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第189話 母親の覚悟
リョウタはアサヒに同行して、シズクの実家へと向かっていた。アサヒが来たのを確認したシズクの母親はすぐにアサヒを入れた。
「わざわざ…どうしたんですか桜井さん」
「今回のお詫びで。」
アサヒは玄関につくなり頭を下げた。
「俺がついていながら…このようなことになり、申し訳ありません。」
「そんな…!いいんですよ、頭を上げてください」
シズクの母親は慌てて2人を招き入れた。
シズクの実家にはたくさんのシズクの写真や賞状が飾られていた。
「お父様は…」
「研究でこもりっきりです。」
「そうですか。」
シズクがやりたいように、と送り出してくれた母親は、役に立ってますかと心配そうに聞いた。
「あなた方が、私たちのイメージするものと違うから送り出しましたが、今回のことも、あなた方桜井組が根回しをされて、解決したとシズクから聞きました。表立っては評価もされない…もう少しアピールをしても良いんじゃないでしょうか。」
「俺たちは評価が欲しいわけじゃないんです。バランスを保つだけですよ。」
アサヒはニコリと笑って説明した。
核となる組織がないと、様々な輩が自由にし、一般人にも危険が及ぶ。
「まるで警察ですわ。」
「そんなことありません。手続きや法をふんでの罰と、俺らの罰はちがいます。血生臭い世界に引き込んでしまいました。」
苦笑いするアサヒの後ろでリョウタは立ったまま静かに聞いていた。
「まだ、戻れます。」
「え?」
アサヒの言葉に、母親とリョウタは顔を上げた。
「これからは、シズク君の力が必要になる。それは必ずしも誰かを助けるものではなく、殺す目的の場合があります。」
母親もリョウタも息を飲んだ。
「俺らが必要とすることは変わらない。しかし、シズク君にはご家族がいます。意思を尊重して引くこともできます。」
アサヒはあくまでも意見を聞きたいようだった。一般人を巻き込まないように、という方針は変わらないようだった。
「…シズクの人生は、シズクが決めることです。私は、正直想像がつきません。ただ、シズクがやりたいことは何でもさせてあげたい。…初めてなんです。ちゃんと自分の意思で動いたのは。」
母親は嬉しそうに笑った。
「ユウヒ君と会ってから、学校の話をするようになりました。いつも冷静で無口だったシズクが、楽しそうにユウヒ君のことばかり。僕がいないとダメなんだって。嬉しかったんだと思います。ユウヒ君に必要とされて、桜井さんに熱心に誘ってもらえて。」
アサヒは目を見開いたあと、微笑んでお礼を言った。
「私は、桜井さん達を信頼しているし、シズクも信頼している。あなた方のやることは、きっと多くの人を救うのだと。だから、シズクの判断に任せます。」
ーーーー
「リョウタ、母親の覚悟、見たな?」
「はい」
「あれが、母親っつーもんだ。かっこいいよな。親父なんか…男なんか勝てねーよ。」
「かっこよかったです。俺、母親いないから…。」
「ハルで良いんじゃね?」
「ハルさんは男ですよ?!もう!」
アサヒはケラケラ笑ったあと、もう一度、母親はすげーな、とつぶやいた。シズクの母親と誰かを重ねているみたいに見えた。
「帰ったら、シズクのとこ行くぞ」
「はい!」
アサヒはそう言うと、車のシートに深くもたれてすやすやと寝息を立てた。
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