58 / 140
第58話 繋がる川(4) 愛してるから (※)
体の内側に突然入ってきたアレスの指が、内部をクチュクチュとかき混ぜた。アレスはまた、ごくりと喉を鳴らす。
「なんて感触だ……。よく濡れてトロトロで、柔らかくて温かい」
「はぅ……っ、ぁ、あっ……!」
レリエルは身をよじらせる。レリエルのそこは、身体の中で一番感じやすかった。アレスの指を中に埋めているだけで、気持ちよくて仕方ない。
レリエルの表情がだらしなく緩む。レリエルの素直な反応にアレスが興奮を高ぶらせているのが伝わってくる。指を増やされた。二本、三本。長い指がレリエルの中で動き、敏感な肉壁が悦んでいる。
「んんっ、はあぁ……」
身体中が快感でぞくぞくとする。
喘ぎながら目線を移せば、アレスのペニスは腹につくほど反り返り立ち上がっている。
変なことばかりして、こんな変な気持ちにさせて、どうしてそれは入れてくれないのか。
快楽に犯される感覚が恐ろしく、レリエルは目じりを濡らして訴える。
「も、もうやだ……!ちゃんとそれを入れてくれ!なんでもするから、入れてくれたらなんでも言うこと聞くから!どうかお願いだ遺伝子を!」
アレスは一瞬呼吸を止める。
どこか辛そうな表情で、指がぬるりと引き抜かれる。アレスは無言でレリエルの両脚を持ち、自らの張り詰めを、レリエルの後孔に押し付けた。
何故か瞳に哀しみを滲ませ、レリエルを見つめる。
「これは、レリエルにとっては食事でも、俺にとっては餌やりじゃねえ……」
そして聞き漏らしそうなほど小さな声で囁く。
「俺はただ、お前を愛してるから抱くんだ……」
(………………愛?)
とくん、と心臓が鳴った。
その言葉がこの場で出てくる意味がわからなかった。そして、その言葉を自分が言われている意味も。何かの聞き間違い?
確認する余地はなく、ずぶり、とアレスの先端が押し入ってくる。欲しかったものが。
アレスが切なげに息を詰めているのが分かる。
狭い肉の道を、剛直が掘り進む。既にしとどに濡れていたそこは、抵抗も反発もなく誘うようにその屹立を飲み込んでいく。
「あっ、はっ……。あぁ……」
待ち望んでいた時の到来に、レリエルはうっとりと目を細めた。美酒に酩酊するように。
レリエルは本能的に、今入ってきたばかりのそれを己の肉襞で締め付ける。
アレスがうめき声を上げた。
「くっ……」
堪えるように息を吐きながら、アレスは腰を押し進める。最奥まで沈められた。尻たぶでアレスの茂みを感じるほどに深々と。
アレスは眉間にしわを寄せた。淫らに蕩けた顔のレリエルを見下ろし、歯を食いしばる。絞り出すように言った。
「レリエル……っ。俺はただ、お前を……!」
アレスは猛然と腰を打ちつけ出した。
想いを叩きつけるように。
硬く太い凶器のような杭がずんずんと容赦無く突き刺される。
獣と化したようなアレスの下、レリエルの体ががくがくと揺さぶられる。粘質な水音が静寂な林の中で嫌に響いた。
いきなりの激しい抽挿はしかし、レリエルに痛みは与えなかった。
ただとても気持ちよく、まだ射精されてないのに体が潤されるような心地がした。
乱れ打つように腰を揺さぶっていたアレスが、息を吐きながら一旦止まり、再び角度を変えて腰を振る。
角度の変わったアレスのペニスが、レリエルの中のある部分を掠めた。
これまで以上の強烈な快感が電流のように走った。
レリエルはびくびくと仰け反り震える。
「っ……!?ひゃっ、やっ、あっ、あっ、やっ……やぁあん……っ!」
レリエルの強い反応に、アレスが驚いて動きを止めた。夢から覚めたような顔をして。
アレスの顔に、強烈な後悔の色がにわかににじむ。
「痛いのか!?」
「ち、違う……」
レリエルは否定する。それでもまだ心配そうにされる。はあはあと息を荒げ、不安な目でレリエルを見つめる。
——止まってしまった。
レリエルは腰をもどかしくくねらせる。体が、たまらなく今の刺激を求めてしまっている。
レリエルは頬をふくらませ、顔を真っ赤にして小声でつぶやく。
「も……っと……」
「悪かった激しくして」
アレスは焦燥にかられた様子で、両手でレリエルの頬に触れる
「違う!もっと、してくれ、そこ!」
恥ずかしかった。遺伝子をくれとせがむのは堂々と出来るのに、快楽をせがむのは耐え難い羞恥だった。
アレスは、やっと気づいた顔をした。目を見開き、
「ここ、気持ちいいのか?」
レリエルは全身の肌が沸騰するようだった。
「う」
口を一文字に引き結び、情けなく下がり眉になってしまう。
アレスは愛おしそうに目を細めた。
「そっか、分かった、気持ちいいんだな」
「うぅ……」
「可愛いレリエル、俺の嫁……」
「かわっ?」
顔がかっと熱くなる。恥ずかしくて顔をそむけた。アレスの唇が、そむけた横顔の耳朶を食む。耳の裏も中も舐められて、レリエルはくすぐったさに首をすくめた。つま先を丸めて「変な気持ち」にぐっと耐えた。
(ヨメって……なんだ……)
だが聞くことはできはなかった。アレスの腰が再び動き始めたから。
レリエルは官能の渦へと戻される。アレスのペニスはレリエルがねだった場所を、重点的にこすってくれた。
「ひっ、あっ、あっ、あっ!ま、待って、もっと弱く……」
「このくらいか?」
「うん、そう、あぁ……っ!はぁっ……、ぁ……っ、あっ、ぁあっ、あんっっ」
激しかった抽挿が、レリエルの反応を見ながらの、愛撫するような動きに変化する。アレスの余裕の無かった瞳に、優しい色が点る。
「好きだ、レリエル。愛してる」
(えっ……)
今度こそはっきりと言われた。
快楽に翻弄されるレリエルの脳を、その言葉は閃光のように貫いた。
(愛してるって……言った……。僕のこと、愛してるって……)
(僕が……愛されてる?)
胸が締め付けられた。
心臓が焼けるようだった。
(僕が、アレスに)
信じられなかった。理解できなかった。
理解できないはずなのに、目頭が急に熱くなった。
はらり、と涙が零れ落ちた。
その時、アレスの突き上げが、ぐんと速度を増した。
「はっ!あっ、あっ、あっ……!」
愛の言葉の意味をちゃんと考えたいのに、強烈な快感に感情を細断された。
レリエルの内部で、アレスのそれは怖いくらい魅惑的に動いた。
繋がっている部分のみならず、身体中全てを、アレスのペニスに愛撫されている感覚。
レリエルは突き上げてくる快感が怖くてアレスに抱きついた。アレスの首の後ろに腕を回ししがみつき、もう嬌声をあげることしかできない。
「ひゃんっ、ぁっ、あっ、んぁぁあ……っ!」
「レリエル、レリエル、レリエル」
アレスが名前を呼びながら、怒張するペニスでレリエルの全てを蕩けさせる。もうおかしくなりそうだった。
「あっ、あっ、あっ、あっ、あんっ、あんっ、あああー……っっ……!」
ずっと翻弄され続けた快感の波に、ついに全て浚われる。まぶたの裏に火花が散り、全身をとてつもない何かが突き抜ける。それが射精なき絶頂だと言うことを、レリエルは知らない。
腹の奥、生暖かい感触が広がった。
アレスはレリエルの腰を両手でしっかりと掴み、一滴残らず注ぎ込むように最奥まで沈め腰を震わせた。
後孔から白濁が溢れるくらい、どくどくと長い射精が続く。
「あっ、はあっ、ア……レス……!」
射精と共に、レリエルの身体中の細胞を、活力が駆け巡る。レリエルの特殊な体は、布で水を吸うように精液を体内に吸収した。
背中の羽がフルフルと震えた。それはもう萎れておらず、透明な張りを取り戻し、不思議な光を放ちキラキラと輝いた。
脳天からつま先まで潤される。その癒しの感覚と、性的な絶頂の余波が混ざり合う。レリエルは恍惚とした。
精を出し切ったアレスは、まだ固さを残すものを挿入したまま、自らにすがりついているレリエルを抱きしめた。レリエルの頭を撫で、その髪に鼻をうずめる。
「レリ……エル……」
レリエルは夢見心地で呟いた。
「アレス、ありがと……。羽、元気になった……」
「……そっ……か……」
その声が悲しげに聞こえて、レリエルは不思議に思う。しがみついていた腕を緩め、アレスの顔を見た。声音の通りの悲しげな瞳がレリエルを見つめていた。レリエルは両手でアレスの顔を挟む。
「アレス、どうしたんだ?なんでそんな顔を……」
アレスは首を振って力なく微笑んだ。
「なんでも……。なんでもねえよ」
そしてアレスは、レリエルの唇に、そっと自らの唇を重ねた。
それが気持ちよくて、レリエルはうっとりと目を細めた。
(体中、アレスの遺伝子でいっぱいだ、嬉しい……)
レリエルは、アレスの睫毛が濡れていることには、気づかなかった。
※※※
ともだちにシェアしよう!