク!お前の覚悟に乾杯だ!」
「「「乾杯ー!」」」
全員が笑ってこちらを見てグラスを上げた。
シズクも微笑んでユウヒが注いでくれたグラスを持ち上げた。
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