190 / 191

第190話 シズクの覚悟

シズクが完全に回復して、リビングに来ると全員が集まっていてシズクは息を飲んだ。ただならぬ空気を察して頭を下げ、席についた。  「シズクに話がある。」  「はい。」  珍しく緊張している自分に少し驚く。指先が僅かに震えるのを握って誤魔化し、シズクはアサヒを見た。  「俺たちにはシズクが必要だ。」  「…?…はい。」  話が見えなくて首を傾げてしまう。周りの緊張感が伝わる。何より、ユウヒとアイリの緊張感は他のメンバーよりも強く感じる。 「でも、ここに残るかはお前が選べ。」  「えっ?」  (どういうこと?)  不安になってユウヒを見るが目が合わない。必死に床を睨みつけている。  「あの…僕、何かしましたか?」  「逆だ。俺たちが、お前を危険にさらすことも、今後はあり得る話した。」  「そんなの!入った時から覚悟してます!今回の件は僕が勝手に…勝手に…」  (あぁそうか。僕の勝手な判断が、みんなを心配させた。僕を元の世界に戻さなきゃと思わせたんだ。)  シズクはもう一度ユウヒとアイリを見た。泣くのを我慢している顔をしていた。  (巻き込みたくない、とか思ってるんだろうな。…そしつ、アサヒさんも。)  シズクは、この家族の優しさを痛感して立ち上がった。  「シズク…」  「アサヒさん、僕はここにいたいです。」  頭を下げた。  僕自身の居場所だと、そう思える場所だった。家族よりも家族に感じていた。シズクにとってアサヒは理想の父親像そのもので、ユウヒは親友、そしてアイリも大切だった。  「もう戻れねーぞ。いいのか?お前は勉強とか普通の学校生活を…」  「え?やりますけど?」  シズクはニヤリと笑った。  「外の世界をゆーひに教えてあげるのは、僕の役目ですから。」  ユウヒを見ると、号泣して顔をぐしゃぐしゃにしたユウヒが抱きついてきた。 「俺!シズクがいないと、ダメダメだから!シズクにいて欲しい!」  強い力のユウヒの背中をポンポンと叩いてアサヒを見た。  「僕は、普通に学校生活を続けて、ここも続けたいです。アサヒさんも昔はそうだったと聞きました。」  「まぁ、な。」 考え込むアサヒに少し不安になってユウヒの服をきゅっと握った。  「父さん!シズクが良いって言ってんだから認めてよ!」  「うるさいユウヒ。少しは落ち着け」  アサヒは呆れるように頭をかいた後、ユウヒを見た。  「シズクが高校卒業するまでは、お前が護衛しろよ。」  「それじゃあ…!」  「シズク、その条件でいいなら交渉成立だ。お前には今後ミナトやレンのそばでブレーンとして動いてもらう。だからユウヒの護衛をつけさせてもらう。」  シズクはぽかんと口を開けたが、いろいろ考えたのか慌て始めた。  「ダメです!それならユウヒにも護衛を…」  「ユウヒが心配なら、学校は許可できない」  渋るシズクにユウヒが苛立ちはじめた。  「シズク!お前!俺を信用してないのかよ!?」  「してるよ!でも、それとこれは…」  「同じだ。俺はお前も、俺自身も自分で守る。もう守られてばっかりじゃダメだ。」  ユウヒがニッと笑うとシズクは任せたよ、と苦笑いした。  「よーし!んじゃパーティーだ!ハル〜準備してくれたの持ってきて〜」  急にご機嫌になったアサヒはニコニコしながらハルに合図を送り、他のメンバーもドリンクや取り皿を分け始めた。  「ゆーひ、何?何が始まるの?」  「シズクの歓迎会&復帰祝い」  「えぇ…。いいのに…。」  「まぁまぁ!そう言うなって!」  ユウヒは嬉しそうにシズクにお茶を注いだ。  「シズク!お前の覚悟に乾杯だ!」  「「「乾杯ー!」」」  全員が笑ってこちらを見てグラスを上げた。  シズクも微笑んでユウヒが注いでくれたグラスを持ち上げた。 

ともだちにシェアしよう!