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第1話
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視界のきざはしに映る彼の存在が日増しに増えたのを気付かないふりをしていた。一度認識してしまうと、記憶が途切れないことを知っていた。それがとても恐ろしかったのだ。
よくある雑多なコンクリートのオフィスで今日中に片付ける書類やファイリングする物を片っ端から処理していく。全国全ての量が集まるこの仕事を始めたのは時津玲也(ときつれいや)が大学を卒業してすぐのことだった。
入社して2年が経つ今ではとっくに手慣れたもので、さくさくとそつなく処理すべき仕事を減らしていけた。
仕事を処理する能力において必要なのは目の前のものをいかに効率良くさばけるかで、電話で訂正箇所を支店の者に述べるくらいはお手のものだ。
ただ、職場の同僚などと個人的な話をすることだけは不得意で、それさえ除けば仕事も買い物も人間としての生活を送る上で何の支障もない。
二言三言、会話とも言えぬ言葉のやり取りをするくらいならば構わないが、何が好きだとか昨日何をしただの個人的なことを他人から聞かれるのは苦痛でしかない。
初めて人と接するのが怖くなったのは高校生活が始まってすぐの性別検査からだった。
性別検査。
この世界は男女だけではなく、a(アルファ)、β (ベータ)、そしてΩ (オメガ)の三種類に分類される。
十代後半の高校生になるとそれが判明されるため、誰がどの属性になっているのかが判明される。
割合としては7:2:1といった比率だ。
aは何の苦労もなく産まれた時から優秀で何をしても完璧に行うことが出来る。いわばエリートコースが約束されている種族だ。
βは一般的な人間で、可も非もなくといったもの。
そしてΩは最下層に位置する。aとβと違う所は男女共に妊娠することが出来て、人によって個体差はあるが一月に一度ヒートと呼ばれる発情期が訪れるため、その都度仕事が出来ない状態になってしまうことだった。
検査結果を受け取った時には絶望的な気分になったのを今でも鮮明に覚えている。
自分の名の横に記されていたのはΩだったのだ。
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